転生幼女は追放先で総愛され生活を満喫中。前世で私を虐げていた姉が異世界から召喚されたので、聖女見習いは不要のようです。

桜城恋詠

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【番外編1・前編】公爵邸の愛娘、王様と兄の実母に出会う

みんなのトラウマ・2

 ――普段兄妹が眠っているベッドには、母と兄が横たわっていた。
 2人とも、明らかに具合が悪そうだ。

「むきゅ……」
「わふ……っ」

 そんな彼らを癒やすように、身体を丸めた2匹の神獣がすっぽりと寄り添い合う。

  (少しでも、2人の体調がよくなりますように……!)

 ルティアーナとジュロドの指先を握りしめ、ロルティは聖なる力を使った。
 キラキラと幻想的な淡い光が室内で降り注げば、誰だって異変を察知するものだ。
 寝台に横たわる2人の様子を観察していたジェナロは、驚きの声を上げた。

「今、癒やしの力を使ったのか……?」
「だって……っ。おにいしゃまとおかあしゃま、とっても苦しそうなんだもん……!」
「そうだな……。ロルティは、他人の痛みがわかる優しい子だ。責めるのはよくなかった」
「おとうしゃま……?」
「こんなことになるなら、事前に事情を説明しておけばよかったな……」

 ジェナロはどこか遠くを見つめるように瞳を細めたあと、何かを決意したらしい。
 一度目を閉じてから見開き、声を発した。

「ちょうどいい機会だ。君にも話しておく」
「何を……?」
「あの女の名は、ヘラルラ・エガリテール。俺の前妻……ジュロドの母親だ」

 ――父親から説明を受けたロルティは、2人が怯える理由に合点がいく。

  (おにいしゃまから本当のおかあしゃまを奪ったこと、すごく責任を感じてた……)

 ルティアーナはハリスドロア公爵家で目覚めた当初、何度も自分はここにいてはいけないと言うような趣旨の発言をしていた。
 ジェナロが愛を囁き、強い絆で結ばれてからは後ろめたい発言をすることはなくなっていたが――。
 やはり、心の奥底では簡単には消しされない深い傷になっていたのだろう。

  (あれ? でも……)

 ジュロドにとって、ヘラルラは実の母親だ。
 あんなふうに真っ青な顔をするなんて、おかしい。
 大事にされていれば、もっと喜ぶはずだ。

  (あの表情、どこかで……)

 幼子は必死に思考を繰り返す。
 そして、心の奥底に鍵をかけて沈めたつらい記憶を確認し――すぐさま後悔した。

『あなたなんて、いなければよかったのよ』

 前世で両親に恵まれなかった自分が、両親に怯えていた光景を思い出してしまったからだ。

「おにいしゃまは……。あの人から、虐められてたの……?」

 できれば、同意などしてほしくなかった。

  (お願い。おとうしゃま! 否定して……!)

 そんなロルティの願いも虚しく――彼の口からは悲しい知らせが齎された。

「ああ……。そう、だな。あの女はジュロドを、公爵家の跡取りではなく――王族として育て上げようとした。幼い頃に植えつけられた恐怖心は朧げであったとしても、こびりついて離れないのだろう」
「そんな……!」

 父は愛娘を悲しませたくないからこそ、息子が何をされたかまでは語らなかった。
 しかし、同じような苦しみを味わった少女は容易に想像がつく。

  (わたしに聞かせられないくらい、酷いことをしたんだ……!)

 幼子の身体は、小刻みに震える。
 それは恐怖ではなく、怒りによって生み出されたものだ。

「許せない……!」

 こんなに憎悪の炎を燃え上がらせたのは、前世の姉や養父の時以来だった。
 ロルティはドレスの裾を握りしめ、己を奮い立たせる。

「懲らしめてやらなくちゃ!」

 娘が憤慨する様子を見たら、逆に冷静さを取り戻したのだろう。
 彼は愛娘を抱き上げ、優しく髪を撫でた。

「ああ。そうだな。2人の意思を確認してから、もう二度とあの女が我が家へ近づかないように策を練ろう」
「うん! みんなのピンチは、わたしの危機だもん!」
「ロルティは本当に、優しい子に育ったな……」
「えへへ。もっと褒めて!」

 幼子はニコニコと満面の笑みを浮かべ、父親とじゃれ合う。

  (おとうしゃまの腕の中、あったかい……)

 暖かなぬくもりを感じていると、だんだん気分が落ち着いてきた。
 幼子は目元を小さな指先で擦りながら、うわ言を口にする。

「わたしがお城に行きたくないって言ったから……。おかあしゃまとおにいしゃまが、悲しい目に遭ったのかな……?」
「それは違う。むしろ、ロルティのおかげで助かった」
「本当?」
「ああ。夜会に参加していたら、安全な場所まで家族全員が退避するのは困難だった。それに、人の目もあるからな。心ない視線に晒された2人の負荷は、相当なものになったはずだ」

 もしもの可能性に思いを馳せたジェナロの口から語られる内容は、そのどれもが聞きたくないと今すぐに耳を塞ぎたくなるほどに恐ろしいことばかりだった。

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