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第二幕 袖振り合ったら、引ったくれ
25.シーン2-13(聖堂)
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「お前達は」
「ひええ」
「きゃあっ、何よ!」
後ろからぞわりと背筋を撫でるような気配が襲い、思わず変な場所から声が出てしまったのだから仕方がない。
嫌な気配を放った後ろの人物を振り返ると、彼は私が変な声をあげたことで若干白けた様子だったが、その後は私たち姉妹を見比べながら睨みはじめた。目つき、目つきが怖い。
外を歩いているときはフードを被りなおしていたのだが、聖堂の中に入ったあとはやはり視界が遮られて邪魔くさいのか外していたようだ。ここには私たちしかいないのだし、彼も面倒になったのだろう。
「お前達は本当に双子なのか。それにしては随分違うな」
彼からこうして話題を持ちかけてくるというのはかなり珍しい。これまでも何度かあった気がするが、何が気になるのか、何に食いつくのかというものが未だに不明のままである。
「ああ、確かに顔と声の感じはそっくりだけど、性格とか全然違うよね」
オルカが話題に乗っかってきた。彼は、髪と目の色も違うね、と付け加えた。
ミリエは目を引く金髪、そして目の覚めるような青い虹彩だが、私の方は何と言ったらいいものか、中途半端にくすんだ感じのブロンドに、これまた中途半端に色味のあるグレーの目だ。別に色素に中途半端も何もないのだが、髪と目と肌の色を合わせるとそう言いたくもなってくる。アリエときたら、何ともまあ色素という色素にやる気の欠片が微塵もないのだ。
色素が薄いというのは劣勢遺伝であるからして、人口的な統計からすれば、かなり珍しい部類に入るであろう色味ではある。ではあるのだが、しかしここまで色気がないのでは大手を振って喜べない。
面接官にどうしてここへ来ましたかと問われれば、私の色素はこう答えるだろう。はあ。なんとなく。成り行きで。そりゃあ確かに成り行きなのかもしれないが、せめて表面上だけでもどうにかならなかったのか。就職難すら乗り切れなさげな色素には、思わずもっと頑張れよと言ってやりたくなるほどだ。
ここまで色合いに差のある双子だったので、聖女と呼ばれるほど神々しい色の輝きを放つミリエとはよく比較されたものだ。姿かたちはそっくりなのに、見た目と魔力が鮮烈なミリエと、見た目と魔力がどうにも頼りないアリエが並べば、さぞや珍妙な光景であったことだろう。まるで抜け殻のようであると揶揄されたこともあったものだが、しかし、多分その通りなのだ。
オルカの言葉を受けてしばらくカインは黙り込んでいたが、それでもやはり何かが腑に落ちないらしかった。
「俺が言っているのは魔力のことだ」
魔力。命を形作る力の螺旋。家族や兄弟姉妹、果ては双子、ちかしい存在になればなるほど、その魔力は似るという。全く、だったら一体何だと言うのだ。あまり私を笑わせないでいてほしい。
「ああ、確かにそうだね。アリエはあまり強い魔力持ってないみたいだけど、ミリ……えっと、聖女様はなんて呼べば、その、いいですか」
オルカはミリエを呼びかけて、一瞬言葉に詰まった。照れくさそうな気配が混じっていることは今この場では見逃そう。
「ミリエでいいわよ。別に敬語も要らないわ」
「で、ミリエ……ちゃんは、聖女なだけあってやっぱり凄い魔力を持っているみたいだね」
ミリエちゃん。余所余所しさに呼び捨てしちゃった私とは扱いがかなり違わないかね、君。
「確かに魔力だけでみたら、双子じゃなくても驚きだけど」
オルカもカインと同じように、私とミリエを交互に見比べている。
「ふっ」
悪い悪いと思いつつ、堪えきれなくなってしまった私は、思わず鼻先で吹き出した。オルカとカインの妙な視線が私に集まる。ミリエに睨まれ、あわてて咳払いで誤魔化した。
今更何を言い出すのだ。双子とは思えない。姉妹だとは思えない。ちゃんちゃらおかしいではないか。そんなもの、私にとっては当然だ。
私だって、ミリエという子がアリエの妹であるというのはとても喜ばしいことだ。しかし私は、アリエであってアリエではない。私自身は、ミリエの双子の姉などではないのだ。
誰かがアリエを抜け殻だとか腑抜けただけの人型だとか揶揄したものだが、それはあながち間違いとは言いきれない。否、拍手で返したくなるほどに、なんともまあ上手い言い回しではないか。
そう、神か何かの気まぐれにより、ひとり魂を宿してしまった仮初めの人形は、何もかも知らされぬまま、不思議な不思議なおとぎの国へと放り込まれてしまったのだ。私はこの幻想うず巻く人形劇のただ中で、現し世の全てを隠してアリエという役を演じ、いつ訪れるとも知れない舞台の幕引きを待っている。
「俺が言っているのはそのことだけでは……いや、いい」
思ったように話が進まず気が反れてしまったのか、その後カインは無言の状態に戻ってしまった。どのことを言おうとしたのか、なんて野暮な話はやめておこう。何であろうと、私の置かれた状況など変わらない。
ミリエはその後、しばらく私の顔色を窺うようにこちらを何度か確認していた。心配そうな目をしてみれば、時には睨んで諌めるかのように目を光らせている。
私だって、境内や教会の中で暴言を吐き、はしゃぎ回るだなんていった愚かな真似をするつもりはない。マナが信仰の対象であり、ここがその集約点である神聖な場所であることくらいは承知している。
マナとはすなわち超自然的な存在であり、エネルギー、および事象、そして思想、信仰の対象である。ところによっては、気や、プラーナなんて呼ばれることもあるだろう。この世界に事実としてあまねく存在するそれは、まさに然りのものと言える。
人々は目に見えぬ超自然的、超常の存在としてマナを畏れそして崇め、当たり前のごとく身近にある存在として、マナを受け入れさらには頼って生活しているのだ。
人智の及ばぬ自然界への畏怖と感謝の念からごく自然的に発祥する、いわゆる自然信仰として、マナへの信仰が古くから脈々と受け継がれている。いくらなんでも、それを否定する気まではない。
「ひええ」
「きゃあっ、何よ!」
後ろからぞわりと背筋を撫でるような気配が襲い、思わず変な場所から声が出てしまったのだから仕方がない。
嫌な気配を放った後ろの人物を振り返ると、彼は私が変な声をあげたことで若干白けた様子だったが、その後は私たち姉妹を見比べながら睨みはじめた。目つき、目つきが怖い。
外を歩いているときはフードを被りなおしていたのだが、聖堂の中に入ったあとはやはり視界が遮られて邪魔くさいのか外していたようだ。ここには私たちしかいないのだし、彼も面倒になったのだろう。
「お前達は本当に双子なのか。それにしては随分違うな」
彼からこうして話題を持ちかけてくるというのはかなり珍しい。これまでも何度かあった気がするが、何が気になるのか、何に食いつくのかというものが未だに不明のままである。
「ああ、確かに顔と声の感じはそっくりだけど、性格とか全然違うよね」
オルカが話題に乗っかってきた。彼は、髪と目の色も違うね、と付け加えた。
ミリエは目を引く金髪、そして目の覚めるような青い虹彩だが、私の方は何と言ったらいいものか、中途半端にくすんだ感じのブロンドに、これまた中途半端に色味のあるグレーの目だ。別に色素に中途半端も何もないのだが、髪と目と肌の色を合わせるとそう言いたくもなってくる。アリエときたら、何ともまあ色素という色素にやる気の欠片が微塵もないのだ。
色素が薄いというのは劣勢遺伝であるからして、人口的な統計からすれば、かなり珍しい部類に入るであろう色味ではある。ではあるのだが、しかしここまで色気がないのでは大手を振って喜べない。
面接官にどうしてここへ来ましたかと問われれば、私の色素はこう答えるだろう。はあ。なんとなく。成り行きで。そりゃあ確かに成り行きなのかもしれないが、せめて表面上だけでもどうにかならなかったのか。就職難すら乗り切れなさげな色素には、思わずもっと頑張れよと言ってやりたくなるほどだ。
ここまで色合いに差のある双子だったので、聖女と呼ばれるほど神々しい色の輝きを放つミリエとはよく比較されたものだ。姿かたちはそっくりなのに、見た目と魔力が鮮烈なミリエと、見た目と魔力がどうにも頼りないアリエが並べば、さぞや珍妙な光景であったことだろう。まるで抜け殻のようであると揶揄されたこともあったものだが、しかし、多分その通りなのだ。
オルカの言葉を受けてしばらくカインは黙り込んでいたが、それでもやはり何かが腑に落ちないらしかった。
「俺が言っているのは魔力のことだ」
魔力。命を形作る力の螺旋。家族や兄弟姉妹、果ては双子、ちかしい存在になればなるほど、その魔力は似るという。全く、だったら一体何だと言うのだ。あまり私を笑わせないでいてほしい。
「ああ、確かにそうだね。アリエはあまり強い魔力持ってないみたいだけど、ミリ……えっと、聖女様はなんて呼べば、その、いいですか」
オルカはミリエを呼びかけて、一瞬言葉に詰まった。照れくさそうな気配が混じっていることは今この場では見逃そう。
「ミリエでいいわよ。別に敬語も要らないわ」
「で、ミリエ……ちゃんは、聖女なだけあってやっぱり凄い魔力を持っているみたいだね」
ミリエちゃん。余所余所しさに呼び捨てしちゃった私とは扱いがかなり違わないかね、君。
「確かに魔力だけでみたら、双子じゃなくても驚きだけど」
オルカもカインと同じように、私とミリエを交互に見比べている。
「ふっ」
悪い悪いと思いつつ、堪えきれなくなってしまった私は、思わず鼻先で吹き出した。オルカとカインの妙な視線が私に集まる。ミリエに睨まれ、あわてて咳払いで誤魔化した。
今更何を言い出すのだ。双子とは思えない。姉妹だとは思えない。ちゃんちゃらおかしいではないか。そんなもの、私にとっては当然だ。
私だって、ミリエという子がアリエの妹であるというのはとても喜ばしいことだ。しかし私は、アリエであってアリエではない。私自身は、ミリエの双子の姉などではないのだ。
誰かがアリエを抜け殻だとか腑抜けただけの人型だとか揶揄したものだが、それはあながち間違いとは言いきれない。否、拍手で返したくなるほどに、なんともまあ上手い言い回しではないか。
そう、神か何かの気まぐれにより、ひとり魂を宿してしまった仮初めの人形は、何もかも知らされぬまま、不思議な不思議なおとぎの国へと放り込まれてしまったのだ。私はこの幻想うず巻く人形劇のただ中で、現し世の全てを隠してアリエという役を演じ、いつ訪れるとも知れない舞台の幕引きを待っている。
「俺が言っているのはそのことだけでは……いや、いい」
思ったように話が進まず気が反れてしまったのか、その後カインは無言の状態に戻ってしまった。どのことを言おうとしたのか、なんて野暮な話はやめておこう。何であろうと、私の置かれた状況など変わらない。
ミリエはその後、しばらく私の顔色を窺うようにこちらを何度か確認していた。心配そうな目をしてみれば、時には睨んで諌めるかのように目を光らせている。
私だって、境内や教会の中で暴言を吐き、はしゃぎ回るだなんていった愚かな真似をするつもりはない。マナが信仰の対象であり、ここがその集約点である神聖な場所であることくらいは承知している。
マナとはすなわち超自然的な存在であり、エネルギー、および事象、そして思想、信仰の対象である。ところによっては、気や、プラーナなんて呼ばれることもあるだろう。この世界に事実としてあまねく存在するそれは、まさに然りのものと言える。
人々は目に見えぬ超自然的、超常の存在としてマナを畏れそして崇め、当たり前のごとく身近にある存在として、マナを受け入れさらには頼って生活しているのだ。
人智の及ばぬ自然界への畏怖と感謝の念からごく自然的に発祥する、いわゆる自然信仰として、マナへの信仰が古くから脈々と受け継がれている。いくらなんでも、それを否定する気まではない。
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