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本編
しおりを挟む午前11時。
陽の光の眩しさに目が覚める。
仕事の疲れがまだ残っているのか、体の怠さが残っている。
そういや昨日も終電まで俺は残業をしていた。頼れる上司も任せられる部下もいない俺にとってはそれが当たり前の日常でもあった。
他人を信じていないし、仮を作りたくもない。だから降りかかった仕事は全て自分の身で受け止めるしかない。
二度寝をしたい気持ちもあるが、お腹が空いたのでそろそろ起きようと思う。
取り敢えず横にあるスマートフォンを起動させ、LINEの未読をチェックする。
通知が1件あった。
なんだろうと思い、起動するとそれはラーメン屋のクーポンの通知だった。
誰かからの遊びを少しでも期待していた自分に俺は苦笑した。
もう久しく友人となんて遊んでなどいない。
シャワーを浴び、歯を磨く。
そしてその後に洗顔、スキンケアを行うのが俺のルーティンなのだが、俺はよく鏡を見てしまう癖がある。
へんな癖なのは重々承知だが、鏡に映る自分を見て、気持ち悪い面だとか死んだ魚の目をしてやがるとかそんなことを考えると何処か心がホッとするのだ。
自分は醜い存在であるということを再認識させるための儀式的なものに近いのかも知れない。
何度も何度も顔を洗い治し、消えろ消えろと唱えることもしばしばあるが鏡に写る男が消えた試しは一度たりともありゃしない。
キーを手に取り、車へと乗り込む。室内の温度が高くなっているため、取り敢えず空調を起動させる。
今日は何を食べようか。
食べログを開き、都道府県ごとのランキングを見てみる。
フレンチ、イタリアンにラーメン、和食と様々なお店が画面上にズラりと並んでいる。
数分間、画面と睨めっこをするが、ピンとくるものが見つからない。
よし、やっぱりいつもの所だな。
スマートフォンを放り投げ、音楽を掛けながら車を走らせる。
車内には重々しい陰鬱なメロディが流れ続けている。
次の曲が始まることはなく、永遠と同じ曲がリピートされている。
30分程車を走らせると目的地に到着した。
外観は、西洋風で1Fはベーカリー、2Fはレストランというような造りになっている。
自動ドアをくぐり抜けると美味しそうなパンの匂いに包まれる。
すぐさまパンを頬張りたい気持ちに駆られるが、その気持ちを抑え、2Fへと向かう。
2Fに着くと、20代後半くらいの女性にカウンターへと案内される。
周りのテーブル席やソファ席もいつもと変わらず人で埋め尽くされているようだ。
「本日のメニューになります。」
メニュー表には、
・オムライスセット
・パスタセット
・ピッツァセット
と書かれている。
俺は迷うこともなく、ノータイムでピッツァセット、そしてそれに合わせてデザートを注文した。
スマホを弄りながら少しすると、前菜がやってきた。
白いお皿の上には、オムレツとリーフレタスにタマネギ、生ハムにチーズが盛られている。
ソースはバルサミコ酢だろうか、赤茶色のものが上にかけられている。
フォークとナイフでオムレツをひと口サイズにカットして、他の野菜とハム・チーズと一緒に口の中に放り込む。
口の中で色んなものが混ざり合い、複雑な味を生み出しているような気がする。
特にソースの酸味が絶妙で更に食欲を唆るような見事な前菜だった。
そうこうしながら、前菜を食べているとメインとなるピッツァがやってきた。
今日注文したのは、ピッツァ・マルゲリータ。最近はクアトロ・フォルマッジやジェノベーゼ、ビスマルクといった変わり種ばかりを頼んでいたのでマルゲリータを頼んだのは久しぶり。
赤々とトマトソースが生地には塗りたぐられており、その上にモッツァレラチーズとバジルが散りばめられている。
また、耳もいい具合に焦げており、釜で焼いたのがわかるような良い焼き目をしている。
ピザカッターでピッツァに十字の切り込みをいれる。8カットや4カットなどと分け方にも色んな種類があるが、俺は4つ切りが好きだ。
特別な拘りがあるからと言うわけでは無いが、食べ応えがあって一気に旨味が口の中一杯に広がる気がするからだ。
また4つ切りにしたピッツァを更にナイフで分割してそれを折り畳んで食べたりするのにも都合が良かったりするので俺はそうしている。
先ずは、4つ切りにした一枚を手に取り、そのまま一気にかぶりつく。
口の中にトマト・チーズ・生地、それら全ての旨味が広がってゆく。
トマトはちょうど良い塩梅に甘じょっぱく、チーズは主張しすぎない程度にミルク感がある、生地はパリパリで良い食感がピッツァ全体の味をワンランク上へと押し上げている。
知らぬ間に、俺は笑っていた。
気付かぬ間に口角が上に上がっている。
普段の生活では笑うことも喜ぶことも、悲しむことも怒ることもない。
そんな自分が笑顔になっている。他人なんてロクでも無い奴ばかり、どれだけ尽くしたとしてもそれを仇で返すような人間達で溢れ返っている。
関われば関わる程に、無駄に神経を使わなければならないし、相手に合わせて気を使ったり、調整しなくてはならない。
それが嫌で嫌でたまらないし、他人が介在することでそんな自分になってしまう自身が1番嫌いでしょうがない。
だから距離を置くことにした、干渉などしない。何を言われても気にするな、合わせるな。信じるんじゃない、俺は独りで生きてゆくのだ。
そう誓いを立て、実行し続けた成れの果てか、笑うことなんて出来ない自分になっていたと思っていたが、美味しいものを口にした時だけは笑みが溢れる。
それを初めて知った時、俺は安堵した。
どんなに心が失われていたとしても、また好きなものを食べることでその気持ちが取り戻される。
また、あの日あの時の遠い昔の笑っていた頃の思い出をまたこうして振り返ることが出来る。
だから俺は美味しいもの(ピッツァ)を食べることを辞められない。
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