木製の処刑椅子が美少女に!?悪事を働く聖騎士(笑)ざまぁして何が悪い?〜処刑椅子の妻と俺が復讐を終えて幸せに暮らす方法〜

桜城恋詠

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処刑寸前の俺が処刑椅子と旅に出るまで

美少女になった処刑椅子

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「…は…?」

 待てども暮せども木製椅子の足元から木々の触手や蔦が音を立てて顕現しない。
 耳元で囁かれた美しい少女の声を聞き、思わず閉じていた瞳を見開き素っ頓狂な声を上げる。
 俺の身体は木製椅子に座ったまま五体満足で、美しい声を持つ少女が現れた様子もない。

 ーーまさか、美声に酔いしれて死ねるように聖騎士が裏声を使って俺に囁いたんじゃないだろうな…?

「あるじさま。エンゲージ」
「はぁ…?エンゲージだって?」

 困惑しているのは俺だけじゃない。
 聖騎士たちも「処刑椅子に腰を下ろして何故生きているんだ」と驚愕している。
 立ち上がったらどうなるのだろう。まさか、無罪放免。開放してくれるのだろうかと座面から腰を浮かせようとした瞬間にまた美しい少女の声がした。

 ーーエンゲージってあれだろ。
 魔石同士の結婚。異性の魂と結びつきを深め、魔力譲渡の際に感じる性的興奮を高める。
 一度契約すれば原則解除は複雑な手順を踏まなければならず、見知らぬ少女の声に促されて行うものではない。
 異性のパートナーを得た男女が結婚と同時に行う儀式だ。
 俺には一生縁のない話だと思っていたのに、美しい少女と俺の声が「エンゲージ」と呟くことにより、どうやら契約が成立してしまったらしい。

「何!?エンゲージだと!!!」
「処刑椅子が魔力放出能力を持つ女であるわけないだろう!処刑椅子諸共処分しろ!」

 足元から眩い光に包まれ、思わず目を瞑っている間に聖騎士達の怒声や悲鳴が聞こえる。風を切る音、肉を切る音。
 何かが倒れる音ーーそれらの音と眩い光が消え、座面に座っていた椅子が突然プニョプニョとした弾力のあるものに変わった。
 驚いて目を開ければ、いつの間にか両手を縛る拘束が解かれていてーー

「ほ、ほそ…いや、木の幹…?いや、足…!?」

 自身の警部に目をやれば、人間のこのまま座り続けていたら折れてしまいそうな細い太ももの上に座っているのは確かのようだったが、その太ももの先を辿ると、奇妙な物を目にする。
 膝小僧から下が木の幹のような分厚い木々の枝に連結されているのだ。
 膝小僧と枝の結合面は完全に人間の太ももと一体化しており、皮膚と木々の逆目はなかなか痛ましい。

「あるじさま」
「うわああ!」

 俺が椅子代わりに座っている太ももの主である少女が俺の顔を横から覗き込んできた。
 初めて目にした少女が美しすぎて、思わず飛び退いてしまった。とてもじゃないが、人間とは思えない神々しさだ。

 頸部まで伸びた美しいエメラルドグリーンの髪。神聖な女神と表現するのが適切であろう、眠そうに細められたアイスブルーの瞳。
 俺と同じくらいかもう少し下くらいの幼い顔立ちであるにもかかわらず、たわわに実る豊満な胸。下着を隠す為だろうか。透けすぎて美しい肢体をまったく隠せていないヴェールのような、身体を覆う透明な薄布ーー俺が見たことのあるどの女よりも美しい。
 まさに美少女と呼ばれるべき少女がここにいた。

「め、女神…なのか…?」
「スピカ」
「スピカ…?」
「ん。スピカ、あるじさま、守る」
「守るって…俺を?」

 こくこくと頷いた美少女ーースピカは俺の手を両手で握り、儚げに微笑んだ。
 その微笑みがなんと美しいことか。
 俺の周りには聖騎士の死体らしき残骸が山となって倒れ伏しているというのに。恐怖など感じることなく、俺はただ美しい彼女に見惚れていた。

「あるじさま。スピカと一緒に、生きて」

 ーー俺はどうやら、生き延びたらしい。

 わけもわからぬままずっとこの場にいるわけにもいかず。スピカの手を握り返せば、スピカは俺の手を握ったまま木の棒を器用に動かして人間のように二足歩行で歩く。
 膝から下が木の幹になっているだけなので、問題なく関節も曲げて歩けるようだ。人間の神秘だな、と考えながら処刑椅子が消えていることに気づく。

「…なあ、処刑椅子は…」
「……」

 手を繋いだスピカは眠そうに瞼を擦っては不思議そうに首を傾げ、また俺を先導するために歩き始める。
 知らないってことだろうか。わからないことだらけだ。
 教会に冤罪を掛けられ、処刑椅子で殺害されそうになった所をスピカに助けられたが、そのスピカが何処から現れたのかまったくわからない。

 まさか、処刑椅子本人とか言わないよな…?

 スピカは迷いのない動作で俺を誘い、森の奥深く。開けた場所にやって来て立ち止まると、何故かその場でジャンプした。
 スピカの足は樹木の為、人間の足が奏でる足音よりもずしん、ずしんと重苦しい音が響く。
 その音に誘われて顔を出したのは、かろうじて人間ではあるが、スピカよりも反応に困る異形の生き物だった。
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