あざとかわいいとか自分で言うのどうかしてる【完】

雪乃

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井の中の蛙ーズ

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その声は談話室のある上階の階段辺りから、すでに響いていた。



魔法拡声器要らずの音量だわ。室内にしか防音魔法は施されていないというのに。

…ロビンと性悪だけの室内には入れないし…クルトとベルが来るまであとどれくらいかかるかしら…。階段を上りきって、はしたないけれど影よろしく様子を伺う。


「…」


ひどいだとか暴力女だとか。
どうしてこんなことをするのかとか、週末はなんで会ってくれなかったのかとか。

とにかくひどい、ということを。

ロビンに襟首を掴まれたまま、手首が痛いと両手足をバタバタさせながら喚いている。
…痛いのではないの?元気いっぱいじゃあないの。病弱設定はどうしたのよ、まったく。



……ほう……邸まで押しかけたのに会ってもらえなかったのね…。アラ、朝も一緒ではなかったの。
だから寝坊?自己管理の問題でしょう、それは。
尤も、あなたがいちばん苦手とするものだろうけれどね。


ロビンはずっと無言でいる。無表情だけれど、あの至近距離での騒音はキツいはずだわ。


…今何を、思っているのかしら。

ーー…わたしの手紙を読んで、何か思うところはあったのかしら。






「ーーついに修羅場ですか、お嬢様」

「!……、クルト、……忍び寄るのは止めてちょうだい……早いわね」

「お嬢様のマネです。先に馬で来たんですよ。ベルももう着きます、…たぶん」

「ならもういいわね、ありがとう。行きましょう」


物陰から現したわたしに気づいてロビンが表情を緩ませた。それを見た性悪がいっしゅん静かになり、振り返ろうとしたのを羽交締めにし口もとを押さえる。


「……ごめんなさい、ロビン。大変だったでしょう……聞こえていたわ」


見ていたし。

ちょっぴり罪悪感を込めて伝えれば、伏し目がちに小さく首を振る。


「…平気だよ。…俺のほうこそ、…ごめん。……クルト、」

「どうも。」


おなじ家格の家同士。仲は良かったのに、疎遠になってしまっているのは否めない。


「……リン男爵令息。この先無礼な物言いはしないで。でないと、」


暴れていた性悪がぴたりと動かなくなる。


「…わたしの護衛騎士よ、名前はクルト。
命と名誉を守ってくれるの。あなたが己の身を守る術は、大人しくして、礼節ある態度で、をすることだけよ。わかったなら頷きなさい」


憤怒に染まっていた顔色は蒼白に変わり。

首もとに突きつけられている剣と、わたしの顔とで大きな目が忙しなく動き、まるで逃げたいというように無理矢理顎を引きながら器用に首肯した。










念のため体調は平気か聞くとこっくりと頷いたから、でしょうねとこっそりため息を吐く。


「ーー…なぜ、あのようなことを?」

「…」

「あなたが感情任せに起こした行動と不用意な発言で、わたしたちは不利益を被ることになる。わたしは婚約者に蔑ろにされ下位貴族に侮られる者として、ロビンは婚約者がありながら不貞を行う者として、

…あなたは身分も弁えず婚約者がいる男性に言い寄るアバズレとして。」

「…っ」

「噂はきっと広まるわ。真実なんてどうでもいいんだもの。むしろそうでないほうが面白おかしくできるわね、噂なんてそんなものだから」


一人で座るわたしの後ろにはクルトとベル。
性悪はまた両手をぶるぶるさせながら俯いて、二人ぶんのスペースを空けて座るロビンは頭を抱えていた。


「…お互い痛手を被るわ。……あなたはこんな風に、…ロビンに想いを伝える方法が正しいと思ったの?他人を貶めて、自分の意を押し通すのが。それを、ロビンが受け入れる、と?」

「…っだってぼくはロニーが好きだった!昔か
ら…!お、っ……き、みが知り合うずっと前から…!」


よく泣くわね、まったく。眼球がぐずぐずだわ。


「だからといってなぜ正当な婚約者であるわたしが犠牲にならなければいけないの?
それに好意の押しつけはただの暴力だわ」


その目を見開くと次第に歪ませ、甲高い声で違う!と叫んだ。マンドレイクの悲鳴というものはこんな音なのかもしれない。生気が奪われてゆくようだわ。


「…何が違うの…あなた少し声のボリュームを落と、「違うッ!…ちがう…っぼく、ぼくは約束してる…っ!…ぼくとロビンのほうが、先に結婚の約束してるんだよぉ…ッ」





「…………は、?」
「ーー」
「ぷっ」
「……なんですって……?」



ぴえんと泣き出した性悪へ、それぞれに言葉を発した六つの目が向く。

わたしはそのとなりのロビンを見ていた。
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