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10・公爵の愛娘、悪徳養父を成敗する
姉妹・1
――異世界から召喚された前世の姉。
五月雨雲母をどうにかなければならないのだと。
「うん。わたし、おねえしゃんを元の世界に戻してあげたい!」
「そうですね。二度とロルティ様が偽者だと言われぬよう、彼女を消滅させるべきです」
ロルティは五月雨瑠衣として生きていたころ、彼女と因縁がある。
面と向かって話をするだけでも、酷い目に遭わされるのではないかと心配だったが――。
(わたしの知らないところで、何事もなかったかのようにおねえしゃんがいなくなるのは、嫌だもん……!)
五月雨瑠衣は頼れる人がいないくらいに孤独で、ただ虐げられていることしかできない子どもだった。
しかし――ハリスドロア公爵家のロルティは違う。
大好きな家族やカイブル――2匹の神獣たちが、幼子にたくさんの愛を注いでくれている。
(わたしは、負けない。今度こそ前世で言えなかったことを含めて、ずっと心の奥底で隠していた感情をぶつけるんだ……!)
ロルティは強い決意を秘めると、カイブルの先導を受けてキララと顔を合わせた。
「あれ? カイブルじゃん! もう、今までどこに行ってたの? こっちはすごく大変だったんだけど!」
自室にやってきた護衛騎士が司祭を床に叩きつける姿を目にした姉は、当然のようにカイブルへ駆け寄って抱きつこうとする。
しかし、それを阻むものがいた。
「わふっ。ぐるるぅ!」
ロルティを乗せた犬がカイブルを守るように前に躍り出て、キララを威嚇したのだ。
「わぁっ。な、何……? 犬と、幼女……。あれ? あんたって確か、神殿のお尋ねものじゃん!」
彼女は神獣の上に跨る幼子が、聖女見習いと呼ばれていた子どもだと気づいた。
ガンウの命令を忠実に守るべきだと考えているキララは、嬉々として戦闘態勢に入る。
「あんたを始末すればあたしはカイブルとずっと一緒にいられるし、司祭からも称賛されて元の世界に戻れるかもしれない! あんたを今すぐここで、叩きのめしてあげる!」
姉はジェナロとカイブルが見ている前で叫び声を上げると、上空に光の球体を生み出した。
(わたしはもう、屈しないよ)
翡翠の瞳に確かな決意を宿らせたロルティは、その攻撃に恐れることなく彼女を睨みつけた。
「おねえしゃん」
「な、何……?」
「どうしてわたしを、攻撃しようとするの?」
「だって、あんたは罪人なんでしょ!? 悪い奴は始末されるの! 当然じゃない!」
幼子とは思えぬ静かな怒りを讃えた瞳を目にしたキララは、かつて聖女見習いと呼ばれていた少女を威嚇する。
(普段のわたしだったら、こんなふうに怒鳴りつけられるだけでも恐ろしくて、きっと泣いてた……。でも、今は……)
あの日志半ばで命を落とした前世の無念を晴らすチャンスは、今しかないと己を奮い立たせた。
「わたしは、罪人なんかじゃないよ?」
「じゃあ、なんで始末しろって命令がくだされているのよ!? あんたがなんかやったからに、決まってんでしょ!」
「おねえしゃんはわたしよりも長い時を生きているのに、何も知らないんだね……」
「なんですって!? あんたみたいなチビに、馬鹿にされる謂れはないんだけど!?」
売り言葉と買い言葉とばかりに愛娘を愚弄する声を耳にしたジェナロは、真っ先にキララへ怒りを露わにした。
「貴様……! 黙って聞いていれば、俺の娘にどれほど不敬を働けば気が済むんだ!」
さすがに成人男性の血を這うような怒声を耳にすれば、彼女も冷静ではいられない。
「な、なんであたしが、知らないおっさんに怒鳴りつけられなきゃいけないわけ!? 意味分かんないんだけど……!」
怯えるキララに追い打ちをかけるためだろうか。
普段は黙って成り行きを見守っているカイブルまで、声を上げた。
「ロルティ様を愚弄するだけでは飽き足らず、旦那様にそのような不躾な呼び方をするとは……」
「い、意味分かんない……。あたし、そんなに悪いこと言った? 日本じゃこれが普通で……」
「ニホン、というものがどこであるかは知りませんが、ここにいる以上は我々の認識が正しいものかと」
「そ、そんなの! 知らなかったんだから! 仕方ないでしょ!? 寄って集って蔑んだ目で見つめてくる、あんたたちが悪いんじゃない!」
キララは男性陣に責任転嫁し、自分は悪くないと声高らかに主張した。
彼らはその様子を見つめ、顔を見合わせる。
「貴様のような女がなぜ、ロルティを差し置いて真の聖女と呼ばれるようになったのか……」
「同感です。司祭は異世界の聖女と奥様の力を合わせ、私利私欲を満たそうとしていたようですので……。どうしても彼女が必要だったのでしょうが……」
「な、何よその目は! あたしの意思を無視して勝手に連れてきたかと思えば、邪魔者扱いするなんて! 酷すぎるわ!」
「そのお言葉、そっくりそのままお返しいたします」
カイブルはキララに向けて冷たく言い放つと、その言葉を口にした理由を説明する。
「ロルティ様も、あなたと同じなのですよ。勝手に連れてこられ、罪人扱いされて始末されようになった。しかし、あなたはその境遇に同情するどころか、その命を奪おうとした……。聖女と尊ばれるような器ではありません」
「ああ。今すぐに、息の根を止めるべきだ」
好意をいだいていたカイブルと、ジェナロから命を奪うと宣言されたことに驚いたのだろう。
キララはガクガクと全身を震わせ、声高らかに主張する。
五月雨雲母をどうにかなければならないのだと。
「うん。わたし、おねえしゃんを元の世界に戻してあげたい!」
「そうですね。二度とロルティ様が偽者だと言われぬよう、彼女を消滅させるべきです」
ロルティは五月雨瑠衣として生きていたころ、彼女と因縁がある。
面と向かって話をするだけでも、酷い目に遭わされるのではないかと心配だったが――。
(わたしの知らないところで、何事もなかったかのようにおねえしゃんがいなくなるのは、嫌だもん……!)
五月雨瑠衣は頼れる人がいないくらいに孤独で、ただ虐げられていることしかできない子どもだった。
しかし――ハリスドロア公爵家のロルティは違う。
大好きな家族やカイブル――2匹の神獣たちが、幼子にたくさんの愛を注いでくれている。
(わたしは、負けない。今度こそ前世で言えなかったことを含めて、ずっと心の奥底で隠していた感情をぶつけるんだ……!)
ロルティは強い決意を秘めると、カイブルの先導を受けてキララと顔を合わせた。
「あれ? カイブルじゃん! もう、今までどこに行ってたの? こっちはすごく大変だったんだけど!」
自室にやってきた護衛騎士が司祭を床に叩きつける姿を目にした姉は、当然のようにカイブルへ駆け寄って抱きつこうとする。
しかし、それを阻むものがいた。
「わふっ。ぐるるぅ!」
ロルティを乗せた犬がカイブルを守るように前に躍り出て、キララを威嚇したのだ。
「わぁっ。な、何……? 犬と、幼女……。あれ? あんたって確か、神殿のお尋ねものじゃん!」
彼女は神獣の上に跨る幼子が、聖女見習いと呼ばれていた子どもだと気づいた。
ガンウの命令を忠実に守るべきだと考えているキララは、嬉々として戦闘態勢に入る。
「あんたを始末すればあたしはカイブルとずっと一緒にいられるし、司祭からも称賛されて元の世界に戻れるかもしれない! あんたを今すぐここで、叩きのめしてあげる!」
姉はジェナロとカイブルが見ている前で叫び声を上げると、上空に光の球体を生み出した。
(わたしはもう、屈しないよ)
翡翠の瞳に確かな決意を宿らせたロルティは、その攻撃に恐れることなく彼女を睨みつけた。
「おねえしゃん」
「な、何……?」
「どうしてわたしを、攻撃しようとするの?」
「だって、あんたは罪人なんでしょ!? 悪い奴は始末されるの! 当然じゃない!」
幼子とは思えぬ静かな怒りを讃えた瞳を目にしたキララは、かつて聖女見習いと呼ばれていた少女を威嚇する。
(普段のわたしだったら、こんなふうに怒鳴りつけられるだけでも恐ろしくて、きっと泣いてた……。でも、今は……)
あの日志半ばで命を落とした前世の無念を晴らすチャンスは、今しかないと己を奮い立たせた。
「わたしは、罪人なんかじゃないよ?」
「じゃあ、なんで始末しろって命令がくだされているのよ!? あんたがなんかやったからに、決まってんでしょ!」
「おねえしゃんはわたしよりも長い時を生きているのに、何も知らないんだね……」
「なんですって!? あんたみたいなチビに、馬鹿にされる謂れはないんだけど!?」
売り言葉と買い言葉とばかりに愛娘を愚弄する声を耳にしたジェナロは、真っ先にキララへ怒りを露わにした。
「貴様……! 黙って聞いていれば、俺の娘にどれほど不敬を働けば気が済むんだ!」
さすがに成人男性の血を這うような怒声を耳にすれば、彼女も冷静ではいられない。
「な、なんであたしが、知らないおっさんに怒鳴りつけられなきゃいけないわけ!? 意味分かんないんだけど……!」
怯えるキララに追い打ちをかけるためだろうか。
普段は黙って成り行きを見守っているカイブルまで、声を上げた。
「ロルティ様を愚弄するだけでは飽き足らず、旦那様にそのような不躾な呼び方をするとは……」
「い、意味分かんない……。あたし、そんなに悪いこと言った? 日本じゃこれが普通で……」
「ニホン、というものがどこであるかは知りませんが、ここにいる以上は我々の認識が正しいものかと」
「そ、そんなの! 知らなかったんだから! 仕方ないでしょ!? 寄って集って蔑んだ目で見つめてくる、あんたたちが悪いんじゃない!」
キララは男性陣に責任転嫁し、自分は悪くないと声高らかに主張した。
彼らはその様子を見つめ、顔を見合わせる。
「貴様のような女がなぜ、ロルティを差し置いて真の聖女と呼ばれるようになったのか……」
「同感です。司祭は異世界の聖女と奥様の力を合わせ、私利私欲を満たそうとしていたようですので……。どうしても彼女が必要だったのでしょうが……」
「な、何よその目は! あたしの意思を無視して勝手に連れてきたかと思えば、邪魔者扱いするなんて! 酷すぎるわ!」
「そのお言葉、そっくりそのままお返しいたします」
カイブルはキララに向けて冷たく言い放つと、その言葉を口にした理由を説明する。
「ロルティ様も、あなたと同じなのですよ。勝手に連れてこられ、罪人扱いされて始末されようになった。しかし、あなたはその境遇に同情するどころか、その命を奪おうとした……。聖女と尊ばれるような器ではありません」
「ああ。今すぐに、息の根を止めるべきだ」
好意をいだいていたカイブルと、ジェナロから命を奪うと宣言されたことに驚いたのだろう。
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