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5・公爵家の愛娘、毛糸を作る
異世界転移と聖女としての使命(五月雨雲母)・1
(ようやく邪魔な妹がいなくなって、清々したと思ったのに……!)
五月雨雲母の人生が順風満帆だったのは、妹の瑠衣が生まれるまで。
そこから先は坂の上から転がり落ちるかのように、不幸な出来事ばかりが起きた。
(なんで両親は、いっつもあの子のことばっかり考えているのよ!?)
妹さえいなくなれば、両親の愛は自分だけのものになる──。
そんな雲母の企みは、成功しなかった。
瑠衣が命を落としても2人の心は妹に囚われたまま、姉をいないものとして扱い始めたのだ。
(何よ……! あたしのほうがいなくなればよかったのになんて言いたそうな、その顔は……!)
誰からも愛される存在でなくては気がすまない雲母は、五月雨家にはいられなかった。
苛立ちを隠せぬまま自宅を飛び出し、勢いよく走り出し……。
(え……?)
前方で水道管の工事をしているのに気づかず、そのまま穴が空いたコンクリートの中へ、すっぽりと落ちていった。
(いやぁあああ!)
まるでアリスが穴から落下し、不思議の国へと誘われるように――こうして、異世界へとやってきた。
日本で命を落としたはずの妹。
五月雨瑠衣が転生している世界だと、知りもせず……。
*
「神殿もなかなか、エグいことやってるよねー」
この世界で聖女として暮らすようになった雲母には、気に食わない男性が1人だけいた。
その名は、カイブル・アカイム。
お目つけ役兼護衛としてそばにいる、聖騎士だ。
(日本と違ってここではみーんなあたしをチヤホヤしてくれて、超ハッピーだけど……。こいつだけは、無関心なのよね……)
彼は左右どこから見ても、顔立ちの整ったイケメンだった。
喉から手が出るほどカイブルを欲しがった雲母は、あの手この手で籠絡しようと試みているが──どうにも、芳しくない。
(こんなにかわいいあたしに惚れないなんて、どうかしてんじゃないの?)
何度も彼の正気を疑ったが、どれほど非難の眼差しを向けたところで回分の心が手に入るわけではないのだ。
雲母は護衛騎士から返事が聞こえてこなくとも、永遠に独り言を紡ぎ続ける。
「あんなチビを追い出したかと思えば、偉いところで保護されているのを見て大慌て、なんてさー!」
雲母が異世界へやってくる前、聖女見習いと呼ばれる幼い少女がここで暮らしていたらしい。
ロルティと呼ばれた幼子は雲母がやってきたためお役御免となり、迷いの森に着の身着のままで追放された。
「やっぱさー。あのまま、死んじゃえばよかったって思われてんのかな? かわいそー」
聖女見習いとして長年神殿で暮らしていた少女は強運の持ち主だったようで、ロルティはハリスドロア公爵に見初められ──彼の娘として暮らすようになったらしい。
これに祭祀は激昂し、雲母とカイブルに命令を下した。
『神殿の秘密を知る幼子など、生かしてはおけぬ! この国の平和を脅かす者を、なんとしてでも秘密裏に始末するのだ!』
仰々しい命令を下された雲母は、それを実行する気などまったくない。
「なんであたしが、人殺しにならなきゃいけないわけ? 人生、超ハードモードすぎなんだけど」
妹を見殺しにした姉とは思えぬ発言とともに、少しでもカイブルによく思われようと善人ぶる。
(聖女見習いだって言うチビの名前を出すと、カイブルが反応するんだよね……)
雲母が彼の眉をじっと見つめていれば、やはりカイブルの表情が一瞬だけ変化した。
それは何かを堪える時に、人間がする仕草だと知っているからこそ──。
「ねぇ。カイブルってさー。あたしが来るまでは、聖女見習いと仲がよかったんだって?」
あえて護衛騎士を揺さぶった。
彼は無表情のままではあったが、目敏い雲母は見逃さない。
カイブルがピクリと、指先を動かしたのを。
(ほらね。やっぱり……)
雲母は内心ほくそ笑むと、新しいおもちゃを見つけたと言わんばかりに口元へ三日月を描いた。
「隠さなくていいよー。あたし、全部知ってるんだから。この間もさー」
「聖女様」
護衛騎士はどれほど雲母が呼びかけても、2人きりの時は返事すらもしなかったのだ。
(凄い。超快挙じゃん!)
テンションが上がったせいか。
微笑みを深め、彼を妖艶に誘う。
五月雨雲母の人生が順風満帆だったのは、妹の瑠衣が生まれるまで。
そこから先は坂の上から転がり落ちるかのように、不幸な出来事ばかりが起きた。
(なんで両親は、いっつもあの子のことばっかり考えているのよ!?)
妹さえいなくなれば、両親の愛は自分だけのものになる──。
そんな雲母の企みは、成功しなかった。
瑠衣が命を落としても2人の心は妹に囚われたまま、姉をいないものとして扱い始めたのだ。
(何よ……! あたしのほうがいなくなればよかったのになんて言いたそうな、その顔は……!)
誰からも愛される存在でなくては気がすまない雲母は、五月雨家にはいられなかった。
苛立ちを隠せぬまま自宅を飛び出し、勢いよく走り出し……。
(え……?)
前方で水道管の工事をしているのに気づかず、そのまま穴が空いたコンクリートの中へ、すっぽりと落ちていった。
(いやぁあああ!)
まるでアリスが穴から落下し、不思議の国へと誘われるように――こうして、異世界へとやってきた。
日本で命を落としたはずの妹。
五月雨瑠衣が転生している世界だと、知りもせず……。
*
「神殿もなかなか、エグいことやってるよねー」
この世界で聖女として暮らすようになった雲母には、気に食わない男性が1人だけいた。
その名は、カイブル・アカイム。
お目つけ役兼護衛としてそばにいる、聖騎士だ。
(日本と違ってここではみーんなあたしをチヤホヤしてくれて、超ハッピーだけど……。こいつだけは、無関心なのよね……)
彼は左右どこから見ても、顔立ちの整ったイケメンだった。
喉から手が出るほどカイブルを欲しがった雲母は、あの手この手で籠絡しようと試みているが──どうにも、芳しくない。
(こんなにかわいいあたしに惚れないなんて、どうかしてんじゃないの?)
何度も彼の正気を疑ったが、どれほど非難の眼差しを向けたところで回分の心が手に入るわけではないのだ。
雲母は護衛騎士から返事が聞こえてこなくとも、永遠に独り言を紡ぎ続ける。
「あんなチビを追い出したかと思えば、偉いところで保護されているのを見て大慌て、なんてさー!」
雲母が異世界へやってくる前、聖女見習いと呼ばれる幼い少女がここで暮らしていたらしい。
ロルティと呼ばれた幼子は雲母がやってきたためお役御免となり、迷いの森に着の身着のままで追放された。
「やっぱさー。あのまま、死んじゃえばよかったって思われてんのかな? かわいそー」
聖女見習いとして長年神殿で暮らしていた少女は強運の持ち主だったようで、ロルティはハリスドロア公爵に見初められ──彼の娘として暮らすようになったらしい。
これに祭祀は激昂し、雲母とカイブルに命令を下した。
『神殿の秘密を知る幼子など、生かしてはおけぬ! この国の平和を脅かす者を、なんとしてでも秘密裏に始末するのだ!』
仰々しい命令を下された雲母は、それを実行する気などまったくない。
「なんであたしが、人殺しにならなきゃいけないわけ? 人生、超ハードモードすぎなんだけど」
妹を見殺しにした姉とは思えぬ発言とともに、少しでもカイブルによく思われようと善人ぶる。
(聖女見習いだって言うチビの名前を出すと、カイブルが反応するんだよね……)
雲母が彼の眉をじっと見つめていれば、やはりカイブルの表情が一瞬だけ変化した。
それは何かを堪える時に、人間がする仕草だと知っているからこそ──。
「ねぇ。カイブルってさー。あたしが来るまでは、聖女見習いと仲がよかったんだって?」
あえて護衛騎士を揺さぶった。
彼は無表情のままではあったが、目敏い雲母は見逃さない。
カイブルがピクリと、指先を動かしたのを。
(ほらね。やっぱり……)
雲母は内心ほくそ笑むと、新しいおもちゃを見つけたと言わんばかりに口元へ三日月を描いた。
「隠さなくていいよー。あたし、全部知ってるんだから。この間もさー」
「聖女様」
護衛騎士はどれほど雲母が呼びかけても、2人きりの時は返事すらもしなかったのだ。
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