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二章
第35話 盗賊事件のその後①
しおりを挟む僕たちはアジトを脱出して騎士団に保護された後、近くの村に避難してきた。
村の教会に滞在しても良いということで僕たちは数日の間お世話になることにした。
僕が捕まったあと、焦ったユーリたちは僕を助けるために盗賊に変装した騎士団長と副騎士団長と共にアジトに潜入したそうだ。
しかもそんな危険な作戦を立案したのがユーリだというのだ。
作戦を提案するユーリもユーリだが、それを承諾した騎士団は気が狂っていると言わざるを得ない。
盗賊を捕まえるためなら、子どもですら利用するのか。
そして潜入後は、盗賊の首領が盗賊たちを惨殺していたところに遭遇し、そこに僕たちも合流してきたというのだ。
その後の展開は僕も知るところだ。
騎士団長とされている凶悪な顔をした盗賊がブチ切れて、大量殺人を行い、僕たちは脱出できたというわけだ。
どうやら僕が盗賊の親玉だと思っていた凶悪な顔の男が、あのギルバート・ブラッドリバー騎士団長ということらしい。
だが、僕は未だに嘘だと思っている。
いくらなんでも英雄の顔ではない。
ちなみに僕に斬りかかってきたのが、盗賊の首領だったらしく、僕たちがアジトから脱出すると、そいつは騎士団に取り囲まれ、助けてくれと泣き喚いていた。
首領は僕が投げた杖を確保しようと動いていたように見えたが、騎士団長のあまりの凶悪さに怖くなってしまい、逃げることにしたとのことだった。
あの杖は何だったのかについては、教えてくれなかった。
国家機密とか言っていた。
それを聞いて僕は恐ろしくなった。
何故なら、僕はあの杖を真っ二つに折ってしまっているのである。
弁償しろとか言われたらどうしよう。
そもそも、あれは鍵もかかってない部屋のソファに立てかけてあったのだから、そんなに大事な物だったなんて思わないだろう。 僕は何も悪くない。
もし、僕に疑いがかかるようなら、あの凶悪な顔をした騎士団長を名乗る盗賊がぶっ壊したことにしよう。
あれだけ盗賊をぶっ壊していたのだ。それに巻き込まれて杖もぶっ壊れたとでも言えば皆信じるに違いない。
ジン君はというと騎士団に連行されて行ってしまった。
僕は改心したと弁護したのだが、だとしても今まで犯してきた罪は消えないのだと騎士団は言っていた。
確かにそうだと思ったので、罪を償ってきてとジン君に言うと、素直に頷いてくれたのだ。
ジン君はどうもイエスマンすぎるきらいがある。
そして僕の異能力タイム・スロー・ザ・タイムはやっぱり火事場の馬鹿力だったみたいだ。
事件の後、何度発動させようとしても無理だったからだ。
チートを手に入れて喜んだものだったが、僕は僕自身に梯子を外されたようなそんな気分になった。
そんな感じで盗賊事件は幕を閉じたのだった。
そして、僕は今、教会の庭のベンチでダンと子どもたちが遊ぶ姿を眺めながら、アネットとユーリに挟まれていた。
子どもたちは、あれだけの死体を目にしていたというのに、それを感じさせないほど元気いっぱいである。
「それでお兄ちゃん、この子は?」
ユーリがどことなく、不穏な空気を纏い、話しかける。
「ふふふ……ニアお兄ちゃん……妹は私だけだよね……?」
アネットは盗賊団のアジトでユーリの姿を見てからというもの僕をお兄ちゃんと呼ぶようになった。
しかもなんだかユーリに嫉妬しているようで、ユーリもユーリでこちらも不穏な空気を纏っており、間に挟まれている僕としてはちょっと居心地が悪い。
妹の嫉妬は可愛いが、この空気は何とかならないものだろうか。
「まあ、アネットったら……積極的ね…… 私がお父さんと出会ったときを見ているようだわ……」
アネットの母親であるコレットは自分の娘を見てそんなことを宣っている。
アネットたちは家族が迎えに来ることになっており、その到着を待つためにこの教会に滞在しているのだ。
この世界の連絡手段は、行商人を利用する方法や使い魔などを利用する方法があるが、それらは時間がかかるし、確実性もない。
だが、今回は村長の家にある遠話の魔法が込められた魔道具を使用させてもらい、獣人の集落へ連絡を取ったのである。
遠話は片方が魔法を使用すればお互いに通話が可能であり、使用方法としては魔法を使用する人が連絡を取りたい相手に呼びかけるだけの便利な魔法である。
そういった経緯があり、アネットたちはこの教会で僕たちと数日間過ごしていたのだが、僕は何故だか、毎日のように同じようなやり取りをすることになっていた。
「この子はアネットだよ。ユーリも仲良くしてあげてね」
といった感じで、この数日間同じ言葉を吐き続ける機械になっていた。
「シアちゃんに続き、また勝手に妹にしたの……? アネットとか言いましたっけ? お兄ちゃんはちょっとおかしなところがあるから気にしないであっちに行っていいですよ?」
「いえいえ、お気になさらず……ふふふ……」
お互いに目を合わせることなく、ぎこちない会話を続ける二人。
「…………」
そんな調子で、なんだかちょっとアネットが怖くなってくる。
脱出の際に僕の首を締め上げたことは忘れてはいない。
いつか刺し殺されたりはしないだろうかと不安になる。
とても僕の好みの妹ではあるけれど、ちょっと距離を置いたほうがいいかもしれない。
死んでしまっては妹を愛でることもできないのだ。
「アネット僕はあと数日もしたら王都へと行かないといけないんだ……」
「王都に……? でも、私のお兄ちゃんなんだよね? 妹の私を置いていくの……?」
「お兄ちゃんは僕と一緒に魔法学園に通うんだよね? 僕と!一緒に!」
ユーリが満面の笑みを浮かべて、アネットを牽制する。
「……っ!! ふふふ…… ああ!忘れてた! そういえば私も来年、魔法学園に受験する予定なんだった! 忘れてたよニアお兄ちゃん! また一緒に過ごせるね……?」
アネットの様子を見る限り、ユーリと張り合うために魔法学園に受験すると言っているような感じではあるが、そんな簡単に決めてもいいのだろうかと母親のコレットの方に視線を向けると、あらあら、まあまあみたいな顔をしている。
「……くっ!! で、でも?一年は僕と一緒に過ごすからね? まあ、一年も経てば?旅の道中ですれ違った程度の路傍の石の記憶なんて忘れちゃうよね!」
「……ぐぅっ!! ろ、路傍の石ぃ……!? だ、誰のことを言っているのか…… まあ?私は正式に妹として認められているし? 懐に大事に仕舞われている宝石だと思うし?」
「……自分のことを宝石とは思い上がりも甚だしい…… さ、お兄ちゃんさっさと石ころのことなんて忘れて出発しようよ……!」
「……くぅ!! ……まあ、今はそういうことにしてもいいかな……? どうせ、自分が家族であることに胡坐をかいて、いずれニアお兄ちゃんに捨てられるだけの哀れな存在なんだし、気にしていてもしょうがないよね……!」
「……なあっ!? そ、そんなことないよね……お兄ちゃん?」
僕に話しかけているという形式を崩さぬまま、実際にはお互いに足を止めて壮絶な殴り合いしている二人。
「ニアお兄ちゃん!私も絶対に魔法学園に行くから待っててね! ――ふふ……」
「ああ!!」
すると、アネットがとどめとばかりに僕の腕に抱き着いて、僕の頬に唇を軽く触れさせる。
そして、アネットは9歳児とは思えないほどの妖艶な笑みを浮かべ、ユーリが悲壮な声を上げた姿を見たのが僕の最後の記憶である。
その後、僕は穴という穴から大量に血を吹き出し、気絶したのだった――
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