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人間界<魔族の夫婦を救え>

命拾いした魔族

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 不安そうに俺の胸元を掴んでいる皇女様と共に現場へ急行すれば、そこは戦場だった。

「うわああ!なんで!どうして魔王は、大人しく魔城で暮らしているんだ!?魔王として真っ先にするべきことは、人間界への侵略のはずだろ!?」
「落ち着け。話なら、このキフロ・アジェシスが聞く。冷静に会話ができぬ物を、魔王様に会わせるわけにはいかん」
「おいらの妻が人間に捕らわれたんだぞ!?お前らが助けてくれたら、魔王様に縋る必要なんてなかった!魔王様、おいらを助けてくれよ……!」

 ストーカー野郎が城門で騒ぐ男を宥めているが、彼の心には響いていないようだ。
 人間に妻が捕らえられたとか、穏やかじゃねぇ主張してるけど、このまま門前払いしていいのかよ?

「妻は妊娠中なんだ……!妻と子にもしものことがあれば、おいらはお前らのこと許さねぇ……!」
「ハレルヤ。あのおじさん、奥さんを人質に取られちゃったの?」
「そうっぽいな」
「おじさんの主張がほんとなら、早く助けてあげなくちゃ。人間は魔族が大嫌いだから、早く助けてあげないと。処刑されちゃうよ!」

 どんな状況で魔族の妻が人間に捕らえられたのかは知らねぇけど、魔王としては、魔界で暮らす魔族が人間に捕らえられたって聞けば黙っちゃいられねぇよな。

 魔族に手を出したらどうなるか、人間たちへきっちり理解させねぇと。
 こうやって、悲しむやつが出てくるわけだろ?

 俺が魔王になったからには、魔界がおどろおどろしくて、地獄としか思えないような場所だとは思わせたくねぇ。
 俺は魔族たちが自分らしく穏やかに暮らし、迫害された人間たちが魔族に怯えなくてもいい世界を──作り出してみせる。

「魔王様の助けが必要かどうかは、俺たちが決めることだ。魔王様に助けを求めるような案件ではない。今すぐ立ち去れ。俺の命令に背くなら──死を持って、償うことだ」
「なんで助けを求めたおいらが、死を持って償わなきゃなんねぇんだよ!冗談じゃねぇ!」
「警告はした。キフロ・アジェシスの名が耳に入らぬのならば──死を持って償うがいい」

 ストーカー野郎の腰元にくくり付けられた鞘から、真剣が引き抜かれる。
 大騒ぎしている魔族の首元に真剣の先端が向けられてるのは,さすがにまずい。
 ハムチーズはなにやってんだ?
 姿が見えない彼女へ命じて万が一のことになれば、皇女様が悲しむ。

 しゃあねえな。
 あいつの剣、使い物にならなくさせるか……。

 魔族の総指揮官、キフロ・アジェシス?
 魔族の中では立場は上かもしれねぇけど、魔界のトップは魔王だ。
 先輩風吹かせてる所悪いが、大恥かいて貰うかな。

「──だめ!」

 俺がストーカー野郎の剣を消滅させる為、魔力を放出しようとした時だった。
 紋章を浮かび上がらせた皇女様が、唐草模様を縦横無尽に操り、ストーカー野郎の剣を奪い取ったのは。

 マジかよ。皇女様に良い所、取られちまったな。

 突如剣を奪われたクソ野郎は、何事かと俺たちへ殺気を飛ばして来やがった。
 おいおい。俺と皇女様に喧嘩売るとか、いい度胸だな?
 俺らは自称味方の総指揮官でも、容赦しねぇぞ。

「魔王と花嫁候補に殺気を飛ばしてくるなんざ、いい度胸じゃねぇの」
「私、やられっぱなしは性に合わないんだぁ。ハレルヤ。殺気飛ばしてもいい?」
「やめとけ。他にやることあんだろ」
「はーい。お兄さん、よかったね。ハレルヤのお陰で、命拾いしたみたい」
「魔王、様……!?魔王だって!?」

 皇女様はストーカー野郎から奪い取った剣を唐草模様の紋章を使って弄びながら、笑顔で見上げている。
 笑顔がキラキラ輝く皇女様は、マジでかわいい。

 俺は皇女様を褒め称えながら、大騒ぎしていた魔族の頭に生えた角がよく見えるように威張った。

「俺はハレルヤ・マサトウレ。魔界を総べる魔王だ。こっちは俺の花嫁」
「キサネ・チカ・マチリンズ。奥さん、誰に捕らえられたの?王家だったりする?」
「マチリンズだって……!?」

 魔族の男は、皇女のファミリーネームを聞いて憎悪を募らせる。
 やっぱりビンゴか。王家が関わってんのかよ。めんどくせぇな……。
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