セカイギライ

倉賀大介

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本編

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目を開けると真っ白な天井が視界に映った。

いつもと変わらず、目覚めは悪く怠さが取れない。眠りが浅いからか、夢の残滓のようなものが脳内に残っていて気持ちが悪い。

無理矢理夢の記憶をこじ開けようとするも、断片的なものしか拾うことが出来ず、もやは取れない。

特に今日やることも決まってはいない。

医者に毎朝起きた後はカーテンを開けろと言われているのでしぶしぶ開ける。

すると太陽の光が僕の部屋に差し込んできた。身体的にはいいのかも知れないがやっぱり僕はこの光が嫌いだ。

太陽に意志がないことなど分かってはいるが、

「今日も一日頑張りましょう。」

と言われている気がしてならないのだ。前向きさを強要されているような、後ろ向きで怠惰な自分が否定されているような気がするから嫌いなのだ。

「もう充分セロトニンは補給したからいいだろ。」

僕は少ししてまたカーテンを閉めた。

せっかくの休日だから、本当ならば二度寝を決め込みたいところではあるが生憎今の僕には出来ない。気持ちよく二度寝していた頃が懐かしくも思うが、出来ないことを考えていても仕方がない。

もう一度布団に包まり、スマホを起動させる。

特にやりたい事があるわけではないが、取り敢えずスマホを開く。時間の無駄だと分かってはいるが、今はそれくらいしかやる気力がない。

適当に出てきたおすすめ動画を見て、時間を潰す。特段面白くもなければ、感じることもない。何をしているんだろうという意識を感じながらも動画を見ることを続けた。

疲れた。

何もしていないのに、疲れてしまった。ただYouTubeを見ていただけなのにそれすら億劫になってしまった。

もう何も考えたくないな。

スマホを放り投げ、目を閉じる。

何も考えたくない筈なのに、何もしていない筈なのに、脳内には色んな考えが溢れ出る。

何故僕はあの時この選択をしなかったんだとか、明日の仕事はどうすればいいんだとか、ひどい場合には何で僕みたいな奴がのうのうと生きてるんだろうかと、それら全ての考えはひたすらにネガティブだった。

何もしたくないのに、何も考えたくないのに何かを考えてしまう。それもろくでもないことを無意識の内に。

別に後ろ向きに考えたいと思ってそうしているわけではない、おそらくその悪い思考パターンが脳内に刻まれていて、勝手にそれに習って呼び起こされているだけなのだと思う。

だとしたら僕はいつからネガティブに?

分からない、気付けばそうなっていたのだからしょうがない。

思い当たる節なんて考えだすとあれもこれもと無数に出てくる。砂漠から一粒の砂金を探し当てるのと同じ位、そのきっかけを探すのは容易ではない。

ただきっと僕の脳は死にたがっているのだと。

それだけはよく分かる。

側から見れば何不自由暮らしているかのように見えるのかも知れない。けどどうしようもなく、僕は辛いのだ。其処に理屈なんてものは無い、ただ感情が其処にあるだけだ。

「このままでは駄目だ。」

何もしないでいることに耐えきれず、僕は部屋を飛び出した。

ひたすらに洗面台で顔を洗う。目の前に映る虚ろな目をした男をみて、また嫌な気持ちになったがそれでもさっきよりかは幾分か楽になった。

僕は文庫本を手に取り、外に繰り出す。

何処にでもあるようなありふれた公園。

滑り台とブランコ、シーソーが置かれたこじんまりとした公園のベンチに僕は腰掛ける。

木々の葉っぱが揺らめており、風も適度に吹いているから心地よい。

僕は文庫本のページをめくった。

気付けば、1時間弱が経過していた。

やっぱり僕は読書が好きだ。本を読んでいる時間だけは無心になれる。本の世界に引き込まれ、身体がただの抜け殻になり、僕が本の世界の主人公になったかのようなそんな感覚になれるのだ。

この世界を忘れ、違う世界にいける。

僕にとってこの世界はどうしても自分には合っていない。だから僕の世界に行ける手段として、読書はとても良い。

「ああ、そうか。」

僕はここでは無いどこかに行きたいのだ。死を願う自分も、本に浸る自分も、全ては何処か違うところに行きたいという目的に従っているのかもしれない。

言うなればそれ程までにこの世界が嫌いなのだ。

ただシンプルに読書が好きだと思っていたが、世界嫌い故になのかも知れない。この世界を好きになれば、僕は読書なんてしなくなるのだろうか。うん、きっとそうに違いない。でもその確信に近いものと同じように僕はこの世界が嫌いと言う思いも揺るぎなく変わらないものだと思う。

「こりゃ堪らんね。」

僕は立ち上がり、公園を後にした。




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