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【番外編1・前編】公爵邸の愛娘、王様と兄の実母に出会う
みんなのトラウマ・1
「あの……」
しかし――その言葉が最後まで紡がれることはなかった。
ハリスドロア公爵家の出入り口を破壊するような勢いで扉が外から開け放たれ、女性の大声が聞こえてきたからだ。
「ルティアーナ! わたくしを追い出しておきながら、よくもまぁ我が物顔で公爵家の妻としてこの屋敷に居座れたわね!?」
その直後、母親と兄の表情から一瞬で血の気が引く。
「おにいしゃま……?」
「う……」
ジュロドは、最愛の妹を抱きしめる力を強める。
その身体は、ガタガタと小刻みに震えていた。
それは、母親も一緒だった。
彼女の腕から、どんどんと暖かなぬくもりが消え失せていく。
「おかあしゃまも、どうしたの……?」
異常事態が起きているのに、誰も何も答えてくれない。
そんな状況に怯えたロルティは、そこでようやく招かれざる客の姿をはっきりと認識した。
「ジュロド! わたくしと一緒に来れば、王太子になれたのに……! その地位を捨ててまで、こんなところで幸せになるなんて許さないわ!」
赤い髪の女性は顔面蒼白なルティアーナとジュロドの名を呼び、金色の瞳に憎悪を宿らせる。
意味不明な言葉をもの凄い剣幕で喚き散らす女性の姿がハリスドロア家に害をなす存在だと認識した護衛騎士は、音すら立てずに3人を庇うように立った。
「カイブル……っ!」
「ロルティ様。ルティアーナ様とジュロド様を連れて、お部屋にお戻りください」
「でも……っ!」
2人は誰がどう見ても、明らかに冷静さを失っている。
幼子は母親と兄の手を引くことは出来ても、抱き上げて移動するのは無理だ。
(こんな状況で、どうやってみんなで一緒にお部屋へ戻ればいいの……?)
ロルティがほとほと困り果てている間にも、状況は目まぐるしく変化する。
「これは一体、どういうことだ!」
「ご、誤解だよ! 私は何も知らない! 妹が、勝手に……!」
――父親が、もの凄い剣幕で陛下を怒鳴りつけたのだ。
ドルヘウスは慌ててこんなはずではなかったと反論するが、ジェナロにとってそれは言い訳にしか聞こえない。
「信じられるか!」
「ジェナロ……っ!」
それでも国王は、諦めなかった。
このまま彼の言う通りにこの場をあとにすれば、公爵家との関係が悪化してしまう。
ハリスドロア家は王立騎士団に匹敵するほど、強力な武力を持つ家だ。
離反なんてされては困ると焦っているのかもしれない。
追い縋る友人に彼が「これ以上近づくな」と牽制したところ、思いもよらぬ場所からジェナロの機嫌をさらに急降下させる出来事が起きた。
「ああ。ようやく会えたわね。愛しの旦那様。年齢を重ねて、より魅力が増したようで……」
「俺に触るな!」
女性はうっとりと頬を紅潮させて、父親の腕に纏わりついたのだ。
父親は当然それを拒み、力尽くで引き剥がす。
「きゃあ!」
招かれざる客は悲鳴を上げて床に倒れ伏すと、尻もちをつきながらジェナロに向かって叫んだ。
「な、何をするの!? 離縁したから妻として振舞えないのはわかっていたけど、わたくしは王女よ! 拒絶するなんて、あり得ないわ!」
「ドルヘウス! その女を連れて、今すぐ出ていけ!」
名前を呼ばれた陛下はようやく我に返ったようで、王女だと名乗った女性と揉み合いになる。
その間に切羽詰まった表情で彼らに背を向けた父親は、動けなくなっている母を軽々と抱き上げ、カイブルに視線を移した。
「ジュロドとロルティを頼む」
「お任せください」
護衛騎士は手にした剣を腰元に収める。
その後後方で控えていた部下たちにこれ以上招かれざる客たちを屋敷の中へ立ち入らせないように命じると、兄を抱きかかえた。
(おにいしゃまはカイブルと、仲直りしたけど……。いつもだったら、触るなって大騒ぎするのに……)
あの女性がやってきたことは、2人にとっては声を発する元気すらも困難なくらいにショックを受ける出来事だったらしい。
助けを求めるようにジュロドの指先が護衛騎士の胸元を掴む姿を目にしたロルティは、ひょっこりとカイブルの身体から顔だけを覗かせて後方の兄妹を観察する。
「ヘラルラ! どうしてこんなことをしたんだ!」
「兄さんだって、心当たりはあるでしょう!? あの女は、わたくしからジェナロを奪ったのよ! だから、取り戻すの!」
「君は全てを諦めて、彼との離縁を受け入れたはずだろう!? なのに、どうして……!」
「それはあの女がいなかったからに、決まっているでしょう! ジェナロに愛されて、ジュロドの母親として幸せになるのだけは、絶対に許さないわ……!」
ヘラルラと呼ばれた女性は金色の瞳から涙を流し、ジェナロに抱きかかえられたルティアーナを睨みつけている。
(あのおねえしゃん……。悪い人、なのかなぁ……?)
悪人であるならば、やっつける必要があるだろう。
しかし、ロルティは癒やしの力が使えるだけの聖女だ。
攻撃力に自信などあるはずもなく、できることがあるとすれば聖獣や家族に頼んでヘラルラを懲らしめるくらいだ。
(みんなを守るためにも、攻撃魔法を伝えるように訓練をしたほうが、よかったんじゃ……?)
幼子は今までのんびりとレースを編んで楽しく過ごしていた日々を後悔しながら、家族全員で子ども部屋へ避難した。
しかし――その言葉が最後まで紡がれることはなかった。
ハリスドロア公爵家の出入り口を破壊するような勢いで扉が外から開け放たれ、女性の大声が聞こえてきたからだ。
「ルティアーナ! わたくしを追い出しておきながら、よくもまぁ我が物顔で公爵家の妻としてこの屋敷に居座れたわね!?」
その直後、母親と兄の表情から一瞬で血の気が引く。
「おにいしゃま……?」
「う……」
ジュロドは、最愛の妹を抱きしめる力を強める。
その身体は、ガタガタと小刻みに震えていた。
それは、母親も一緒だった。
彼女の腕から、どんどんと暖かなぬくもりが消え失せていく。
「おかあしゃまも、どうしたの……?」
異常事態が起きているのに、誰も何も答えてくれない。
そんな状況に怯えたロルティは、そこでようやく招かれざる客の姿をはっきりと認識した。
「ジュロド! わたくしと一緒に来れば、王太子になれたのに……! その地位を捨ててまで、こんなところで幸せになるなんて許さないわ!」
赤い髪の女性は顔面蒼白なルティアーナとジュロドの名を呼び、金色の瞳に憎悪を宿らせる。
意味不明な言葉をもの凄い剣幕で喚き散らす女性の姿がハリスドロア家に害をなす存在だと認識した護衛騎士は、音すら立てずに3人を庇うように立った。
「カイブル……っ!」
「ロルティ様。ルティアーナ様とジュロド様を連れて、お部屋にお戻りください」
「でも……っ!」
2人は誰がどう見ても、明らかに冷静さを失っている。
幼子は母親と兄の手を引くことは出来ても、抱き上げて移動するのは無理だ。
(こんな状況で、どうやってみんなで一緒にお部屋へ戻ればいいの……?)
ロルティがほとほと困り果てている間にも、状況は目まぐるしく変化する。
「これは一体、どういうことだ!」
「ご、誤解だよ! 私は何も知らない! 妹が、勝手に……!」
――父親が、もの凄い剣幕で陛下を怒鳴りつけたのだ。
ドルヘウスは慌ててこんなはずではなかったと反論するが、ジェナロにとってそれは言い訳にしか聞こえない。
「信じられるか!」
「ジェナロ……っ!」
それでも国王は、諦めなかった。
このまま彼の言う通りにこの場をあとにすれば、公爵家との関係が悪化してしまう。
ハリスドロア家は王立騎士団に匹敵するほど、強力な武力を持つ家だ。
離反なんてされては困ると焦っているのかもしれない。
追い縋る友人に彼が「これ以上近づくな」と牽制したところ、思いもよらぬ場所からジェナロの機嫌をさらに急降下させる出来事が起きた。
「ああ。ようやく会えたわね。愛しの旦那様。年齢を重ねて、より魅力が増したようで……」
「俺に触るな!」
女性はうっとりと頬を紅潮させて、父親の腕に纏わりついたのだ。
父親は当然それを拒み、力尽くで引き剥がす。
「きゃあ!」
招かれざる客は悲鳴を上げて床に倒れ伏すと、尻もちをつきながらジェナロに向かって叫んだ。
「な、何をするの!? 離縁したから妻として振舞えないのはわかっていたけど、わたくしは王女よ! 拒絶するなんて、あり得ないわ!」
「ドルヘウス! その女を連れて、今すぐ出ていけ!」
名前を呼ばれた陛下はようやく我に返ったようで、王女だと名乗った女性と揉み合いになる。
その間に切羽詰まった表情で彼らに背を向けた父親は、動けなくなっている母を軽々と抱き上げ、カイブルに視線を移した。
「ジュロドとロルティを頼む」
「お任せください」
護衛騎士は手にした剣を腰元に収める。
その後後方で控えていた部下たちにこれ以上招かれざる客たちを屋敷の中へ立ち入らせないように命じると、兄を抱きかかえた。
(おにいしゃまはカイブルと、仲直りしたけど……。いつもだったら、触るなって大騒ぎするのに……)
あの女性がやってきたことは、2人にとっては声を発する元気すらも困難なくらいにショックを受ける出来事だったらしい。
助けを求めるようにジュロドの指先が護衛騎士の胸元を掴む姿を目にしたロルティは、ひょっこりとカイブルの身体から顔だけを覗かせて後方の兄妹を観察する。
「ヘラルラ! どうしてこんなことをしたんだ!」
「兄さんだって、心当たりはあるでしょう!? あの女は、わたくしからジェナロを奪ったのよ! だから、取り戻すの!」
「君は全てを諦めて、彼との離縁を受け入れたはずだろう!? なのに、どうして……!」
「それはあの女がいなかったからに、決まっているでしょう! ジェナロに愛されて、ジュロドの母親として幸せになるのだけは、絶対に許さないわ……!」
ヘラルラと呼ばれた女性は金色の瞳から涙を流し、ジェナロに抱きかかえられたルティアーナを睨みつけている。
(あのおねえしゃん……。悪い人、なのかなぁ……?)
悪人であるならば、やっつける必要があるだろう。
しかし、ロルティは癒やしの力が使えるだけの聖女だ。
攻撃力に自信などあるはずもなく、できることがあるとすれば聖獣や家族に頼んでヘラルラを懲らしめるくらいだ。
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