愛を乞う獣【完】

雪乃

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ルーシー⑦

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わたしは夢も見なかった。

夢ではないと知っていたし、

もう夢なんか、見たくなかった。








「お。起きたか?」




お母さんとおんなじ栗色の髪でわたしを覗き込む。
優しい、おんなじ笑顔で、笑いかける。


「、ーー…」


……ワード叔父さん、


「ルーシー?どうし、ーーお前、…さっきも変だと思ったがもしかして声、出ないのか…?」


諦めて口を閉じて、喉を押さえながらうなずくと叔父さんは怖い顔をして、逆に開けたままになった口でちいさく何かをつぶやいたけどわたしには聞こえなかった。
息を吐いてから、大丈夫だ。そう言ってまた笑顔で頭を撫でる。



「みんな待ってる。…家に帰って家族と過ごせばきっと良くなる」



その言葉に、くちびるが震える。



お父さん、お母さん、お兄ちゃん。みんな。




何も伝えてなかったのに、どうして知ってるの?
どうして、わかったの?

でもそんなこと今は、どうでもいい。


迎えに来てくれた。
家に帰れる。

もう、帰りたくないなんて、思わないで済む。

今は、帰りたくてしかたない。



泣きすぎて痛む目のまばたきを増やして、
こく、とまた、うなずいた。
叔父さんは目を細める。寝るか?と聞かれ、首を振るのにわたしがもたれると背中をぽんぽんさすられる。
…重くないかな、もう子どもじゃないのに。

思いながらもなつかしい膝抱っこに甘えていると、



「仲良しなんですね。」



思わずびくっとするくらい、尖った声がした。


「やめろリツ。なんだよ羨ましいのか?」

「はい。」

「「…」」


え、と。恐る恐る、声のほうを見る。


黒髪に、黒眼。青白い肌。

驚くほど綺麗な顔で、


じ、…と無表情にわたしを見ている、ひと。



……このひとも、そうだ部屋に、きた、



お礼、でも、言えない、


叔父さんにしがみ付きながら頭を下げると「さっきぶつかりそうになってました」また疑問符が浮かぶようなことを言われる。


「、…?」

「少し砂利が多かった場所を通ったとき、ワード様がふらついてルーシーお嬢様を壁にぶつけそうになってました。俺ならそんなことしないので、交代したほうが安全かと思われます」


他意はありません。そう言って、両手を広げる。



え。



「んなことしてねえよ!何言ってんだお前その手やめろ!」

「…俺のほうが安心なのに」

「だーまーれ。…ルーシーごめんな?こいつリツっていって俺の部下なんだ。
悪い奴じゃないから、よろしく頼むな。
レジー様に挨拶させるために同行させてんだ」


……なる、ほど、……?さっきの言動はなんだったんだろうと思いつつ、わたしはまた頭を下げた。


「よろしくお願いします。…どうぞ」


リツ、さんは両手を広げたままだ。


え。……え、?……ちょっと、むり、というか、

……むり。


首を振ったら、「…そうですか。」まるで残念がってるみたいに言って手を下ろして、うつむく。


「…、」


なんていうか、


「いや何落ち込んでんの?落ちんのこっちだわ。てかお前初対面で膝に乗せようとすんな!」

「ルーシーお嬢様の身の安全を考慮しただけです。さっきほんと、危なかったんで」

「だからねえって!ルーシーなら三人いてもよろけねえしぶつけねえよ!」

「俺は五人でも余裕です」

「何その対抗意識!何張り合ってんの!」


変わってる。おもしろい。

おかしくて、笑ってしまう。





笑ってる自分に気づいて、少し落ち込む。


がっかりする。
なんだ、わたし、もう笑えるんだ、って。



「…ルーシー?…外見たいのか?わかった下ろすぞ。気をつけて、……だ」


窓を指差したわたしに気づいて、どこを見たいのかにも気づいてくれる叔父さんが指す方向を見つめる。



見慣れた景色は見えなくて、もうずいぶん、離れてしまったんだってわかる。

遠くなる。遠ざかる。


一面の穂が照らされて、輝いている。


瞳とおなじように、金色に。





ユラさん。
ユラさん。

…………ユラさん。



迷子だったわたしを、見つけてくれてありがとう。
好きになってくれてありがとう。


しあわせになって。
死なないで。
生きて。

笑ってて。






さよなら。

さよなら、ユラさん。







窓に手をついて、いつまでも見ていた。



そんなわたしの姿を少し不機嫌そうに見つめる目と、それを呆れるように見つめる目には気づかないほど、



もう戻れない道が、細く消えてゆくのを見ていた。


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