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1・回帰前に愛していた、最悪な人
◆最悪な夫と、私を愛する男(1)
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「オレがあんたを好きになることはない」
――私は夫の最愛ではない。
それは、結婚をする前から承知していたことだ。
今さら、とやかく言うつもりなどなかった。
「あなたがあの子を好きでも構いませんわ!」
心など、手に入らなくたって構わない。
身体さえ私の物になれば、王家の血を引く子を成せる。
どれほど夫婦仲が冷え切っていようが、男児さえ生まれてくれたら、こちらのものだ。
「この結婚は、王命で定められたもの!」
――国母になるのは、この私。
ベリアージュ公爵家のルリミカだ。
彼の許嫁になった時点で、ホトロス王国の王太子妃になると定められているのだから……。
「いずれ王妃になれないのであれば、私に生きている意味などなくってよ……!」
声高らかに宣言した直後、護身用に忍ばせていたナイフを首元に当てる。
まさか公爵令嬢が色恋沙汰の末に自害を試みるなど、思っても見なかったのだろう。
ジェラルドはその発言を聞いて、露骨に狼狽え始めた。
「待て!」
いくら私が彼と妹を引き裂こうと目論む悪女だとしても、目の前で死なれては面倒なことになると焦ったのかもしれない。
殿下は思い留まるように促すと、こちらの言い分を呑むと約束してくれた。
「わかった。結婚はしてやる。だが……。オレの心は、妹のもんだ。それを、忘れんじゃねぇぞ」
「はい」
私は思い通りになったと、内心ほくそ笑む。
たとえジェラルドが苦虫を噛み潰したような表情をしていようが、言質さえ取れたらこちらのものだ。
本当に妹を愛していて、幸せになりたいと願うのなら――きっちりと私との許嫁を解消してから、想いを伝えるべきだった。
なのに――。
その手間すらも惜み、欲望のままにふらふらとほかの女性に目移りなんかするから、面倒なことになるのだ。
――婚約者を蔑ろにして、許嫁の妹に入れ込んだ王太子……。
そんな不名誉な噂を流された殿下が王として君臨したところで、国民達は彼を慕うのかしら?
所詮は浮気男。
よほど有能でない限り、共感など得られるはずがなかった。
『いい気味ですわ』
――坂から勢いよく転がり落ちていく殿下を安全な場所で嘲笑い、高みの見物をする。
それこそが、私の選び取るべき正しい道だった。
けれど――。
『あなたはこの国の国母となるために、生まれて来たのよ。何があっても絶対に、その座は渡してはいけません。いいわね?』
己の判断ではなく、幼い頃に耳がタコになるほど言い聞かされた母親の言葉に従ってしまった。
その結果――夫婦仲が冷え切るのを承知の上で、結婚すると決めた。
「オレがあんたを抱くのは、正妃だからだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「言い訳なんて、聞きたくありませんわ。さっさと、最奥で欲を放ってくださる?」
ドレスを脱着する暇も惜しんで行われた義務的な初夜は、思い出すのすらも億劫になるほどに最悪な初体験となった。
「い……っ!」
なんの反応も示していない秘所に無理やり挿入されたせいか、意識を失ってしまいそうになるほどの激痛が全身に迸る。
それに歯を食いしばって耐えている間、殿下は蜜肉を押しのけては出たり入ったりを繰り返す。
「ぅ……っ。射精すぞ……!」
蕩けるような快楽を得ることなく、2人の初夜はたった数分で終わりを告げた。
「これで、本当に満足なのかよ……」
殿下は身支度を整え終えると、好きでもない女性を抱いてしまった後悔を募らせながら、さっさと姿を消してしまう。
挿入して、何回か擦って、最奥で射精する。
たったそれだけの行為で子どもを作れるのなら、もっと早くにこうした手段を講じるべきだったのだ。
それなのに……。
身体を曝け出すのをここまで渋った結果、彼は妹に心を奪われてしまった。
こうなったのはすべて、私の判断ミスだ。
そう考えたら、悔しくて仕方なかった。
「まだ、負けたと決まったわけではありませんわ……!」
痛みに耐えて子種を受け止めたのは、妊娠するため。
このまま子宝にさえ恵まれれば、己の未来は明るい。
私はそう信じることでしか、自分自身を保てないほどに壊れかけていた。
だから――。
「あ、ああっ!」
互いを思いやり、助け合い、愛し愛される幸せな夫婦生活を奪われた男女が甘い声を漏らしながら肌を重ね合わせる姿を目にした瞬間、このうえない無力感に駆られた。
私との行為は数分で終わらせた癖に。
心を通わせた妹とは、何十分と愛し合うの?
あの子ばかりずるい。
私だってあんなふうに愛されたかった。
あの女さえいなければ、心と身体の両方を手に入れられていれば――。
私は殿下に、愛してもらえたのかしら?
「気持ち、い……っ。ぁ、あ……!」
後方では妹の艷やかな嬌声が響き合い、2人の交わりはより激しさを増している。
私はその姿を最後まで見続ける気にはなれず、勢いよくその場から駆け出した。
「私はこんな未来を歩むために、国母として育てられたわけではありませんわ……!」
――悔しい。悲しい。苦しい。
こんな思いをするくらいならば、結婚なんてしなければよかった。
――私は夫の最愛ではない。
それは、結婚をする前から承知していたことだ。
今さら、とやかく言うつもりなどなかった。
「あなたがあの子を好きでも構いませんわ!」
心など、手に入らなくたって構わない。
身体さえ私の物になれば、王家の血を引く子を成せる。
どれほど夫婦仲が冷え切っていようが、男児さえ生まれてくれたら、こちらのものだ。
「この結婚は、王命で定められたもの!」
――国母になるのは、この私。
ベリアージュ公爵家のルリミカだ。
彼の許嫁になった時点で、ホトロス王国の王太子妃になると定められているのだから……。
「いずれ王妃になれないのであれば、私に生きている意味などなくってよ……!」
声高らかに宣言した直後、護身用に忍ばせていたナイフを首元に当てる。
まさか公爵令嬢が色恋沙汰の末に自害を試みるなど、思っても見なかったのだろう。
ジェラルドはその発言を聞いて、露骨に狼狽え始めた。
「待て!」
いくら私が彼と妹を引き裂こうと目論む悪女だとしても、目の前で死なれては面倒なことになると焦ったのかもしれない。
殿下は思い留まるように促すと、こちらの言い分を呑むと約束してくれた。
「わかった。結婚はしてやる。だが……。オレの心は、妹のもんだ。それを、忘れんじゃねぇぞ」
「はい」
私は思い通りになったと、内心ほくそ笑む。
たとえジェラルドが苦虫を噛み潰したような表情をしていようが、言質さえ取れたらこちらのものだ。
本当に妹を愛していて、幸せになりたいと願うのなら――きっちりと私との許嫁を解消してから、想いを伝えるべきだった。
なのに――。
その手間すらも惜み、欲望のままにふらふらとほかの女性に目移りなんかするから、面倒なことになるのだ。
――婚約者を蔑ろにして、許嫁の妹に入れ込んだ王太子……。
そんな不名誉な噂を流された殿下が王として君臨したところで、国民達は彼を慕うのかしら?
所詮は浮気男。
よほど有能でない限り、共感など得られるはずがなかった。
『いい気味ですわ』
――坂から勢いよく転がり落ちていく殿下を安全な場所で嘲笑い、高みの見物をする。
それこそが、私の選び取るべき正しい道だった。
けれど――。
『あなたはこの国の国母となるために、生まれて来たのよ。何があっても絶対に、その座は渡してはいけません。いいわね?』
己の判断ではなく、幼い頃に耳がタコになるほど言い聞かされた母親の言葉に従ってしまった。
その結果――夫婦仲が冷え切るのを承知の上で、結婚すると決めた。
「オレがあんたを抱くのは、正妃だからだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「言い訳なんて、聞きたくありませんわ。さっさと、最奥で欲を放ってくださる?」
ドレスを脱着する暇も惜しんで行われた義務的な初夜は、思い出すのすらも億劫になるほどに最悪な初体験となった。
「い……っ!」
なんの反応も示していない秘所に無理やり挿入されたせいか、意識を失ってしまいそうになるほどの激痛が全身に迸る。
それに歯を食いしばって耐えている間、殿下は蜜肉を押しのけては出たり入ったりを繰り返す。
「ぅ……っ。射精すぞ……!」
蕩けるような快楽を得ることなく、2人の初夜はたった数分で終わりを告げた。
「これで、本当に満足なのかよ……」
殿下は身支度を整え終えると、好きでもない女性を抱いてしまった後悔を募らせながら、さっさと姿を消してしまう。
挿入して、何回か擦って、最奥で射精する。
たったそれだけの行為で子どもを作れるのなら、もっと早くにこうした手段を講じるべきだったのだ。
それなのに……。
身体を曝け出すのをここまで渋った結果、彼は妹に心を奪われてしまった。
こうなったのはすべて、私の判断ミスだ。
そう考えたら、悔しくて仕方なかった。
「まだ、負けたと決まったわけではありませんわ……!」
痛みに耐えて子種を受け止めたのは、妊娠するため。
このまま子宝にさえ恵まれれば、己の未来は明るい。
私はそう信じることでしか、自分自身を保てないほどに壊れかけていた。
だから――。
「あ、ああっ!」
互いを思いやり、助け合い、愛し愛される幸せな夫婦生活を奪われた男女が甘い声を漏らしながら肌を重ね合わせる姿を目にした瞬間、このうえない無力感に駆られた。
私との行為は数分で終わらせた癖に。
心を通わせた妹とは、何十分と愛し合うの?
あの子ばかりずるい。
私だってあんなふうに愛されたかった。
あの女さえいなければ、心と身体の両方を手に入れられていれば――。
私は殿下に、愛してもらえたのかしら?
「気持ち、い……っ。ぁ、あ……!」
後方では妹の艷やかな嬌声が響き合い、2人の交わりはより激しさを増している。
私はその姿を最後まで見続ける気にはなれず、勢いよくその場から駆け出した。
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