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スピカとエンゲージ
正式なエンゲージ
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「わあ!すっごい!開けた場所ー!ラビもはじめてきた!」
スピカが感嘆の声を上げるのも無理はない。
鬱蒼と茂る森はどこを見渡しても木々が生えていない開けた場所を探すくらいなら伐採した方が早いくらいどこもかしかも等間隔に木々が植わっていたのに、この場所だけは右半分だけ綺麗に枝が伸びていない。
左に偏った魔樹木を中心とした半径500mほどには一切樹木が植えられていないのだ。
雑草などもなく、土が剥き出しになっている。
「ーーこれが、スピカ」
俺の腕にまとわりついたまま呆然とした様子のスピカはぽつりと呟くと、そのまま大きな木を見上げて黙り込んでしまった。
左だけに緑の茂る木は、歪なオブジェのように聳え立っている。
じっと見つめていると、左目に痛みが走った。
チリチリと焼けるような痛みは、今まで感じたことがない。
何事かと目を押さえれば、スピカがぽつりと呟く。
「あるじさま、エンゲージ、しよ」
「エンゲージ?」
何を今更。俺を助けるためにしたじゃないか。
互いにエンゲージの意志を確認し宣言することで、魂の結びつきが生まれ、魔力譲渡の際に生まれる快楽や魔術供給量を増幅させる。
「あるじさまとスピカ、仮契約。本契約、互いの魔石…重ね合わせることで結ばれる」
「魔石と魂を強く結びつける。それがエンゲージだ。物理的な婚姻ができない人間同士以外が行うことの多い儀式だね。ラビユー、私達は近くを散策でもしていようか」
「散策?なんもないのに?」
「なんにもないからこそ、だよ」
「うん!スピカ、散策する!」
気を利かせてくれたのだろう。魔石は急所だ。そう安々と複数人に見せつけるものではない。
腕にまとわりつくスピカを伴い、ゆっくり魔樹木に向けて歩みを進める。
まるでバージンロードを歩く花嫁のようだ。
隣の俺が上半身裸じゃ、なんとも格好つかないが。
「あるじさま。スピカと…ずっと一緒に、生きてくれる?」
俺に懐いて好意を包み隠さずに見せてくれるーーこんなに可愛らしい美少女を、頼まれたって手放すはずがないだろう。
犯罪者を食い殺す化け物?それがどうした。
可愛らしい容姿の前では犯罪行為すら霞む。俺が一言頷くだけで、スピカが俺だけのものになるならば、喜んで契約を結ぼう。
「ああ。もちろん」
左目が疼く。じんじんと魔樹木へ近づくに連れて強まる痛みを辿れば、スピカの魔石が何処にあるかはすぐにわかった。
魔樹木の中に無理矢理埋め込まれた魔石を視界に入れることで、瞳に鋭い痛みが走ると気づいたからだ。
「誓うよ、スピカ。俺はスピカの為に生きるって」
だからどうか、スピカもーー俺のために生きてくれ。
魔樹木の太い根本に顔を近づければ、瞳に感じた激痛と引き換えに魔樹木が半分に割れた魔石を浮かび上がらせた。
俺の瞳と同じ、桃色と深緑が歪に混ざり合い淀んだ、ルビーインゾイサイトの魔石。
俺はこの魔石が本来一つであったことを証明するため、左目を見開き、戸惑いなく魔樹木に埋められた魔石に触れ合わせた。
「あるじさま」
美しいエメラルドグリーンの髪を靡かせ、星の輝きにも似た金色の瞳をこちらに向けたスピカは、いつもの見慣れた煽情的な下着姿を隠すためお情け程度に羽織ったヴェール姿はなく、まともな服を着ていた。
まともとは言っても、体全体を覆い隠す、白いくるぶし丈のチュールワンピースだ。
しっかりとウエストで結ばれたリボンが、スタイルの良さをより一層際立たせている。
「あるじさま。スピカ、あるじさまが大好き。でも、同じくらい、リディアも大好きだったの」
「先代聖女様か?友達だったんだよな」
「だから、スピカーー」
「…スピカと、メロディアのこと。守って。リディアの魔石を受け継いだ娘。次代の聖女。メロディアが教会をなくしたいって考えているならーーきっと、リディアのように。突拍子もないことを…。みんなを困らせてしまうから。だから、お願い。スピカと、メロディアを守って。大好きなあるじさま」
「…君に誓うよ」
「ありがとう」
あるじさま、大好き。
俺の胸に飛び込んできたスピカが、花の咲くような笑顔を俺に向ける。
いつものスピカだったら、絶対にしない表情だ。
だってスピカは、いつだってつまらなさそうにしているか、むっと怒りを露わにして、ただ無表情で前を見つめているだけなのにーー
「あるじさま」
「…っ?」
早着替えにも程があるだろう。俺はいつの間にか魔樹木の前で意識を失って倒れたらしい。
俺の頭を膝に乗せて座り込んだスピカが、心配そうな顔で覗き込んでいる。
その姿は見慣れた下着に白のチュールを羽織った踊り子のようで、神秘的な美しさを際立たせていた。
「スピカ…。さっきまで、白いロングドレスみたいなの、着てなかったか?」
「…スピカ、お着替えしない。いつも、この姿。ただ、ロングドレス…リディアと、お揃い。昔、よく着てた…かも…」
スピカが生きていた頃の姿ってことか?でも、スピカが生きていた頃俺は生まれていないし、あるじさまとはっきり呼んでいた。
俺の勘違いか、白昼夢でも見たのか…。
「…今度、服を買おう」
「お洋服」
「聖女さんとお揃いの服を着たスピカの姿が見たい」
「ーーーん。スピカも、メロディアとお揃いの服、着る」
聖女メロリーチェとしてではなく、王都で暮らす村人メロディアとして彼女と出会うことは随分と先の話になるだろう。
俺は彼女たちと再び相まみえる時まで、スピカと聖女さんの服をオーダーメイドで作れる金額を貯金すべく、仕事に精を出すと決めた。
スピカが感嘆の声を上げるのも無理はない。
鬱蒼と茂る森はどこを見渡しても木々が生えていない開けた場所を探すくらいなら伐採した方が早いくらいどこもかしかも等間隔に木々が植わっていたのに、この場所だけは右半分だけ綺麗に枝が伸びていない。
左に偏った魔樹木を中心とした半径500mほどには一切樹木が植えられていないのだ。
雑草などもなく、土が剥き出しになっている。
「ーーこれが、スピカ」
俺の腕にまとわりついたまま呆然とした様子のスピカはぽつりと呟くと、そのまま大きな木を見上げて黙り込んでしまった。
左だけに緑の茂る木は、歪なオブジェのように聳え立っている。
じっと見つめていると、左目に痛みが走った。
チリチリと焼けるような痛みは、今まで感じたことがない。
何事かと目を押さえれば、スピカがぽつりと呟く。
「あるじさま、エンゲージ、しよ」
「エンゲージ?」
何を今更。俺を助けるためにしたじゃないか。
互いにエンゲージの意志を確認し宣言することで、魂の結びつきが生まれ、魔力譲渡の際に生まれる快楽や魔術供給量を増幅させる。
「あるじさまとスピカ、仮契約。本契約、互いの魔石…重ね合わせることで結ばれる」
「魔石と魂を強く結びつける。それがエンゲージだ。物理的な婚姻ができない人間同士以外が行うことの多い儀式だね。ラビユー、私達は近くを散策でもしていようか」
「散策?なんもないのに?」
「なんにもないからこそ、だよ」
「うん!スピカ、散策する!」
気を利かせてくれたのだろう。魔石は急所だ。そう安々と複数人に見せつけるものではない。
腕にまとわりつくスピカを伴い、ゆっくり魔樹木に向けて歩みを進める。
まるでバージンロードを歩く花嫁のようだ。
隣の俺が上半身裸じゃ、なんとも格好つかないが。
「あるじさま。スピカと…ずっと一緒に、生きてくれる?」
俺に懐いて好意を包み隠さずに見せてくれるーーこんなに可愛らしい美少女を、頼まれたって手放すはずがないだろう。
犯罪者を食い殺す化け物?それがどうした。
可愛らしい容姿の前では犯罪行為すら霞む。俺が一言頷くだけで、スピカが俺だけのものになるならば、喜んで契約を結ぼう。
「ああ。もちろん」
左目が疼く。じんじんと魔樹木へ近づくに連れて強まる痛みを辿れば、スピカの魔石が何処にあるかはすぐにわかった。
魔樹木の中に無理矢理埋め込まれた魔石を視界に入れることで、瞳に鋭い痛みが走ると気づいたからだ。
「誓うよ、スピカ。俺はスピカの為に生きるって」
だからどうか、スピカもーー俺のために生きてくれ。
魔樹木の太い根本に顔を近づければ、瞳に感じた激痛と引き換えに魔樹木が半分に割れた魔石を浮かび上がらせた。
俺の瞳と同じ、桃色と深緑が歪に混ざり合い淀んだ、ルビーインゾイサイトの魔石。
俺はこの魔石が本来一つであったことを証明するため、左目を見開き、戸惑いなく魔樹木に埋められた魔石に触れ合わせた。
「あるじさま」
美しいエメラルドグリーンの髪を靡かせ、星の輝きにも似た金色の瞳をこちらに向けたスピカは、いつもの見慣れた煽情的な下着姿を隠すためお情け程度に羽織ったヴェール姿はなく、まともな服を着ていた。
まともとは言っても、体全体を覆い隠す、白いくるぶし丈のチュールワンピースだ。
しっかりとウエストで結ばれたリボンが、スタイルの良さをより一層際立たせている。
「あるじさま。スピカ、あるじさまが大好き。でも、同じくらい、リディアも大好きだったの」
「先代聖女様か?友達だったんだよな」
「だから、スピカーー」
「…スピカと、メロディアのこと。守って。リディアの魔石を受け継いだ娘。次代の聖女。メロディアが教会をなくしたいって考えているならーーきっと、リディアのように。突拍子もないことを…。みんなを困らせてしまうから。だから、お願い。スピカと、メロディアを守って。大好きなあるじさま」
「…君に誓うよ」
「ありがとう」
あるじさま、大好き。
俺の胸に飛び込んできたスピカが、花の咲くような笑顔を俺に向ける。
いつものスピカだったら、絶対にしない表情だ。
だってスピカは、いつだってつまらなさそうにしているか、むっと怒りを露わにして、ただ無表情で前を見つめているだけなのにーー
「あるじさま」
「…っ?」
早着替えにも程があるだろう。俺はいつの間にか魔樹木の前で意識を失って倒れたらしい。
俺の頭を膝に乗せて座り込んだスピカが、心配そうな顔で覗き込んでいる。
その姿は見慣れた下着に白のチュールを羽織った踊り子のようで、神秘的な美しさを際立たせていた。
「スピカ…。さっきまで、白いロングドレスみたいなの、着てなかったか?」
「…スピカ、お着替えしない。いつも、この姿。ただ、ロングドレス…リディアと、お揃い。昔、よく着てた…かも…」
スピカが生きていた頃の姿ってことか?でも、スピカが生きていた頃俺は生まれていないし、あるじさまとはっきり呼んでいた。
俺の勘違いか、白昼夢でも見たのか…。
「…今度、服を買おう」
「お洋服」
「聖女さんとお揃いの服を着たスピカの姿が見たい」
「ーーーん。スピカも、メロディアとお揃いの服、着る」
聖女メロリーチェとしてではなく、王都で暮らす村人メロディアとして彼女と出会うことは随分と先の話になるだろう。
俺は彼女たちと再び相まみえる時まで、スピカと聖女さんの服をオーダーメイドで作れる金額を貯金すべく、仕事に精を出すと決めた。
応援ありがとうございます!
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