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処刑寸前の俺が処刑椅子と旅に出るまで

獣姦したかもしれない母ウサギ

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 ーーヒストリカル王国。

 ヒストリカルの名を受け継ぐ王族が納めるこの地の中枢に位置するのが王都である。
 西の教会、南の魔獣が住まう街、北の王都、東の貧民街。大雑把に東西南北4つに分かれている。
 その中でも王都は王族の暗殺を防ぐため王立騎士団が常に国民の安全を守っており、王立騎士団や特別な許可を得たもの以外刃物の持ち込みを禁止している。
 もちろん魔力の使用も厳禁で、移住する際は厳重なセキュリティチェックを王立騎士団から受け合格しなければならないのだ。
 偽名なんかを使用して王都に入り込もうとすれば、検問に引っかかって即刻お縄だ。
 王都に住む住人の知り合いなどがいれば、比較的身元がしっかりしていると見なされ一時滞在は許されることも多いと聞くがーー俺が処刑される原因を作った、クソ親父の手を借りてまで王都で暮らそうとは思わなかった。

「王都にはクソ親父が住んでいるがーー教会の奴らと繋がっている。本名で堂々と検問を受ければ生きているのがバレるし、偽名を使っても俺がラクルスだってことが即刻バレてお縄だ。王都の移住計画は無理がある。高貴な血が流れていない余所者には厳しいからな、あそこ」
「あのね、ラビのおじいちゃん…、王都でお医者様やっているの!おじいちゃんにラビのお友達だってお話したら、おじいちゃん、きっと助けて…」
『ーー愛しい我が娘。人間に手を差し伸べるなど、何を考えているのです』
「あっ!ママ!」

 キューキューとなにかの鳴き声に誘われて目線を下に向ければ、白いもふもふとした毛並みのウサギがこちらを見上げている。
 つぶらな赤い瞳が印象的なウサギを、ラビユーはママと呼んでいた。育ての親ではなく実の親であるならば、獣人の父とこの母親は…いや、考えるのはよそう。
 ラビユーが生まれてきたならば、小さな身体でもーー獣であるがーー人間と身体を重ねる手段はあるのだろう。
 特殊性癖の一つに獣姦があるならば、ラビユーの父親が特殊性癖だったと結論付けた方が納得しやすい。

『卑しい人間は甘い言葉ばかり囁き、こちらが歩み寄った途端に梯子を外すのです。人間などに頼らず獣人として生きなさいと常々申し上げたはずですよ。物分かりの悪い子ですね』
「でもね、ママ。らくるんだけじゃなくて、すぴりんも困っているんだよ!すぴりん、らくるんのものになったんだって!せーれーさんは、大事にしなきゃ!」
『あなたのような生まれたばかりの高位精霊が人間とまぐわうことを選ぶなど…精霊界の損失でしょうに…』
「あるじさまとの婚姻は大精霊さまのご意思」
『…ならば、ラビユーに頼らず二人で生きる道を考えなさい』
「ママ、どうやって生計を立てていくか決まるまでここにいてもいいって!」

 すぴりんと一緒だー!

 悲鳴を上げて喜ぶラビユーに、地面に座り込み船を漕ぐスピカ。
 丸くて小さなウサギはラビユーに抱き抱えられ乱暴に振り回されると目を回していた。
 女3人ーー全員人外だがーー同居生活など、大丈夫なのだろうか。
 不安を募らせながらも、俺はラビユーの申し出を甘んじて受け入れることにした。
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