1 / 23
のるかそるか
しおりを挟むもうはっきりいって、我慢の限界。
目の前の見慣れた光景に、目を眇める。
そんなわたしを見て、
琥珀色の髪の彼は、おなじ色の瞳を揺らし。
ピンク色の彼は、びくりと肩を揺らした。
わたしは婚約者がすきだ。
婚約者もわたしがすきだ。
気の強い侯爵家のわたしと、穏やかな性格の伯爵家の彼。
事業の関わりもあって五年前に婚約が整った。
最初はお互いぎこちなく、会話なんてほとんどなかった。
けれど二回目のお茶会に、彼はわたしのすきな花を用意してくれた。
三回目はお菓子。四回目は紅茶。五回目は本。
そして初めての誕生日には、髪飾り。
彼の琥珀と、わたしの紅玉が混じり合うような色のちいさな宝石の細工がしてあった。
回数を重ねてゆくうちに彼の優しさ、まじめさ、辛抱強さ。
家族を大切にし、照れ屋なのに話をするときはしっかり目を見て聴いてくれるところ。
少年から青年に変わり、すらりと背は伸び細身なのに鍛えられた体躯。
薄いくちびるに整った鼻梁。やわらかい髪。
涼しげな目もとにあたたかい色の瞳がやわく細まり、
愛おしむように見つめる琥珀の繊細さに、わたしはすっかり虜になってしまった。
デビュタントの夜に世界でいちばん優しいくちづけをうけて、わたしたちは未来を誓い合った。
わたしたちはたしかに信頼と愛を育み、日々を大切に過ごしてきた
ーーはずの、わたしたちに。
雷鳴轟く暗雲がもくもくもくと立ち込めてきたのは学園に入学して一年が過ぎたころ。
彼の幼なじみだという人物が療養を終え、編入してきてから。
『…勉強苦手だったけどどうしてもロニーとおなじ学年に編入したかったから…っ』
ふたりでランチをとっていたところ急に現れ両手を胸の辺りで組み、涙目で彼に縋る姿をわたしは新種の魔獣を発見したかのような気になり、手を止め観察するように見ていたものだ。魔獣なんて見たことはないけれど。
彼は驚きながらも再会の挨拶をしたあと、わたしを紹介してくれたのでこちらもと思いはしたが。
『そうなんだよろしくねっっ!』
多数の衝撃を受けていたため初動が遅れてしまったことは否めない。
ハッキリ言って肺を患っているのなら領地に引っ込んでいればいいのにと今も思っているのだけれど成る程、大病を患っているのはほんとうらしい。
まず、名乗り。
次に、言葉遣い。
そして、態度。
最後に、いっしゅんわたしに向けた視線。
それは多くの令嬢が彼に向けるモノとなんら遜色なく見えて。
そのときわたしの頭に警告が鳴り響いた。
そしてそれは正しかったことが証明された。
ランチに混ざるようになり、下校も重なる。
クラスは違うけれど休み時間のたびに現れる。全体科目はペアになりたがる。
はしたなく(?)廊下を走り大声で彼を呼ぶ。
腕に巻きつく。ひっつく。甘える。たまに転んでみせる。病弱をアピールし、不安を訴える。
デートやお茶会に参加したがる。休日を独占したがる。
彼が断ると、泣く。
人目を憚らず、どこでも。
ついには領地にいるという幼なじみの両親から手紙が届いたと、土下座をする勢いでわたしに謝ってくれた彼。
"環境に慣れるまで少しでいいから面倒を見てやってくれないか"
恐縮混じりの文面を察した心優しい彼が断れるはずもない。
そうして正当な権利だと言わんばかりに彼の左ポジションを手に入れたのだ。
わたしとの約束はだんだんと守られなくなってきた。週一回のお茶会が月一回になり、休日を過ごすのも月一回あればいいほう。
誕生日も過ごせず夜会は謎の三人行動。学園生活も登下校までもちろん一緒。
邸に泊まらせてくれと言われそれだけは固辞していると、彼が話してくれたのはいつだったか。
約束をキャンセルされても手紙や贈り物は届く。
わたしをすきでいてくれることも、わかる。
やましいことはしていないのだ。だってーー
友だち、だから。
しかも、同性の。
けれど女の勘が告げている。
キャシディ・リン男爵令息は、彼を狙っている。
同性が恋愛対象のひとは少なからずいる。性的指向をとやかく言うつもりはない。
何より彼はまったく気づいていない。
それなのに"たぶんだけど、かはんしん狙われてるよ"などと言えるだろうか。
それに個人的な想いを勝手に伝えるなど卑怯ではないか。いくら立場を軽く扱われているとしても矜持がある。
姑息なマネをするなんて、輩とおなじ土俵になど立ちたくもない。
ーー…と思いここまでやってきたけれど限界がきたようだ。
人間関係は大事だ。社交を培う。上手くやるか、あしらうか。養う目はどうしても必要で。
気づいてほしいと思う部分もあった。何も言ってなかったわけじゃない。
でも友だちとわたしどっちが大事なの!?なんて、心の狭い人間だと幻滅され、きらわれたくなかった。
わたしは自分にも彼にも、幻滅しているのかもしれない。
大変さみしく、かなしい。
「…………婚約、解消しましょうか」
つまるところ疲れていたのだ、わたしは。
10
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?
Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。
簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。
一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。
ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。
そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。
オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。
オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。
「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」
「はい?」
ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。
*--*--*
覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾
★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。
★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓
このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。
第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」
第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」
どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ
もしよかったら宜しくお願いしますね!
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
今夜で忘れる。
豆狸
恋愛
「……今夜で忘れます」
そう言って、私はジョアキン殿下を見つめました。
黄金の髪に緑色の瞳、鼻筋の通った端正な顔を持つ、我がソアレス王国の第二王子。大陸最大の図書館がそびえる学術都市として名高いソアレスの王都にある大学を卒業するまでは、侯爵令嬢の私の婚約者だった方です。
今はお互いに別の方と婚約しています。
「忘れると誓います。ですから、幼いころからの想いに決着をつけるため、どうか私にジョアキン殿下との一夜をくださいませ」
なろう様でも公開中です。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる