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ぶっ飛び公爵令嬢と燃える森
魔樹木移植
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「ラクルスくん!」
「ぐっ…!」
スレインさんの叫び声が聞こえる。
強烈な左目の痛みに思わず声を漏らしながらも、どうにかスピカの魔石を魔樹木から引き抜く。
スレインさんが用意してくれていた魔樹木の上へ下ろし、スレインとお嬢様がこの場にいなければのたうち回っていたほどの激痛に耐え抜いた。今は痛みに震えている場合ではない。
スレインさんが自身の来ていたTシャツを脱ぎ、近くの土をかき集めて即席の苗床を作る。
魔樹木の枝を苗床に突き刺しほっと息を吐いた時だった。お嬢様の叫び声が聞こえたのは。
「木が!倒れますわよ!!!」
炎に巻かれた魔樹木はどうにかスピカの魔石から供給される魔力で形を保っていたが、魔力供給を奪われあっさりと陥落する。
グラグラと左右に揺れて左に朽ちていく魔樹木を見つめながら、俺はその場から動くことができなかった。
「繋がりは…」
左目に感じていた強烈な激しい痛みが消え、思わず左目に埋め込まれた魔石に込められた魔力を辿って、スピカとの繋がりを確かめる。
繋がりは微かではあるものの、残ったままだ。
魔樹木の移植は成功した。
あとは、俺たち3人が生きて炎が燃え盛る魔獣の森から脱出すればいいだけ。
「ラクルスくん、魔力はまだあるかい」
「ああ。もちろんだ」
「スピカの魔石に魔力を注いでほしいんだ。できる限り、絶え間なく。しっかりと苗床に根を張らせないと、スピカが死んでしまう」
「わかった」
スピカが生きるための魔力原理は後で確かめればいいことだ。
とにかく今は、言われた通りにすればいい。
スレインさんのTシャツを受け取り、クイックイーターに跨ってからしっかりと膝の上に苗床を乗せ、スピカの魔石に直接触れて魔力を最大限注ぎ込む。
猛スピードで走り始める魔獣の背で感じる快感に悶え苦しむなどどんなプレイだ。
「そんなんじゃすぐに魔力枯渇を起こしますわよ!これだから耐え症のない殿方は…っ!」
「じゃあ、どうしろって言うんだ!?」
「魔力の回復は、充分な睡眠と食事と言われているけれどーー実は、もう一つ方法がある」
「スレインさん!?」
「簡単なことだ。性的興奮を感じれば、すぐにでも魔力は回復する」
「なっ!わたくしにストリップショーをしろと言いたいんですの!?」
まずはお嬢様の身体で興奮すると思っている所から考えを改めて欲しい。
好きでもない女の身体を見たって、生理現象的な意味での興奮はするかもしれないが、魔力を回復するだけの魔力を得るためには、やはり自給自足が必要だ。
つまり、妄想力が試されている。そんなことあるか、と。
試しにスピカのあられもない姿を想像してみる。
『…あるじさま』
舌っ足らずなスピカの言葉だけで、思うことがないわけではない。
燃え盛る炎を駆け回る魔獣の背に乗り悶々と思考し続けていれば、スピカに魔力を注ぎ込んでいているにも関わらず、一向に魔力が減らないことに気づく。
なるほど、これが自給自足か。
「ちょっと!聞いていますの!?」
「…なんとなく、コツが掴めた」
「いまので!?」
「それはよかったよ」
「スレインさん、ラビユーは?助けに行かなくていいのか?」
「ごめん。ラビユーは…教会に連れ去られてしまったんだ」
「教会に?」
ラビユーって誰ですの?
お嬢様は疑問を抱いているが、今は説明する時間があったらスピカのことだけを考えて魔力回復に勤めなければ。
ーーラビユーが教会に囚われた。
ラビユーの珍しい点と言えば、やはり人間と魔獣の混血であることだろうか。
人間、ウサギ、馬の血が混ざる混血の、かろうじて人形を保つ天然物など、いかにも親父が好みそうな実験台だ。
今後意図的にそうした化け物を生み出すことに没頭しそうな程に、完成されたラビユーの境遇を考えると心が痛む。
天真爛漫なラビユーが、教会の非人道的な研究に耐えられるわけがない。
やはり教会は潰すべきだ。何を引き換えにしても。
「マスティフがそれとなくラビユーのことは影から見守ると言っていたから、死ぬような実験に巻き込まれることはないとは思う。マスティフがいないところでの実験は、防ぎ切れないかもしれないけどね…」
「ティトマスに会ったのか?」
「魔樹木に向かう前にね。ここに来る途中、ニュースバードが飛んでいるのを見た。メロディアちゃんも神託を受けてこの事態を把握していると思う。いずれ、この地には王立騎士団がやってくる」
「聖女さんが呼んだ王立騎士団が!?あいつら、火災に役立つのか?」
「何とぼけたこと言っていますの!?王立騎士団は魔術のエキスパート集団ですのよ!?魔力さえあれば火の消火作業などお茶の子さいさいですわ~!」
「なら、じっとしてればよかったじゃないか」
「スピカのこと、王立騎士団になんて説明するんだい」
「説明?」
説明義務なんてあったかと頭を悩ませれば、またお嬢様から叱咤が飛んできた。
「精霊を無許可で使役するのは違法でしてよ?」
木製椅子の使役許可はマルクス・メイホールが所持しているが、魔樹木の使役許可などラクルス・カールメイクだって保持していない。
上級精霊の使役許可…。マルクス・メイホールの名前で降りるだろうか。
「ぐっ…!」
スレインさんの叫び声が聞こえる。
強烈な左目の痛みに思わず声を漏らしながらも、どうにかスピカの魔石を魔樹木から引き抜く。
スレインさんが用意してくれていた魔樹木の上へ下ろし、スレインとお嬢様がこの場にいなければのたうち回っていたほどの激痛に耐え抜いた。今は痛みに震えている場合ではない。
スレインさんが自身の来ていたTシャツを脱ぎ、近くの土をかき集めて即席の苗床を作る。
魔樹木の枝を苗床に突き刺しほっと息を吐いた時だった。お嬢様の叫び声が聞こえたのは。
「木が!倒れますわよ!!!」
炎に巻かれた魔樹木はどうにかスピカの魔石から供給される魔力で形を保っていたが、魔力供給を奪われあっさりと陥落する。
グラグラと左右に揺れて左に朽ちていく魔樹木を見つめながら、俺はその場から動くことができなかった。
「繋がりは…」
左目に感じていた強烈な激しい痛みが消え、思わず左目に埋め込まれた魔石に込められた魔力を辿って、スピカとの繋がりを確かめる。
繋がりは微かではあるものの、残ったままだ。
魔樹木の移植は成功した。
あとは、俺たち3人が生きて炎が燃え盛る魔獣の森から脱出すればいいだけ。
「ラクルスくん、魔力はまだあるかい」
「ああ。もちろんだ」
「スピカの魔石に魔力を注いでほしいんだ。できる限り、絶え間なく。しっかりと苗床に根を張らせないと、スピカが死んでしまう」
「わかった」
スピカが生きるための魔力原理は後で確かめればいいことだ。
とにかく今は、言われた通りにすればいい。
スレインさんのTシャツを受け取り、クイックイーターに跨ってからしっかりと膝の上に苗床を乗せ、スピカの魔石に直接触れて魔力を最大限注ぎ込む。
猛スピードで走り始める魔獣の背で感じる快感に悶え苦しむなどどんなプレイだ。
「そんなんじゃすぐに魔力枯渇を起こしますわよ!これだから耐え症のない殿方は…っ!」
「じゃあ、どうしろって言うんだ!?」
「魔力の回復は、充分な睡眠と食事と言われているけれどーー実は、もう一つ方法がある」
「スレインさん!?」
「簡単なことだ。性的興奮を感じれば、すぐにでも魔力は回復する」
「なっ!わたくしにストリップショーをしろと言いたいんですの!?」
まずはお嬢様の身体で興奮すると思っている所から考えを改めて欲しい。
好きでもない女の身体を見たって、生理現象的な意味での興奮はするかもしれないが、魔力を回復するだけの魔力を得るためには、やはり自給自足が必要だ。
つまり、妄想力が試されている。そんなことあるか、と。
試しにスピカのあられもない姿を想像してみる。
『…あるじさま』
舌っ足らずなスピカの言葉だけで、思うことがないわけではない。
燃え盛る炎を駆け回る魔獣の背に乗り悶々と思考し続けていれば、スピカに魔力を注ぎ込んでいているにも関わらず、一向に魔力が減らないことに気づく。
なるほど、これが自給自足か。
「ちょっと!聞いていますの!?」
「…なんとなく、コツが掴めた」
「いまので!?」
「それはよかったよ」
「スレインさん、ラビユーは?助けに行かなくていいのか?」
「ごめん。ラビユーは…教会に連れ去られてしまったんだ」
「教会に?」
ラビユーって誰ですの?
お嬢様は疑問を抱いているが、今は説明する時間があったらスピカのことだけを考えて魔力回復に勤めなければ。
ーーラビユーが教会に囚われた。
ラビユーの珍しい点と言えば、やはり人間と魔獣の混血であることだろうか。
人間、ウサギ、馬の血が混ざる混血の、かろうじて人形を保つ天然物など、いかにも親父が好みそうな実験台だ。
今後意図的にそうした化け物を生み出すことに没頭しそうな程に、完成されたラビユーの境遇を考えると心が痛む。
天真爛漫なラビユーが、教会の非人道的な研究に耐えられるわけがない。
やはり教会は潰すべきだ。何を引き換えにしても。
「マスティフがそれとなくラビユーのことは影から見守ると言っていたから、死ぬような実験に巻き込まれることはないとは思う。マスティフがいないところでの実験は、防ぎ切れないかもしれないけどね…」
「ティトマスに会ったのか?」
「魔樹木に向かう前にね。ここに来る途中、ニュースバードが飛んでいるのを見た。メロディアちゃんも神託を受けてこの事態を把握していると思う。いずれ、この地には王立騎士団がやってくる」
「聖女さんが呼んだ王立騎士団が!?あいつら、火災に役立つのか?」
「何とぼけたこと言っていますの!?王立騎士団は魔術のエキスパート集団ですのよ!?魔力さえあれば火の消火作業などお茶の子さいさいですわ~!」
「なら、じっとしてればよかったじゃないか」
「スピカのこと、王立騎士団になんて説明するんだい」
「説明?」
説明義務なんてあったかと頭を悩ませれば、またお嬢様から叱咤が飛んできた。
「精霊を無許可で使役するのは違法でしてよ?」
木製椅子の使役許可はマルクス・メイホールが所持しているが、魔樹木の使役許可などラクルス・カールメイクだって保持していない。
上級精霊の使役許可…。マルクス・メイホールの名前で降りるだろうか。
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