オムニバス 〜恋愛短編集〜

さの茶丸

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異世界で出会ったイケメンは過保護なヤンデレでした(美醜逆転、独占欲、ヤンデレ)

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「ここに居たのか。戻るぞ」


いや、ここにって
あなたの家の庭内なんですけど!?


異世界に吹っ飛ばされた先は
美醜逆転された世界で
純日本人のこの顔が美人で
俗に言う欧米系のイケメンが醜いとされていた

森で彷徨ってる時に
ユースに保護され今に至る


なんていうか出会った時は
もっと距離があるというか
最初仮面かぶって顔隠してたし
必要以上に近付こうとしてこなかった

それがたまたま彼が仮面を外したところを見てから
過保護になったのだ
ちなみに仮面の下は彫りの深いワイルドな顔立ちだった
黒い短髪に浅黒い肌頬にできた大きめの古傷が余計にワイルドさを際立たせていた
つまり何が言いたいかと言うと
とてつもなくカッコよかった。眼福。



私を家に置いておきたがる
ちょっと離れただけで家中ひっくり返す勢いで探し始める

勿論外に出るなんて論外
家中至る所に鈴が付いてあって
玄関のドアを開けるものなら
けたたましいサイレンが鳴り響く


「外は危険がいっぱいなんだ!頼むから家の中に居てくれ」


そう悲痛な面持ちで言われてしまえば
頷くほかないのだ


そんなある日訪問客がやってきた
私が家から出ればユースに伝わるようになる装置を付けてから
少し落ち着いた気がする彼は
たまたま仕事明けで部屋で眠っていた


「どちらさまですか?」


ドアを開けるとサイレンが鳴り
疲れているユースが起きてしまうため
扉に付いている窓から顔を見せつつ部屋の中から声をかける


「ユースの同僚だ。この書類を届けに...嘘だろ...?」


書類から顔を上げた同僚さんは
私の顔を見て固まった


「あの...なにか?」


「こんな女神を隠していたのか...ユースは」


「はい?」


この世界ではイケメンにあたるのであろう
こけしのように薄い顔をした同僚さんは
そう言うと窓に思いっきり顔を近づけてきた


「なんと美しい...」


そう言いながら鼻息荒く見つめてくる顔に
危機感を感じ体を引いたのと
衝撃音がしたのは同時だった



ーーーーーーー


ユースside


俺の名はユース
森の番人をしている
この森では魔獣が多く
命知らずの冒険者が度胸試しに来ることが後を絶たない
そいつらを追い返すのと
魔獣が増え、町に被害がいかないよう魔獣を間引くのが俺の仕事だ


無駄に力を持て余し
見た人が汚物を見るような目になる顔の醜い俺にはぴったしの仕事ってわけだ
更に俺の顔には細かい傷跡や
左の目尻から口の端にかけて大きな古傷がある
顔が醜いだけに飽き足らず
怖がられて近付こうとする奴もいない
だがそれでいい
もう受け入れてもらおうとする気さえ失せた
ここには俺を見て蔑む奴もいない
死の森と言われている森だとしても
俺にとっては天国だった

そんなある日
誰かが森に入る気配がした
入り口から入ってくるというより
気づいたら森に現れたという方が正しい
そんな感覚だった


どう入ってきたとはいえ
追い出すのが俺の仕事だ
俺は念の為仮面をかぶると気配のする場所へ向かった



俺は夢を見ているのだろうか
目の前にいるのは天使か?
不安なのか困った顔でこちらを見つめる女性は
白く透き通る肌に
涼しげな目元に
桜色の薄い唇をした
天使だった

そして仮面を被ってるとはいえ
腕にも無数の傷がある俺を見ても
怯えることもなく
ただ森を彷徨う状況に戸惑っているようだった


遠いところから来たのだろう
何を聞いてもよく分からない返答が返ってくるだけだった
だが都合がいいのではないか
顔を見せてない状態とはいえ
傷だけで恐れられ誰も近づいてこないはずなのに
この子は怖がらずにそばにいてくれる
誰かと共にいる。そう諦めていた心に希望の光が差した


ここが危ない森だと説明し
しばらく俺の家に住まないか誘うと
すぐに頷いた
自分で誘っておきながら
一切怪しむ様子のない彼女に不安を覚えた
もし、彼女が先に出会ったのが俺じゃなかったら...
この時ばかりは産まれてから憎んでしかいない神に感謝した


彼女の名前はユーカというらしい
俺と似た名前に嬉しくなる
ユーカはころころと表情が変わるから見ていて飽きない
仮面越しとはいえ俺を見て話してくれる
だから勘違いしそうになる
この仮面を外しても笑いかけてくれるのではと
今まで何度も期待を裏切られてきたというのに


食事なんて誰かと取ったことはなかった
仮面の下が見えないよう細心の注意を払いながら食べた。
そんな俺を気味悪がることもなく
ユーカは一緒に食べてくれた
距離が近いと素顔が見えてしまうかもしれない
俺は敢えて付かず離れずの距離をとった
近づくわけにはいかないが離れることも出来ないのだ
ユーカには申し訳ないが俺はもうユーカ無しでは生きていけない



そんなある日だった
ここの森にしては珍しく蒸し蒸しとした暑い日だった
仮面の内側が蒸れて気持ち悪いと思った俺は
ユーカが庭内で花を眺めている内に
サッと顔を拭いて仮面を洗おうと思った


「いつまで俺は...」


そう洗い終わった仮面を見て呟く
いつまでユーカに素顔を隠し続ければ良いのだろう
街に行けばもっと楽しいことやユーカのしたい事が出来るかもしれない
もしかしたら故郷に帰ることができるかもしれない
でも、俺は危ないから外に出るなと必死に引き止め
ユーカの優しさを利用する
俺は顔だけでなく心まで醜くなってしまったのか


「ユース...?」



声のした方に振り向けばこちらを驚いた顔で見るユーカの姿があった
何を驚いて...っ!!


「っ!!」


俺は馬鹿だ。仮面を外したまま物思いに耽るなんて
そしてドアを開ける音すら気付かないなんて
俺は咄嗟に顔を隠した
ユーカの顔が歪むのを見たくない
ユーカに蔑まれたら俺は...俺は...!!


「やっぱり!カッコイイと思った~!」

突然の事に何を言われたのか分からなかった
俺は混乱しすぎてありもしない妄想と現実がごちゃごちゃになってしまったらしい


「スタイルからしてイケメンだろうなぁって思ってたんだよね!どうして今まで顔隠してたの?もしかしてモテすぎて困るから?」


どうやら現実らしい
目の前でこの俺を傷だらけで醜い俺を
ニヤニヤしながら褒めちぎるのは他でもない
本物のユーカだった


さっきまでの暗い気持ちが嘘のように晴れた
近づいても離れるどころか
顔を赤く染め上げて慌てながら恥ずかしがるユーカに俺はもう耐えられず抱きしめた


ユーカは少し身じろぎしたものの
俺が少しこのままで、と言うと
体の震えが伝わったのか
力を抜き、背中を撫でてくれた


ユーカ、俺はもう...お前を離せない



それから俺はユーカに対する独占欲に拍車がかかった
ユーカは俺が心配性に見えるかもしれないが
心配性なんて軽いものじゃない
ユーカを誰かに見せるなんて以ての外
存在を知られたくないし
他の男を知って欲しくない

だからいるはずのない王都からの使いの男がユーカと近距離で会話しているのを見て
目の前が真っ赤に染まった俺は
気付いた時には同僚をドアごと殴り飛ばしていた



ーーーーーーー

悠花side


ジリリリリリ!!
ドアが開いたことにより作動した装置が
けたたましく鳴り響く


後ろに気配を感じ、振り向くと
そこには目をギラつかせ
小刻みに身体を震わせながら
荒い息遣いをしているユースが立っていた


「ユ...!!」


そのただならぬ様子に
声をかけようとした瞬間
ユースに抱きしめられた


「どうしたのユー...「やはり閉じ込めるべきだった」え?」


ちょっと今不穏な言葉が...
今の状況とそう変わらない気もするけど
たとえ庭でも出れなくなるのは辛い
いやいや、というかなんでそんな話になったの?


「ユースさん?ちょーっと落ち着いて...「ユーカが他の男を見てしまった。ユーカの記憶を消せないなら忘れられるようにいっそアイツを」わーーっ!ほんと!落ち着こう!ね!?」


言葉を遮ってくるのは置いといて
ユースが何故か闇落ちしそうになっているのを止めなくては


「なにを不安になってるのか分からないけどあの人と引き離してくれたのは感謝してるから!方法はちょっと過剰だった気もするけど...でも!急に手を取られて顔近づけられて怖かったのも本当だから!だけど殺すのはなし!オッケー!?」


ぶつぶつと不吉なことを言うユースに
慌てて喋り過ぎて変な言い方した気もするけど
私の言葉が届いたのか
少しずつユースの呼吸が落ち着いていく


「...アイツを好んではいないのか?」


「なんで!?あり得ないから!!」


何故そんな発想に至ったのか
あの人にされたことを思い出して鳥肌が立った
なにが1番嫌だったかって
彼の表情が自信しかなかったこと
急に顔近づけられてキメ顔されて
あれドアなかったら何されてたんだろうと思うと
尚更ゾクリとした


「アイツは..その..俺より遥かにカッコいいだろう?」

「はい?」


真面目な顔してそんなこと言うものだから
まだ寝ぼけているのか疑った


「ユースが言うと嫌味にしか聞こえないよ?
まだ寝ぼけてるの?ユースよりかっこいいわけないでしょ?一体何をそんな不安そう「本当か!?」ひゃっ!近っ!」


急に顔を寄せてきて驚いた
イケメンのドアップは心臓に悪い
顔が赤くなるのを感じる


「嘘ついてどうすんの...ていうか近いから!心臓止まりそうになるからあまりドキドキさせないでっ!」


そう言って距離を取ろうとするも
少しあいた距離を抱きしめられる事によって
すぐ埋められる
身長的にユースの胸元に私の耳が来るわけだけど
何故だか自分の速い心臓の音がすぐ近くに聞こえる
いや、これユースの...?


「ユースもドキドキしてるの...?」


そう呟きながら顔を上げると
頬を染め眩しそうな目をしながら私を見つめるユースの姿があった
これじゃあまるでユースが私を...


「好きだ」



「え...え!?ちょ、えっ!?どう、好...っ!!?」


突然の告白に頭はパニックになっていた



「好きなんだずっと。出会った時からユーカのことが。ユーカは俺を心配性だって言うが、そうじゃない。ユーカが居なければ俺は生きていけない。ユーカの姿が見えなくなると不安で仕方ないんだ。外の世界は煌びやかなものばかりで、俺といるよりユーカにとって良いんじゃないかって、でももう無理なんだ。ユーカには俺だけを見てほしい、俺のことだけを知ってほしい。外の事なんて気にしなくて良い。俺の事だけを考えてほしい。...どうやら俺は心まで醜いらしい。俺を受け入れてくれたユーカを手放す気なんて最初から無かったんだからな。」


怒涛の愛の告白に
自分の心臓が激しく脈打つのが分かる
それよりビックリなのが
ヤンデレとも言える告白を嬉しく感じる自分がいることだ


「だからもう諦めてくれ。俺以外と生きることを俺は許せない。好きだ...いや、愛してるんだ心の底から。俺は永遠にユーカだけを愛する。だから俺だけを愛してくれないか?悠花」


いつもと違くて、ちゃんと名前を呼ばれてドキリとした
ユースと過ごす時間はとても楽しい
過保護な所も
心配性なところも
独占欲の強いところも
有無を言わさない告白をしておいて不安に瞳を揺らしているところも
確かに街に行けばもっと楽しいことが待ってるかもしれない
でも、ユースともう会えなくなる
それ以上に辛い事なんてない



「私も...ユースのこと愛してる」


ユースは自分の傷の話をしたがらない
きっと身体の傷の一つ一つが
ユースにとって辛かった出来事の思い出しかないからなのかもしれない
過去は変えられないし、なかった事にできない
だったらユースがもう辛くならないように不安にならないように
楽しい思い出で上書きしていけば良い
ユースの隣で...





fin





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