混血の吸血姫と幼馴染の村人

ふたりぼっち

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第三章 魔法使い

円形要塞。

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「何なのかしらね…」

ミルキィはため息と共に愚痴を漏らす。

「まぁ良かったよ。あの後、すんなり入れて」

「そうね。嫌な事は忘れましょう」

ミルキィは大人だ。そして

「次に会った時には凄く強くなって見返すよ!」

レビンは意外にも根に持つタイプなのかもしれない…

「あっ!見えたよ!ホントに砂漠があるんだね…」

二人は関所がある山道を降っていた。そして視界が一気に開けると、その瞳にデザート王領の全貌が映った。

ここデザート王領は領とは名ばかりの一つの街しか存在しない。
領都デザート。またの名を『ダンジョン都市』。

そしてダンジョン都市は周囲を砂で囲まれている。
一説には大昔にダンジョンから溢れた魔物達が踏み荒らして、ここを砂地に変えたという話があるが眉唾モノだ。

直径5キロ程の真円状の砂漠地帯の真ん中にダンジョンがある。そしてそれを囲むように街が出来ていた。

そしてこのダンジョン都市が他の街と違うところの最たる所は……

「城壁がないって聞いていたけどホントなんだね」

「ええ。それにしてもよく砂の上に街を造れたわね…」

この砂漠地帯には何故か魔物が入ってこないのだ。
つまり壁を作る必要がないのだ。
街に入り口はなく、領境に関所があるだけのところだった。

街の周りは砂漠だが、さらにその外周は山に囲まれている。
レビン達がいるのもそんな山の一つであり、街に向かって降って行った。




「ようやく着いたわ…ブーツに砂が入って最悪ね…」

ミルキィが久しぶりにぐちぐちと文句を垂れていたが、女性であれば仕方ないのかもしれない。
好意?を寄せる異性の前で砂まみれになっていたのだから。

「街の中は石畳が敷かれているね。お陰で砂も舞っていないし。とりあえず宿を探そうか!」

「ええ。早く旅の汚れを落としたいわ」

殆どデザート王領での汚れだ。


宿を見つけた二人は部屋を取り、早速湯を貰ってきて旅の汚れを落とした。

「スッキリしたわ」

「そうだね」

長い赤髪を布で水気を取りながらミルキィは人心地ついた。
そこに『コンコン』とノックの音が鳴った。

「はい。どうぞ」

レビンがそう答えると部屋の扉が開き、同年代の茶髪の少女が入ってきた。

「レビンさん。ミルキィさん。食事の用意が出来たので降りてきてくださいね」

「ありがとう。カーラ。すぐ降りるよ」

「はい。お待ちしてますね」

カーラと呼ばれた宿の少女は部屋を出て行った。

「普通の宿の人で良かったよ。今まであった獣人さんとは違う形の耳だったね」

どうやらカーラは珍しいタイプの獣人族だったようだ。
カーラについて感想を述べるレビンをミルキィは鋭い視線で捉えた。

「ふーーーん。レビンはああいう子がタイプなのねっ!」

「えっ!?タイプ?うーん。よくわかんないけど、笑顔が素敵な子だね!明るいのはいい事だよ!」

この日ミルキィが口を聞いてくれない事は誰にでもわかる規定事実であった。
もちろんレビンは

(なんで機嫌が悪いんだろう…まさか吸血衝動?)

答えには辿り着けなかった。


翌朝、一晩寝て疲れも取れたミルキィと理由が分からず消化不良のレビンはギルドを目指していた。

「あったわ。カーラの言っていた通り、大きな建物ね」

「うん…」

デザートの街の建物は殆どが石造りの物である。
恐らくこの環境下では木造だと長くは持たなかったり、砂害(飛砂害)の影響が大きいのだろう。

冒険者ギルドはカーラに聞いていた通り街の中心にあった。
そしてその大きさは今まで見てきたギルドの中で一番大きかった。

「ダンジョンを囲んでいるって不思議な造りね」

「勝手に侵入しないようにしてるんだね。それにこの建物の中の半分は国の役人さん達がいるみたいだし」

ダンジョンの利権を王家…国がみすみす手放すはずはない。
ここだけの事だが、冒険者が持ち込んだ魔石一つにもキッチリと税が徴収されている。

そんな事をしなくてもギルドは税をキッチリと納めているのだが、魔石の数は簡単に誤魔化せる為、ここでは見張りも兼ねてギルドと役所が同じ建物に共存していた。

元々は国だけで管理していたが、冒険者に集めさせた方が手間がない為、ダンジョンを大昔に解放したという歴史がある。
それにより騎士や兵士の平均レベルが下がったがそれはまた別の話なので割愛する。

高さ6mほどの総二階建てのギルドの中へと入って行った。

「すみません。ダンジョンへ潜りたいのですが、説明をお願いしてもいいですか?」

受付と思われる所は壁に穴が開いていて、穴の向こうに女性職員が座っているのが伺えた。
穴のサイズは縦60センチ横30センチ程である。

それが壁に等間隔で開いていた。
中には扉のようなものが閉まっている場所もあった。

「はい。大丈夫ですよ。まずはギルドカードの提示をお願いします」

「はい」

そう言われた二人はお揃いの銀のタグを職員に渡した。

「確認しました。レビンさんの方は…レベルが足りていないようなのでダンジョンへは…」

同じ事を言われた事があるレビンは今度はすぐに紹介状を渡した。

「へ、辺境伯様の…」

確認した職員はすぐに上役に相談して、晴れてレビンのダンジョン入場許可は降りた。
まさに印籠である。

「では、説明させてもらいます。ダンジョンへの入場ですが、タグとは別にこちらをお持ち頂けると入る事が出来ます」

職員に渡されたのは赤いタグだった。それを受け取った二人は今の銀ランクのタグを下げている革紐を解き、新たに赤いタグもそこに通して首から下げた。

「続けます。ダンジョンは24時間入場する事が出来ます。中で得た魔石は必ずここへ納品してください。
ダンジョン内で起きた出来事は法では裁けません。そしてギルドも関与しません。
全て自己責任でお願いします」

「えっ…あのぅ。それって殺されても?」

「はい。文句も言えませんし、罪にも問えません」

ダンジョンの治外法権っぷりにレビンは空いた口が塞がらなかった。

職員の説明は、ダンジョン内では好きにしていいが、後は知らん。魔石はしっかり納品しろ。である。


一通り説明を聞いたレビン達は宿に戻り、ダンジョン探索に不要なモノは宿に預けた。

「ではお預かりしますね。お戻りの際はこの札をお持ちください」

カーラに荷物を預けた後、割札を受け取った。
ダンジョン都市の宿ではダンジョン探索中の荷物預かりサービスをどこの宿でもしている。
サービスといっても有料だが…
宿の部屋を押さえ続けるよりは遥かに経済的だ。

「ありがとうカーラ。行ってくるわね」

「じゃあね!」

「はい!お気をつけて!」

長い尻尾を愛想良く揺らすカーラに二人は荷物を預けてギルド職員から教えてもらった道具屋に向かった。


「ありがとうございました。またのお越しを」

道具屋でダンジョン探索に必要な物を揃えた二人は再びギルドへと向かった。

レベル
レビン:7(46)
ミルキィ:39
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