転生幼女は追放先で総愛され生活を満喫中。前世で私を虐げていた姉が異世界から召喚されたので、聖女見習いは不要のようです。

桜城恋詠

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10・公爵の愛娘、悪徳養父を成敗する

姉妹・3

「聖女を騙る不届き者を始末しろ!」
「いやぁ!」

 ――始末するべきはロルティではなく、キララであったのだと。
 あっと言う間にキララは彼らに手足の自由を奪われ、喉元に剣を突きつけられてしまう。

「ロルティ!」

 神殿の人々は子どもの前なのをすっかり忘れ、この場でキララを処刑するつもりのようだ。
 幼子に残忍なシーンを見せるわけには行かないと己の剣を鞘に納めた父親が、慌てた様子で愛娘の小さな身体を抱きしめる力を強めたのが印象的だった。

「た、助けて……! ゆ、許してよ! あたし、こんなふうになるなんて思わなくて! すごく反省しているの! ごめんなさい!」

 ロルティは父親の腕の中で、悲痛な聖女の叫び声を耳にした。
 キララの口から謝罪の言葉が飛び出るなど思わず、幼子は不愉快そうに顔を歪めた。
  
  (ごめんで済んだら、警察はいらないもん……!)

 ロルティはこのままかつての姉が命を落としても、構わなかったが──。
 それではなんの意味もないと考えを改める。

  (神官達はどうやっておねえしゃんを、この世界に召喚したんだろう……?)

 キララはこの世界に転生したロルティとは異なり、転移してきたのだ。
 彼女の推測が正しければ、今頃日本で姉は行方不明として処理されているだろう。

  (おねえしゃまには、楽に命を落としてほしくない……。一生、瑠衣を置き去りにして、カイブルを奪おうとしたのを、後悔して生きてほしい……)

 そのためには、キララに異世界へ戻りたいと強く願ってもらうのが一番だ。

「あたし、こんなところで死にたくない……!」
「じゃあ日本に戻って、罪を認める?」
「い、言えばいいんでしょ! 瑠衣を、置き去りにしたって……! 命が助かるなら、それくらいどうってことないわ……!」
「うん。わかった」

 彼女がこちらにぶつけようとしていた光の球体を消滅させ、戦意を消失させたことを確認する。
 その後ロルティは頷き、ゆっくりと祝詞を紡ぎ始めた。

「天に住まう我らが神よ。ロルティが命じる。おねえしゃんを、元の世界に送り返して……!」
「わふーん!」

 獣の雄叫びに合わせ、キララは眩い光に包まれる
 そして――偽者の聖女は異世界へ戻って行った。

「ロルティ……。いいのか?」
「うん。おねえしゃんは、元の世界で罰を受けるべき人だから」
「しかし……」
「一生、苦しめばいい。わたしの分まで、永遠に」

 父親が渋るのも無理はない。
 彼女は愛娘を悲しませたのだから、罰を受けてから元の世界へ戻すべきだと言いたかったのだろう。

  (これはわたしと、お姉ちゃんの問題だもん。おとうしゃまになんて、任せられないよ!)

 ロルティは自身の決断を、後悔していなかった。
 身の安全を守るためには、あれが一番正しい選択だと信じている。

「おとうしゃまが倒さなきゃいけない敵は、あそこにいる神官達でしょ?」

 だからこそ――怒りを向ける矛先は別にいると口にした幼子はビシッと人差指を指し示す。
  
「あの人達は、おねえしゃんを使って、わたしを始末しようとした。すっごく、悪い人達!」
「ああ。そうだな。悪い子には、お仕置きをしなければ……」
「うん! おとうしゃま。わたしの代わりに、めって、してくれる?」
「ああ。もちろんだ」

 ロルティはニコニコと笑顔を浮かべると、困惑した様子の神官達を見つめた。
 キララを失った彼らは、司祭の命令通りに幼子の命を奪うべきか、真の聖女と崇めるべきか迷っているからだろう。
 あたりを見渡し、思考を巡らせているようだったが――。
 彼らが答えをだすよりも早く、カイブルと協力してジェナロは剣を片手に神官達と乱闘を始めた。

「おとうしゃまー! カイブルー! 頑張ってー!」

 ロルティの声援を受けた男性陣はあっという間に人々を制圧し、ハリスドロア公爵家の面々には一時の平和が訪れた。

「わふっ」
「すごーい! これで、一件落着だね!」
「いえ……。まだ、終わっておりません」
「ああ。そうだな」
「はれ?」

 神獣と喜びを分かち合ったロルティが、大好きな母と兄の待つ家に戻ろうとした時のことだ。
 大人達は剣を鞘に納めると頷き合い、まだ終わりではないと告げた。

  (そっか……。ここにはまだまだたくさん、神官の人達がいるもんね)

 首謀者がいなくなったと全員に周知するまで、自分達は家族の待つ公爵家には帰れないのだ。
 中途半端な状況で帰路につけば、ロルティだけではなくルティアーナまで危機に晒されるかもしれないのだから……。

「それならわたしに、お任せください」

 カイブルはどこからともなく持ち運びやすい小さなスタンドマイクを手に取り、神獣の上に跨る幼子へ告げた。

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