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リツ⑧
しおりを挟む「…っ「大丈夫です、そのまま」
強く握られた手を引き寄せて囁いた。髪が触れる。
こんなに近くに、感じたことはない。
ぐっと堪えて、背中に覆いながらその元凶を振り返った。
そこには予想通りの男がいて、必死な顔で言い募る。
「話を聞いてくれないか…っ少しでいいから…!」
「お断りします」
「ッ、…お前には関係ないだろう!」
「俺は護衛です。接触は控えていただくようお話がありましたよね?どうぞお戻りください。失礼します」
たぶん間に合わないと思いながら、足早に動かす。
「…ルーシーちゃん!あいつ、…ユラも来てるんだ…!」
手だけじゃ心許ないから、腰を支えさせてもらってよかった。
立ち止まるからほとんど抱えるように抱き込んだが、この腰の細さは暴力的だ。
俺がまた場違いなことを思っていると、嘘でしょ。と、そのなかでつぶやく。
こんなにそばにいるのに、俺がいるのに、
このひとのなかに降り積もり揺さぶるのは、いつだって俺じゃない。
ぐ、と手に力を込める。
何も起こらないまま、知らないまま過ぎればいいと思っていたけれど、やはりそう上手くはいかないらしい。
ーー知られたとしても、
「会いたいですか?」
「っ、」
「……駄目ですよ、会わせません」
やることは変わらない。
想いは変わらない。
あなたは誰にも、渡さない。
最後に言ったことが聞こえていたかどうか、確認することはできなかった。
小鳥みたいに、小動物みたいに震える姿が、
被食者のようで見ていることができなかったからだ。
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「……今さら何の用なのでしょうか。あなたを使って呼び出して、それから何をするつもりですか?
まさかやり直したいなどと、戯れ事を…?」
「違う!あいつは何も言ってねえよ!ただ話を…っ、…ルーシーちゃん…頼むから一度会ってやってくれないか…見てらんねえんだ…」
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あなたがしていること、いったい誰のためになるのですか?」
「…ッダチが苦しんでたら助けたいと思うのは当たり前だろ!」
「そうですね…その通りだと思いますが、このひとを巻き込むのはやめてください。
傷つけられた当人が傷つけた本人を癒せなんて、そんなおかしな話はないでしょう」
優しいこのひとなら、このまま絆されて了承してしまうかもしれない。
その隙を与えないために口を開かせないようにしていると、ドアが開き他の団員と雇い主の姿が見えた。
「…ッ、ルーシーちゃん…!頼むよ…ッ」
そちらに目配せをして、諦めきれないように縋り懇願する声を背に、抱き上げて部屋へと向かった。
ドアは開け放したまま、ソファーへ下ろす。
「……泣いているかと思いました」
ひざまづいて見上げ問いかければ、ゆるく首を振る。
難しい表情をしている。
解けない難題があって、それにどう答えたらいいのかわからないというように。
「…………知ってたんですね、リツさん」
「…」
「……ごめんなさいわたしのため、ですよね……」
「…心配なんです。俺だけじゃありません」
「わかってます…だめですね、わたしほんと甘えてばっかり…」
「甘えてください、もっと」
「…あ、まえてます、よ」
「もっと、です」
「っ、…リツさん最近おかしいです」
「……おかしいですか?」
「、…」
「…そうかもしれません。
俺の言葉であなたが感情を乱すのがうれしいと思ってしまっています。
…先ほど起こったことがどうでもよくなるくらい、俺で頭がいっぱいになればいいのにと思っています」
「…っ、」
紫色の綺麗な瞳が揺れている。
俺を見て、俺を映して、俺を捕らえている。
追い詰めてるのは自分だと思ってたのに、
とっくに囚われているんだと改めて気づかされる。
「……どうかここにいてください。俺のそばに。
あなたが後ろめたく思う必要も、気に病む必要もありません。
あなたを見ていました。どれだけ愛していたか、傷ついたか知っているつもりです。
……それでもどうか、ここにいてくれませんか」
ーーあの夜からずっと。
「あなたが好きです」
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