転生幼女は追放先で総愛され生活を満喫中。前世で私を虐げていた姉が異世界から召喚されたので、聖女見習いは不要のようです。

桜城恋詠

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10・公爵の愛娘、悪徳養父を成敗する

養父の語る真実

「これから会うのって、そうだよね?」
「はい」
「よかったー!」

 ロルティはほっとしたような声を出して喜んだが、父親の心中は穏やかではない。
 幼子はジェナロが明らかに不機嫌になった理由に気づくことなく、再び獣とともに美しい歌声を奏でた。

「なぜロルティは、俺以外の人間を父と呼んでいる」
「司祭がそう呼ぶようにと、ロルティ様へ強制したのです。理由は、本人に聞くのがよろしいかと」
「そうだな」

 大人達の会話を気にする様子もない幼子はカイブルが足を止めたのをきっかけに、やっと最深部に到着したのだと気づく。
 すっかりテンションの上がっているロルティは、今なら自身を虐げた恐ろしい養父と顔を合わせて危害を加えられたとしても、必死に抵抗できるくらいにやる気に満ち溢れていた。

「ロルティ様。無理はしないでください」
「大丈夫! おとうしゃまとカイブルが一緒なら、わたしはへっちゃらだよ!」
「では、参りましょう」

 カイブルは勢いよく地下室へ繋がる扉を開く。
 そして――。

「ようこそ、地獄へ」

 主を長年いたぶっていた諸悪の根源と、顔を合わせることになった。
  
「俺のロルティを、自分の娘のように扱ったそうだな」
「挨拶もせずにいきなり本題に入るとは……。貴族の風上にも置けないですぞ」
「一体なんの権限があって、俺の娘に父と呼ばせていたんだと聞いている!」
「ひゃ……っ」

 幼いながらにこうなることはある程度予測していたが、まさかここまでジェナロが怒り狂うなど思いもしなかったのだろう。
 ロルティは父親の怒鳴り声を耳にしてビクリと身体を揺らすと、両耳を塞いで怯えた。

「実の娘を大切にしている割には、怖がらせることになんの罪悪感も感じぬとは……。やはりあなたは、彼女の父親失格です」
「ロルティの父は、俺だけだ! 貴様にそう名乗る資格はない……!」
「話にならぬ。ロルティだって、私が父であった方がよい暮らしを出来たはずだ。そうだな?」

 ロルティは耳を塞いでいるため、司祭の問いかけに答えられるはずもないのだが――。
 ガンウは自分の都合がいいように受け取ったらしく、満足そうに口元を緩めた。
  
「彼女もそう言っています」
「怯えているのが見えないのか!?」
「返事をしないと言うことは、そういうことです」
「自身の都合のいいように受け取る男が、俺の愛娘に幸せな暮らしをさせてやれるわけがない!」
「それこそ決めつけではありませぬか。あなたは愛する人の妊娠を知りもしなかったのでしょう? そんな男が今更聖女の父親として名乗り出てくるなど……。おかしいとは思わないのですか?」
「違う! 俺は妻と子を愛している! 彼女が俺の好意に気づいてさえいてくれたら、絶対にこんな未来は訪れなかった!」
「妻が居ながらメイドに手をつけた男の都合のいい妄想を聞くために、私は地下へ籠もっていたわけではないのですがねぇ……」

 小さな手で耳を塞ぎきれなかったロルティには、司祭が口にした嫌味ったらしい言葉がよく聞こえてきた。

  (おかあしゃまの話、してるの……?)

 幼子の理解能力には限界がある。
 大人のように、言われたままの言葉をそのまま飲み込むことは簡単ではないのだ。
 だからこそ、幼子の頭の中はパンク寸前だった。
 わけがわからなくなって、瞳にはじんわりと涙が浮かぶ。

「おお……! 我の義娘! 聖女ロルティよ! 大粒の涙を流して水溜りを作り、天界に繋がる聖門を開き給え!」

 その様子を目にした司祭は、興奮を隠しきれない様子でロルティに向かって祈りを捧げた。
  
  (そうだ……。おとうしゃんは、いつもこうだった……)

 ロルティは唇を噛み締め、涙をぐっと堪える。
 泣くことを、ガンウが望んでいると思い出したからだ。

『床の上に小さな水溜りができるくらい、涙を流すことこそが君の使命だ!』

 ロルティは涙を流さなければならない理由を知らされていなかったが、思わぬ人物からそれが語られた。

「ロルティ様が涙を流せば、聖獣が生まれるからですよね」
「ええ。聖獣を山程生み出し支配下に置いて恐怖で支配すれば、私はこの国の新たな王となれる!」
「貴様は聖獣をなんだと思っているんだ。私利私欲のために動く、便利な道具ではないんだぞ!?」
「この世に召喚した聖女を守るだけに生き続けるなど、もったいない。私は有効活用してやりたいだけですよ」

 愛娘の特別な力を自身の欲望を満たすためだけに使おうとする司祭に怒りをいだいた父親が怒鳴りつければ、ガンウは肩を竦めて吐き捨てる。

「聖女が涙を流さなければ聖獣を召喚できぬなど、コスパが悪すぎますからねぇ……。初めて義娘が生み出したウサギを用いてさまざまな実験をしたのですが、すべて失敗してしまいまして……」
「うさぎしゃん……?」
「わふ! わふん!」

 ロルティは頭の中で、パズルのピースがカチンと音を立てて嵌ったような気がした。

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