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第三章 魔法使い
宿屋の看板娘。
しおりを挟むあれからさらに2度、レビンは高揚感を感じていた。
「うん。レベル7だね」
「やっと帰れるわね…」
あれだけ苦労したレベルアップであったが、層を二つ跨ぐとレベル7まではあっという間であった。
「…そうだね。じゃあ帰ろっか」
レビンはここでもう少しレベル上げを行いたかったが、ミルキィの目を見てそれは愚考だと判断した。
そんなレビンの英断により、二人は帰路に着いた。
特にトラブルなどはなく冒険者ギルドに帰ってきた二人は魔石が詰まった袋をダンジョン入り口にいた職員に渡した。
代わりに割符を貰い、伝えられた番号の受付へと向かう。
「何だかダンジョンの中っていうより外で野営してた感じだから外に出てきてもあんまり違和感がないね」
「そうね。でもベッドで寝たいわ…」
髪も洗いたいし身体も拭きたい。ミルキィは現代っ子なのであった。
「あそこだね」
職員から受け取った割符を持ってカウンター(穴)前の長椅子に腰を下ろした。
「窓口が多いから他の人がいなくていいわね」
「ミルキィはモテるもんね」
「わ、私がモテたらいや…かな?」
レビンは単純に一々絡まれるのが面倒だからそう言ったが、ミルキィはやきもちを妬いてほしいようだ。
「えっと…(何だか似たような事で失敗した気がする…)そ、そうだね」
(思い出せなかったっ!!でもこれなら後で言い訳できる!)
答えを濁すように答えた。
「!?そ、そう。安心して!男には興味ないから!」
「ん?そう」
(何とか切り抜けられたかな?)
(男に興味ないって何よ!?女にも興味ないわっ!違う違うっ!!レビンは例外なのよぉ~っ)
二人ともニコニコとしているが内心は全く別物であった。
二人がそんなすれ違いコントを繰り広げているとレビン達の番号が呼ばれた。
「お疲れ様です。こちらが報酬になります」
「ありがとうございます。ギルドお勧めの武器屋はありませんか?」
「こちらではそういった斡旋はしておりませんので各冒険者でお探し頂いています」
「はあ。わかりました」
他の街では快く教えて貰っていたが、どうやらダメらしい。
この街のギルドがそういったことを行っていないのか、この受付だけなのか。
「何よ、あの女。レビンが気弱そうだからって!」
「どうどう。僕は気にしていないよ。それにあの職員さんも仕事なら仕方ないよ」
(僕って気弱そうなんだ…)
職員の言葉は気にしていなかったがミルキィの言葉はレビンのハートを叩いた。ギリギリ割れていないと思う…
冒険者に慣れてきて強くなったと自覚してきた所に、幼馴染からの率直な言葉を聞いて、ギルドにある鏡に映る自身を見つめた。
(確かに見た目は強くは無さそうだけど…でも二の腕なんか太くなってきてるし?背も少しずつ高くなってきてるよね?)
ミルキィは見た目よりも物腰の柔らかさの事を伝えたのだと思うが、本人は見た目にしか目がいっていない。
現在15歳。身長170cm少し。多かれ少なかれ気になるお年頃であった。
そして鏡越しに見る、美しい幼馴染と目が合い微笑まれ、珍しくレビンの方が頬を染めた。
(あれ?何で恥ずかしいんだ!?…それにしてもミルキィってあんなに可愛かったっけ?)
頑張れミルキィ。もう少しだ。多分…
夕暮れの中ミルキィの背中を見つめながら宿へと向かった。
「おかえりなさい!」
宿を訪れた二人を元気よく出迎えたのは自称看板娘のカーラである。
17歳。こちらも青春真っ只中である。
「ただいま!部屋は空いてるかな?」
「空いてますよ。何泊ですか?」
空いてて良かったと安堵しつつ、何泊取るべきか思考を巡らせた。
「2泊で足りる?」
「…大丈夫よ」
レビンは1泊でも構わなかったが、ミルキィの事を考えて2泊にした。譲歩しても2泊のところがレビンらしい。
「じゃあ2泊でお願いするよ。荷物は…」
「荷物は後でお部屋に運びますね!お客様ご案内しまーす」
カーラは返事を聞くと大きな声で奥に向かい案内を伝えた。奥から『はーい』と返事が聞こえると二人を先導してそそくさと案内を始めた。
部屋に着くと、前回とは違いカーラが中まで入ってきた。
「ごめんなさい。しつこいお客さんがいてあの場を離れたかったの」
カーラは町娘然としているが目鼻立ちははっきりしていて充分美人といえる。そんなカーラにしつこく言いよる人がいるようだ。
「そうだったの。いくらでもいたらいいわ。後でお母様から聞かれたら私達が引き留めたと伝えるから」
村ではそうではなかったが、村を出てからは男に言い寄られたり、噂をされたりしていたミルキィはカーラの気持ちを即座に理解した。
「カーラももてるんだね!ミルキィもモテて大変みたいだよ」
一人理解出来ない子がいた。
「ミルキィさんありがとう。レビンくんはもう少し乙女心を理解しようね?」
「えっ!?」
寝耳に水であった。
「レビンに言っても無駄よ」
ミルキィは他人がいると冷静だった。
「それよりその男性の話を聞かせて?小さな村の出だからこういう話をした事も聞いた事もないのよ」
「えっとねぇ…年は20前半くらいで冒険者の人よ。ウチを贔屓にしてくれるのは嬉しいんだけど・・・・・」
こうしてミルキィの耳年増は加速していった。
その時レビンは増えた所持金を数えて過ごしていた。
15分ほどミルキィと世間話に花を咲かせたカーラは仕事へと戻っていった。
「もうすぐ夕食らしいわ。お湯も持ってきてくれるから清拭を終えたら食事にしましょう」
「うん。今日はよく眠れそうだね」
流石のレビンも色々と疲れたようだ。清拭を終えた二人は一階の食堂へと降りた。
「あっ!ごめんなさい。お客様が来られたので外しますね」
カーラがお客に断りを入れてレビン達を席に案内した。
「あれが噂の?」
「もう!噂なんて良いもんじゃないよぉ。話は面白いんだけど、仕事が溜まっちゃうしここはそういう宿じゃないんだけどなぁ」
「凄く見られてるね…」
レビンは男の視線に『宿の仕事も大変だなぁ…』と思うのであった。
宿の仕事は関係ないが…
そうレビンが考えていた時、男が二人の元へやってきた。
ミルキィもそれを視界に入れていた為『トラブルがやってきたわ…』とため息を吐いた。
ここで男が取った行動は3人にとっては予想外であった。
「お姫様。お名前を聞かせてくれないか?」
なんと男はミルキィの手をとって跪き先の言葉を放った。
「は?」
一瞬の事でレビンは怒りよりも驚きが優先してしまったが気を取り直して男からミルキィを離そうと思った。しかしそれより先にカーラからドスの効いた声が漏れた為、言い知れぬ恐怖に身が固まってしまった。
「あなたはカーラを口説いていたんじゃないの?」
「俺は美しい女性なら分け隔てなく声を掛ける紳士なのさ」
(えっ!?紳士ってそういう人なの!?)
レビンはカルチャーショックを受けていたがもちろん誤情報だ。
レビンの頭がパニック陥っていた時、男の脳天にレビンでも見逃しそうなほどの手刀が振り下ろされた。
ボゴッ!
「いっっってぇぇえ!?!?」
「馬鹿アラン!何してるのよ!?」
3人の前に新たに現れたのはカーラより年上に見える赤髪の女性であった。
「サ、サリー!?ど、どうしてここが!?」
「アランがこの宿に入っていったってお兄ちゃんから聞いたのよ!」
「くそっ…ダリーの裏切り者め…」
突如として現れた二人に呆気にとられた3人。
(夕ご飯…)
お腹ぺこぺこなレビンは無事に夕食にありつけられるのだろうか?
レベル
レビン:5→7(67)
ミルキィ:60
0
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