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二章
第33話 狂乱のセルブロ
しおりを挟む「はぁ……はぁはぁはぁ……あああああああああぁぁぁぁあああああああ!!!」
ブルータル盗賊団首領のセルブロは狂乱の坩堝にいた。
自室のある地下2階からここ地上階への階段前まで、仲間である盗賊たちを切り刻みながらノンストップで走り続けた。
もはや、数刻前までは仲間だと思っていた者たちが、敵にしか見えなくなってしまていたのだ。
「ば、化け物……」
「完全に狂っちまってやがる……」
周りにいる盗賊たちも混乱していた。
何故なら狂気的な叫び声が聞こえてきたと思ったら、自分たちの所属する組織のボスが、暴虐の限りを尽くし、次々に仲間たちを抹殺しているのだから。
最初は狂った首領の息の根を止めようと、果敢に飛び掛かっていたのだが、あまりの強さに次第にその勢いも衰えていった。
「ぁあ……あぁあああぁっ……あああぁぁぁぁあああああああ!!!」
セルブロは足を止めて盗賊たちを寄せ付けないように剣を滅茶苦茶に振り回していた。
「俺は生き残る……!生き残るために殺すんだ……!!」
散々暴れ回ったことで、スタミナをかなり消耗してしまい、その動きもにぶってきた。
精神的にも体力的にもボロボロだった。
そしてそんな限界ギリギリのセルブロにとって、絶望を告げる足音が聞こえてきた。
階段の上からさらに増援が追加されようとしていたのだ。
(一体どれだけ居やがるんだ…… 俺が生きてここを出るために全員殺さなねぇと……)
味方でいるときは心強かった団員たちだが、今はその多すぎる人員が恨めしく感じる。
この盗賊団の人員管理は基本的にジンが行なっていた。
セルブロは、自分を裏切るそのときのためにこれだけの人数を揃えていたのだと、今更になってジンの奸計に気付いた自分の間抜けさを呪う。
しかし、たかが人一人を嵌めるためだけに、これだけ周到に団員を揃えていたというのは少々疑問であるのだが、セルブロはそんなことを考える余裕もないほどに精神的に追い詰められていた。
すると、その増援が姿を現した瞬間にセルブロは背筋が凍るような気配に、裏切られたと気付いたときから止まることがなかったその乱舞がピタリと止まった。
いや正確には止まらざるを得なかったというのが、正解だ。
自身の意志とは関係なく、大量の冷や汗が流れ落ちる。
(な、なんなんだあいつは…… ジンの奴、俺を始末するためだけにこんな奴まで引き入れていたのか…………? む、無理だ…… あ、あいつは…… 俺には……いや、このアジトにいる全員で掛かってもどうにもできない、正真正銘のバケモンだ……!!)
「は、ははは……ははははは……」
絶望的な状況だと理解したとき、セルブロは笑いが込み上げてきた。
「おかしらの奴、本当に壊れちまったのか……?」
「だが、今ならやれるかも……」
そんなセルブロの様子を見て、周りの盗賊たちが、この大量殺人鬼を葬れるかもしれないという希望を見出していると、今しがた現れた増援の中の一人が声を上げる。
「なんだぁ……こりゃ一体全体どういうこった……?」
その声の主はエリックだった。
盗賊の死体がそこら中に散乱している惨状に疑問の声を上げる。
「ひっ……!」
「うわぁ!なんだよ……これ……!」
エリックの後ろから顔を覗かせるユーリとダンは悲鳴を上げる。
「ふむ…… おい、そこの、どういうことか説明してくれないか?」
ギルバートが近くにいた盗賊に声をかける。
「い、いや俺も理由はわかんねぇが、かしらが錯乱して仲間をぶった切ってるんだ。今は大人しいが、さっきまでは鬼みてぇな顔しながら、剣を振り回してたんだ……」
それを聞いたギルバートはギロリと音がなりそうな鋭い視線をセルブロに向ける。
「はは……はははは……ひっ……!」
人間という下等物体を何個もぶっ壊してきたような無機質なギルバートの瞳に見つめられ、固く固く筋肉が硬直し、動けなくなった。
周りの盗賊たちはギルバートの異常性に気が付いてはいないが、セルブロは一応盗賊をまとめ上げる頭領で、なまじ実力もあるため、ギルバートの持つ異質な力をすぐに理解した。理解してしまったのだ。
(ああぁぁ……目を逸らせば殺される……声を出せば殺される……身動きをしたら殺される…… 神様、俺はどうしたら……?)
今まで神に祈りすら捧げたこともないどころか、唾を吐きかけるような人生を歩んできたセルブロだったが、ギルバートの圧倒的な存在感を前に、無意識に神に縋る。
神などという曖昧な存在など信じてはいなかったが、目の前の化け物を何とかできるとしたら神以外にいないと本能的に感じたのだ。
セルブロが自身の死を幻視している間、ギルバートは頭を悩ませる。
(どういうことかはわからんが、敵は仲間割れをしているようだ…… しかも都合が良いことに盗賊の首魁が目の前にいる…… この混乱に乗じて動くべきか……? いや、状況を把握できていない状態で動くのは危険か? その上捕まった者たちの安否も確認できていない……)
「よくわかんねぇが、とにかく狂ったボスをぶっ殺せばいいんじゃねぇですかい、ギリーの兄貴?」
エリックはよくわからない状況だが、敵の首魁を叩くべきだと、ギリー、もといギルバートに進言する。
「で、でも! こんなところで戦闘になったら、お兄ちゃんを探すことなんてできなくなっちゃいますよ……」
「そ、そうだぜ、それにギルバートさんが暴れ出したら俺たちまで……」
エリックの言葉にユーリとダンは否やを唱える。
ダンの言うことは最もである。
確かにギルバートがここで思いっきり暴れれば、ユーリたち諸共殺害してしまう可能性があった。
ギルバートは気付いていないことではあるが、彼は手加減というものが全くできない。
というより、手加減をしているつもりでもその攻撃を受けた人体は、ほどけるように解体されてしまうのだ。
しかも厄介なことに、戦闘になると相対する相手に集中するあまり、周りが見えなくなってしまうという欠点を持っていた。
そういった事情があり、ギルバートたちは動くに動けないといった状況に陥っていた。
そんなことも知らずにセルブロは自身の命の灯火が消える瞬間がいつになるのか戦々恐々としながら、不穏な気配を纏うギルバートたちから目を離せないでいた。
(や、やるなら早くやってくれ…… せめて苦しんで死ぬのだけは嫌だ…… でもそんなことを口にした瞬間に殺されてしまうのではないか……? というか、今俺が考えていることも全て聞こえているのではないのか…… くそっ……! 俺の葛藤を見て楽しんでやがるのかよ……!)
そんなことはあるわけがないのだが、セルブロは想像を遥かに超えるほどの圧倒的な気配を纏うギルバートを前にして、自身の思考すら読まれていると思い込んでしまっていた。
わずかな間の膠着状態になったこの場に、またしても合流する人物たちがいた。
その来客に皆の目線が向けられる。
それを目にしたセルブロは苦虫を噛み潰したような表情をした。
(ジンの野郎……! こんなバケモンを用意して役者が揃ったからやっとお出ましってことかよ……! そんなに俺のことが憎かったのかよ……! 嫌なところがあったのならこんなことをする前に言ってくれよ! そうしたら俺だって直したのに……! お前のことは大事にしてきたつもりなのによぉ! だから褒美だっていっぱいあげたじゃんか……!!)
信頼していた腹心に裏切られ、涙が溢れてくるほどに胸が締め付けられるセルブロ。
「ジンさん!」
「ジンの兄貴来てくれたんですね!」
「兄貴!かしらの奴が狂っちまって皆を殺しまわってやがるんです!助けてくだせぇ!」
ジンという自分たちを救う救世主が来たことにより、士気が上がっていく盗賊たち。
「あれ、ユーリじゃん。捕まっちゃったの……?」
すると、その場の雰囲気に見合わないのほほんとした声が響き渡る。
「お、お兄ちゃん!!無事だったんだね!!」
ユーリがその集団の中にニアの姿を見つけて満面の笑みを浮かべる。
その言葉に対し、のほほんとした表情をしながら手を振るニア。
(なんなんだ、もうわけがわからない…… しかし、人質がいるとなると迂闊に動けなくなってしまった…… 無理をしてでもさっさと動いておくべきだったか……)
人質を助けたいギルバートたちとしては、更に悪くなってしまった状況に頭を抱えるギルバート。
そして、ユーリが兄と呼んでいるのほほんとした少年に目を向けると、向けた目がそのまま飛び出てしまいそうになるギルバート。
その少年の手には、国が国宝として管理し、そして盗まれてしまった洗脳の魔道具があったのだ。
(何故、少年があの杖を…… いや、考えるまでもない、あのジンと呼ばれた盗賊に洗脳を施され、荷物持ちにでもさせられているのだろう……)
「おい、エリック」
「ええ、あの杖……」
エリックも杖の存在に気が付いているようだった。
ギルバートたちが様子を伺っていると、セルブロがジンに向かって話しかける。
「おい、ジン、いつからこんな計画を考えていたのかは知らんが、全部お前の思惑通りだ…… どんな気持ちだ?どうだ、楽しいか?あ!? 答えろ!!お前のお望み通り俺はもうすぐ死ぬことになる!」
「…………」
もはや追い詰められて何もできないと悟ったセルブロは吹っ切れたかのようにジンに怒りをぶつける。
ジンをそれを黙って聞いている。
「俺の何が悪かったんだ? 最後に教えてくれや…… なあ!!」
「………………」
「答える気はねぇ……ってか…… いいぜ、わかったよ。 それなら、俺からの最後のお願いを聞いちゃくれねぇか……?」
「……………………」
「沈黙は肯定と見做すぜ……? 俺と一対一で決闘をしちゃあくれねぇか? そこのガキに持たせている杖を使わずにだ。 なあ、俺たち結構長い付き合いだろう?」
(俺が生き残るためには、あの杖の存在が邪魔だ…… あれを何とかして取り返してあのバケモンを味方につけるしかねぇ……)
セルブロは自身が生きてここを脱出するために杖を取り返そうと必死に策を巡らせる。
一対一で決闘というのはブラフだ。
一見雑な策に思えるが、自身に目を向けさせて、それをブラインドに一瞬の隙を作れさえすれば、その間に杖を奪うことなどセルブロにとっては容易なことである。
この精神的にも肉体的にも追い詰められた状況で出た策としては上等だろう。
後はジンがセルブロの話に乗ってくるかどうかにセルブロの命運がかかっている。
「…………………………」
「ふん…… 声も聞かせてくれねぇなんてつれねぇじゃねぇかよ」
周りの者たちはセルブロとジンの会話を黙って聞いている。
ギルバートたちは、人質を助けるチャンスを伺い、下っ端の盗賊たちは、ジンが狂った頭領を討ち取ってくれることを期待していた。
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