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二章
第20話 壮絶な縄張り争い
しおりを挟む「やあ、突然すまなかったね。僕は君たちを助けに来たんだ」
僕の先制攻撃である自己紹介により、かなりのダメージを与えたつもりではあるが、その上さらに、助けに来ている側の人間だということをアピールすることで、僕の方が立場が上だということを認識させる。
頭をぶん殴られて涙目なのはバレていないはずだ。
ともあれ、まずは会話の主導権を握ることが重要だ。
目の前の少年との縄張り争いは既に始まっているのだから。
「き、君も僕たちと同じように捕らえられたんだね?」
「そうとも言うかもしれないけど……まあ、あえて捕まったとも言えるかな……」
「あ、あえて捕まっただって!? 君はなんてことを……そんなことをしたら、どうなるのかわかっているのか!?」
「お、落ち着いて……! そんな大きな声を出したらまた僕がぶたれる……!!」
僕はチラチラと通路の方に視線を向けながら、少年をなだめるように声をかける。
その言葉を聞いてハッとしたように両手で口を押える少年。
「す、すまない。だが、こいつらに捕まってしまえば、何をされるかわかっているのか?」
「え……奴隷として売られるとか……そんな感じ?」
「き、君は……奴隷として売られることになんの疑問も感じないのか!? それに奴隷以前に、僕たちの尊厳を踏みにじるような行為だって行われているんだ!!」
「い、いや……!だから声を抑えて……! 僕は君たちを助けに来たって言っているじゃないか!」
「助けに来たって……子どもの君に何ができるんだ……! 現に今捕まっているじゃないか……!」
「これは作戦というか、深い考えがあるというかね……」
「き、君は本当にふざけているのか!!!! 僕たちがどんな想いで――」
「騒ぐんじゃねぇつってんだろ!!!!!」
いやらし顔盗賊の怒号が聞こえてきて、僕はビクンと体を震わせる。
くそう…… 僕の先制攻撃により始まった縄張り争いだが、盗賊まで使ってくるとは侮れない奴め。
早くも戦況が傾いてきた気がする。
対する少年はやってしまったとばかりに申し訳なさそうに俯く。
「……すまない。少し取り乱してしまった。 君も捕まって気が動転しているんだね」
余裕の返答であるが、僕だって負けるわけにはいかない。
そもそも僕の意見や主張が通ったことはあまりないので、そのときの対策もちゃんと立ててあるのだ。
ここは強大な力をチラつかせるのが良いだろう。
僕には示すほどの力は無いのだが、無いのなら有るところに借ればいいのだ。
「実は今、王都の騎士団が動いているんだよね」
僕の力ではないが、わかりやすく強い存在だろう。
実際本当に動いているのだから、嘘ではないはずだ。
いや、騎士団が動いていると言ったのは、竜車を動かしていた御者の三下おやじだったか、じゃあ本当は動いていない可能性があるな。
まあ、それでも僕は本当だと思っているのだから、結果的に動いていなかったとしても、嘘を吐いたことにはならないのだし、利用しない手はないだろう。
「……!? 騎士団が……? 今来てるのかい!?」
「い、いやまだかな……? これからもうすぐ……? 数日後ぐらいには来るかも……?」
「……そうか。 そこまではわからないか…… まあ、助けが来るかもしれないという希望が持てただけでも…… いや、もしかしたら間に合わないかも……」
「間に合わないってどういうこと?」
大分少年の気分が落ち着いてきたようで、話ができる状態になったので、色々と聞いてみると、先ほどからアジト内が慌ただしくなり、この牢屋の見張りの人数が少なくなったことや、いつも子どもたちに行われているおぞましい行為がないことから、何となく違和感を覚えていたそうだ。
そして、僕がもたらした情報によって、その違和感の正体が、盗賊たちが騎士団の動きを嗅ぎ付け、拠点を移動するために準備をしている最中なのかもしれないという考えに至ったそうだ。
そのため、騎士団が動いていたのだとしても間に合うかどうかわからないとのことだった。
その話を聞いて僕としては一つどうしても確認をしなければならないことがある。
子どもに対して無理矢理に行為に及んでいることが本当だとしたら許されないことだ。どんな状況であっても同意は必ず必要なのだ。
しかもだ!僕の妹候補がいるかもしれないにも関わらずである!
どんな手を使っても報いを受けさせる必要がある。
怒りがだんだんとこみ上げてくる。それと同時に涙が出てくる。
「く、くそう……!!」
「ど、どうしたんだ……!?急に涙なんか流して……」
「君たちが理不尽な恥辱を受けたことを考えると悔しいんだ……!!」
「……君は優しい子だね。君自身も同じ立場に立たされているのに他人の心配ができるなんて……でも、君は騎士団が来るかもしれないという希望を僕たちに与えてくれた……それだけで十分だ。君が気に病むことは何もないんだよ」
「うううぅぅ!ううううううぅ!!」
少年が何か言っているが、僕はまったく聞く余裕もなく、さめざめと涙を流していた。
すると、まるで天使と形容するしかないような声が僕の耳に入ってきた。
というより、突如として鼓膜に発生したような錯覚さえあった。
ゾクゾクとした快感が体中に湧き上がり、僕の紳士度メーターはうなぎ登りである。
紳士度とは僕の妹に感じる深い情欲を数値化した指標なのだ。
情欲といってもいやらしいものではない、僕と妹以外のその他の人間が感じる薄汚い獣のような肉欲とは違う。もっとより無垢で清純で神聖な欲望だ。
「ねぇ、だいじょうぶ? 鼻水すごいね?」
僕は泣いたとき、涙4:鼻水6の割合なのだ。
「う、うぅ?」
その鈴を転がすような声に惹かれて顔を上げると、くりくりとした瞳のあどけない少女が心配そうな表情でこちらを覗き込んできた。
そこには僕の妹にふさわしい人材がいた。
ドキドキと高まる胸の鼓動が鳴り止まない。
そう、僕は今この瞬間に恋に落ちてしまったのだ。
旅が始まって、たった数日でシアちゃんという最愛の存在を忘れてしまったのかと疑問に思うかもしれないが、もちろん忘れるわけがない。
どちらも素晴らしい妹であり、親愛なる恋人なのだ。
きっとシアちゃんもわかってくれるさ!わかってくれなければ困るし、そもそもわかってくれないなんてことはないのだ。
そうでなければ僕が妹に捧げてきた全てが無駄になる。
興奮に鼻息を荒くしながら目の前の少女に声をかける。
「ムフー!君の名前を教えてくれるかい?」
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