ひとこと、よろしいですか?

雪乃

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異議ナシ。




「ーー…この度は馬鹿娘が迷惑をかけ誠に申し訳ない。閉じ込めていたはずがメイドを丸め込み抜け出したことも気づかず…。
…ここまで馬鹿だったとは縁談のためとはいえ一時でも領地から連れ出したのが間違いだった…いや、…そもそもとうの昔に判断を誤り、…お詫びのしようもありませんが如何様の罰でも受け入れます。…大変申し訳ございませんでした…」

「~~~ッッ、!」



己の両親がしょぼくれた様相で頭を下げているのを、怒りやら羞恥やらが混じる激しい思いでジーナは見つめていた。
猿轡なんてされてるせいで自分の言い分も、言いわけすら述べることもできない。
それでなくても自分の遊び・・について洗いざらいジュリアンにバラされ屈辱でいっぱいのところを、すまし顔で微笑んでいるミーナリスに感情をぶつけたくてたまらないというのに。

これでは自分ひとりが悪者になってしまう。
どうにかして、何とかして巻き添えにしなければ自分だけが酷い目に遭ってしまう。

ジュリアンは最早抜け殻同然で使いものにならない。
思えばつまらない男だった。そそる魅力もないただの優男。普段から言いなりなくせに誘ってやってもやんわりと断られいったい何様のつもりかと憤った。別れ話のときは落ち込んだ様子で未練がある素振りを見せて、だから最後の手続きにも現れなかったのだ。
自分を見れば縋ってしまうからーーそのときにはべつの相手がいたからもちろんそうされても袖にしただろうけど。

とにかくそれを知っていたから今回会いにきてやったのに。
三十も歳の離れた男の後妻なんて冗談じゃない。修道院なんてもってのほか。
自分に未練たっぷりだろうとわかっていたからわざわざこちらからきてやったのに。

なんて情けない男だろう。度胸も男らしさの欠片もない。
たった半年でこんないけすかない女の尻に敷かれ心変わりをするなんてそんな男、こっちから願い下げだ。

この際誰でもいい。使用人や門番のせいにでもして、何とか切り抜けなければ人生が終わってしまう。





ーー余談だが。

父親が話をつけてきた後妻に入る予定だった相手の子爵家当主には、世間に憚られる悪人だとか、特殊な趣味があったりだとか、そんなことは一切ない真っ当な人物である。
後妻といっても婚姻制度は一度のみなので実質愛人のような立ち位置になるのだが、当主は余生のため茶飲み友だちができればいいなぁくらいの気持ちで引き受けた。
当主から見れば娘同然の年齢であるし所詮子ども。それが披露する手練手管などたかが知れてるし、当主が愛しているのは亡くなった妻だけなので骨抜きにされるなどあり得ない。
人物像も聞いているので逆に悪さをしようと企むなら自身の子どもたちとともに、くどくどと教育を担ってやろうとすら考えていた。それも暇つぶしになる、と。


つまりジーナにとっては然程悪い話ではなかったのだが。
両親が説明したにも拘らずロクに話も聞かずに頭から跳ねつけていたジーナは知る由もなく、
どうやったら猿轡が取れるか、誰のせいにすべきか、どうしたらこの状況から脱せるか。

そればかりを考え、ない知恵を必死にふり絞っていた。









「謝罪を受け取ります。どうかお顔を上げてくださいませ。…こちらが望むことはひとつ。
デュポル公爵家に関わる者、土地、すべてに於いてご息女が近づくことを一切禁止いたします。

万一背いた場合問答無用で切り捨てますわ。」



よろしいですか?



満遍なく陽が当たり咲き揺れる花のような笑顔で言ったミーナリスに、一同は薄ら寒い気配を隠せず硬直した。

ふがッと唸り暴れるジーナを除いて。


それに気づき父親ははっと息を吹き返したように佇まいを正し、力強くうなずいた。



「…承知した。…それで慰謝料など、他には…」

「必要ございませんわ。…?なに?ペンス…あぁ!いやだわ忘れてた…申し訳ありませんグース伯爵さま、…こちらの書類にサインを頂戴できますか…?内容を確認していただいて…」



何をちょっと照れた感じで言っているのか。
ジーナはわけがわからなく、ミーナリスという女に不気味さすら感じていた。

父親はモノクルを取りだし書類に見入っており母親はハンカチを押し当てるばかり。
ジュリアンの手まで書類に伸びている。




しかしそんなことより。ぶんぶんとジーナは頭を振り考える。



近づけば殺されるーー。


どんな罰を受けるかと気が気ではなかったが、それなら近づかなければいいのでは?
ジュリアンなどもうどうでもいいし、脈のない男になど興味はない。
駆け引きは相手が乗り気だからこそ楽しめるのだ。


だからたいしたことないのでは?

しばらく大人しく過ごしてほとぼりが冷めたら、伝手を頼って今度こそバレないよう嫌がらせでもしてやればいい。
自分だとバレなければいいのだから、方法などいくらでもあるだろう。



ーーなァんだこの女、馬鹿なんだ。




そう理解したジーナは暴れることを止め静かになった。護衛の怪訝な表情も目に入らない。
まだ先になるだろうけどもどうやって、今日の仕返しをしてやろうかということに思考が飛び、新たな楽しみに向けて意識はとっくにそちらへ向いていたから。





だから引き続きされている会話の内容など、まったく聞いていなかった。


あくまで処罰対象はジーナのみ。
だが関わりが露見され次第ーー直接間接関係なく、その対象になること。

それを確認した父親がジーナを除籍し放逐するつもりでいること。


つまり平民に落とされることが決まったことを、ジーナは知らないままであった。


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