ひとこと、よろしいですか?

雪乃

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よくあるアレ。②




王都に戻るため細々な用事を済ませているうち、ジュリアンからの新たな手紙が届いたことでミーナリスは前回の返事をだしていなかったことに気づいた。


あの日は疲れていたから、次の日に書こうと思っていたのにすっかり忘れていたわ…。


申し訳ないことをしたと思いながら急ぎ目を通すと、


手紙で伝えるべきか悩んだが直接顔を見て話すべきだと判断した。
邸を空けることは難しいので戻ってきてくれないか。

すまない。



「…」



珍しく封筒に厚みがないと思ったら内容も簡潔だった。


何かあったのかしら。明日には発とうと思っていたからかまわないのだけれど、返事、はどうしようかしら。手紙のほうが早く届くだろうけど、…どうせ戻るのだし…。

このままでいいかしらね。



そう思い、ミーナリスは残りの仕事を片づけることにした。

領地の侵入者はやはり隣国の人間で、苗を盗み技術を知ろうと色々嗅ぎ回っていたことが判明した。
王都への護送も終わり、諸々の判断は中央が下すだろう。警備についても見直し、出入りも厳しくする。その許可は王都へ帯同した父が話をつけた。

労せず何かを得ようとするなど、それに携わる者たちを馬鹿にする行為だ。
水も土も変われば、おなじように育てるのは難しいというのに。

なぜ簡単に、手にできると思うのだろう。

楽な道へ逃げる。それが悪いことだとは思わない。
ただどんなことにでも覚悟が必要だと思うだけ。
それすらなく、奪うだけの人間の考えが理解できない。

それがどんなに愚かなことなのか。
当人でさえ、理解できていないのかもしれない。











夜には両親と晩餐を取り、父親と飲み比べをしているのを母親に嗜められながら、ミーナリスは楽しい時間を過ごしていた。



「ーー…それはそうと。新婚早々離れ離れで、彼は寂しがっていないかしら?」

「どうかしら。手紙では元気そうよ」

「仲良くできているのか?…今までのことを思うといまいち不安だが」

「そうねぇ…丁寧だったけれど、雰囲気は隠せていなかったものねぇ」

「…平気よ、少し話しもしたし、…謝ってくれたの」

「ほう。」

「まあ。進歩ね!」

「やめて、お母さま」

「今さらな気は否めないが、…縁だと思ってやっていこう。…しあわせになってほしいんだ、…お前だけは」

「…そうね、いつも思ってるわ。私たちのかわいいミーナ」

「……うん」



空席はそのままずっと、これからも、空のままなのだ。

兄のしあわせは、わたしたちの想像もつかないところにあった。

それを知ることは一生ないけれど、

父も母も、わたしも。

そうであってほしいと、片隅でそっと祈っている。








翌日は快晴。
愛する家族に見送られ、ミーナリスは王都へと戻った。



およそ一週間かけ、ようやく公爵邸が見えてきたころ。
門に差しかかろうと、馬車の速度が落ちたとき。



「…?」



誰かの叫ぶような声にミーナリスは顔を上げた。
侍女が訝しみ、小窓を見る。
すると蹄の音が止み、反対の小窓を護衛が叩く。



「何かあったの?」

「女が飛び出てこようとしまして。拘束していますが奥様に話があると、その、……旦那様の関係者・・・だと言っています」

「……なるほどね……」



苦い顔をした護衛の言葉に、ここでも問題が起きていたようだと、ミーナリスは夫からの手紙を思いだしていた。








「ただいま戻りました」

「ーーお、かえり、」



ジュリアンは蒼白で立ち尽くす。
突然妻が帰ってきたことに驚いたが喜び、いそいそと出迎えようと下りてきてーー。

微笑む妻のとなりに、騎士に拘束されているジーナがいるのを見て。


ーー最悪だ。


かろうじて返した言葉も冷や汗で分からなくなってくる。
同情めいた視線を寄越すミーナリスに、



「お察ししますわ」



参りましょう、と腕を取られながらまたつぶやく。



「……す、まない、こんな、」

「いいえ。押しかけてきたことは明らかですもの。
でもせっかくですから、お話を伺おうかと思ったんです」



こんなことになるなんて。どうしたらいいのか分からなーーえ?今妻は、何と言った?うかがう?


ーーなにを?



ジュリアンはその見てくれだけでなく、思考までもが萎れていった。









「お変わりありませんでしたか?長く不在にして申し訳ありませんでした」

「、いや、…すまない…」

「手紙の返事もださないで…うっかり忘れてしまったんです…ごめんなさい」



忘れていたのか。それはそれで落ち込むが忘れていたのならしょうがない。よくあることだ、人間だもの。
眉を下げ、申し訳なさそうに視線を伏せながらも平然としている妻ととなり合う。



「領地の問題は片づきました。こちらについては後ほどでよろしいでしょうか?」

「…すまない」

「両親から旦那さまにとお土産を預かっていますので、こちらも後ほどお渡ししますね」

「……すまない、」



淹れられた紅茶を飲み、妻は平然としている。



「ーーッ~~っ、!!」



猿轡をされ、もごもごと口を動かし、護衛に拘束されたままの不審者ジーナを横目に。



なんという、状況だろうか。
まったくもって何も、追いつかない。
己の不始末と、あらゆる視線の集中砲火を浴びせられ、ジュリアンの魂は離脱寸前だった。



「門番と話しまして。申し訳ないですがそのまま進めさせていただこうかと。喚かれてはお話になりませんし、冷静に会話ができるとも思えませんので。…ペンス、グース伯爵家の方に連絡を。突然の訪問をお詫びして、こちらに来ていただけるようお願いしてくださる?丁重にね」

「かしこまりました。」



そんなジュリアンの状態を正しく理解しているミーナリスが噛み砕いた説明と、的確な指示を飛ばす。
最早唸りだし、逃れようとバタバタ踠く人間にも分かるように。



「……さてそれでは、わたくしなりに把握している内容をお話しますので訂正があればその都度お願いいたしますわ、旦那さま」



はあく?そうか。妻は知っていたのか。当然だ。俺と違って賢いひとだし。
思いながら首振り人形はカクカクと動く。
すまないとしか発することのできない木偶にまともな指摘などできるのか不安でも強く頷いていた。



ジーナ・グース伯爵令嬢。



それを認め微笑むと、ゆるやかに響くが凛とした声で、ミーナリスは言った。



「パラディ侯爵家次男ジュリアンさまの元婚約者。そのジュリアンさまは今はわたくしの旦那さまで家名も変わっていることをお忘れなく。
我がデュポル公爵家に婿入りされた、わたくしの夫ですわ。
調査によるとジーナさまの悪癖は学園入学後しばらくしてから始まり、気づかれることなく様々お楽しみだったようですがーー…首を振られても、事実でしょう?我が家の調査員は虚偽の報告などしません。それが露見したのは奇しくもあの事件と同時期で、…そのときの旦那さまのお気持ちを思うと胸が痛みますわ。
そして結果婚約は解消。破棄されなかったのはせめてもの温情でしょうか。…あら違いますの?そうですか。分かりましたわ、旦那さま。
そのあとですが縁あって旦那さまとわたくしは婚姻に至りました。
けれどジーナさまはお相手が見つからなかったご様子。ご自身の蒔いたタネですから致し方ないこととはいえ、領地へ戻られ鎮静化を図ろうにも上手くいかずこのままでは後妻の道かあるいは、…といったところまで追い詰められてようやく旦那さまのことを思いだしたのか、情に縋ろうと遠路はるばる我が家へといらした。
…そのように結論づけますが、お間違いないでしょうか?」



そうしてミーナリスは優雅に、カップを持ち上げた。
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