愛を乞う獣【完】

雪乃

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ユラ⑤

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自分は何をやっているんだろう。



思いながらも腰を振るのを止められない。
髪も、目も、匂いも、すべて違う。
甘く漏れ出る声も、求めていたものじゃない。
なのに止められない。
叩きつけるように腰を振りたくり、ぶるんぶるんと揺れる胸を鷲掴み、先端に噛みつく。
そうすれば女のなかがうねり、生き物のように蠢き締め付けるのをとっくに知っていた。











ルーシーに暴力的な行為を強いた日から触れることができなくなっていた。
スキンシップのような触れ合いはできても、その先へ進むことがどうしてもできなかった。
ルーシーは悲しそうにして何度も謝ってくれた。
もう終わるころだと思い、着替えを取りにきたんだと。
俺のせいじゃない、悪いのは自分だと、
約束を破ってごめんと。

ルーシーが謝ることじゃない。彼女の言う通り終わりかけてた。
ただ俺が、自制できなかっただけだ。その挙句傷つけて。
救いは身体に残るような傷がひとつもなかったこと。
傷つけたことには変わりないが心からよかったと思った。


ーー同時に、残ればよかったのにと思う自分がいることに愕然とした。
なぜ残さなかったと、怒りにも似た感情。
一生消えない傷を与えて、一生愛でて癒すのも俺でありたかったという、
所有欲や独占欲、そんなものよりもっとどろどろして薄汚れた感情が奥底で塒を巻いていた。
支配欲。それに近いものかもしれない。

俺は本気で、ルーシーを喰らってしまいたいと思うようになっていた。

その血と肉を身のうちに取り込んで自分だけのモノにしたい。
どれほど満たされるだろう。
すべてを捧げ合い、一生を共にする。
ヒトは短命だ。散る花のように儚い。
たとえ話すことも会うこともできなくなったとしても、俺のなかで永遠に生き続ける。

これほどの深い愛があるだろうか。




そんな狂ったことばかり、考えてた。



触れられない。
笑顔が減った。
喰いたい。

喰いたくない。



そんなことばかり考えていたからだ。




薬の効きが悪くなり、不安定になっている。
これ以上ルーシーを不安にさせたくなかったから強い薬に頼り、笑って過ごす。
それが切れればまたぐらつく悪循環。
いやでも溜まる行き場のない熱が身体を蝕んでゆく。




『いってらっしゃい。待ってるね』



仕事に向かう朝、いつものようにルーシーが見送ってくれた。
初めて会ったときのように、無造作にくくった髪で笑っていた。
わけもわからずたまらなくなって抱きしめる。
やわらかい髪が頬に触れる。
俺の腕のなかに収まって、ちいさな両手が背中にまわり俺を掴む。


『……戻ったら一緒に治療院に行こう、ユラさん』

『っ』

『王都に専門のところがあるらしいの。…わたしはわからないから、…つらいのに、何もできなくてごめんなさい…』

『…………愛してる、ルーシー、っ』

『わたしも愛してます、ユラさん』


潤んだ瞳が真っ直ぐ見上げてくる。
まぶしくて逸らしたくなる。
躊躇する俺にルーシーが近づいて。


ぴたりと重なったくちびるがあたたかくて、
いとおしくて、
このまま死んでもいいと思った。













『ユラ!お疲れさん交代だ』

『お疲れ。問題なかったか?』

『ねえよ。引き継いだら上がっていいってさ。飛ばせば暗くなるまえに街に戻れるぞ。愛しのルーシーちゃんが待ってんだろ?』

『あぁ、』

『あの笑顔は癒されるからなぁ~好みじゃねえけど。』

『……お前番持ちだろうが。好みとか言ってんなよ』

『妬くなって冗談に決まってんだろーがよ。じゃあな、早く戻って安心させてやれよ~』


虎獣人の同僚は同期でつき合いも長い。
粗野で乱暴な男だったが、番ができてから見違えるように変わった。

もうすぐ父親になるんだから、当然かもな。




手を上げ、帰り支度のため反対側にある詰め所の建物に戻る。


陽は沈んだばかり。たしかに飛ばせば帰れるな。




貴族の護衛任務で、初めて来たこの街にも獣人街があるらしい。
技術職人が多いらしく、アクセサリーが特に人気だと聞いた。


…指輪は一緒に選びたいからな…首飾り、もできればそうしたい。
今朝のやわらかい髪の感触を思い出し髪飾りにしようと、適当に目についた店に入る。
どれがいいのかさっぱりわからず店員と相談しながら決めたのは、
銀色のなかに星のように紫が散りばめられてる細かい細工の髪飾り。

俺と、ルーシーの色だ。


早く帰ってつけてあげたい。
喜んでくれればいいけれど、ルーシーは無事に帰って来てくれたとそれだけで喜ぶ女だ。


きっと似合う。


早くかえろう、家に。

俺たちの、家に。







隊服にしまって、馬留めに戻ろうと、


した。




ルーシー。


俺は、帰ろうとしたんだ。

帰りたかった。


ごめん。
ごめん、ルーシー。
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