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ストーカーと侵略宣言
優先されるべき女
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「……うぅ……。こわい。こわいよ……」
俺はララーシャの呻き声が恐ろしい。
魘されてる彼女をどうにかする術など、俺達は持ち合わせてねぇ。顔を見合わせた俺達は、ハムチーズを呼び寄せることにした。
「ハムチーズ」
「はい。魔王様」
ハムチーズは魔族街の視察に向かったはずだが──俺が名前を呼べば、驚くようなスピードで俺の下へ姿を見せる。
ハムチーズの神出鬼没な所は、どうやって培ってきたんだろうな……。
「ララーシャが突然悲鳴を上げて、水槽内で苦しみ始めたんだ。理由、わかるか?」
「あの男たちを、思い出したからでしょう。時折あるのです。夢見が悪く、魘されて……」
「あんたのせいじゃないか」
「俺かよ」
「どう考えたって、あんたのせいだよね?クソ野郎の魔力を再現したせいで、ララーシャが苦しんだんじゃないか。配慮が足りないよ」
「キサネ以外の女に、配慮を求められてもな……」
ムースはありとあらゆる罵倒の言葉を俺に向けると、キサネにこんな不誠実な男はやめろと囁いた。
残念だったな。俺たちは、前世からの仲だ。悪口吹き込まれたって、キサネは怒るだけだぞ。
「私の旦那様になれる男はハレルヤだけだって、前世から決まってるんだよ!ムースお姉さんに諭されても、私は絶対ハレルヤのお嫁さんになることを、諦めないんだから!」
ほらな。
姉と慕うムースの前だからか、瞳孔かっぴらいて闇落ちはしなかったけど──その言い方は言い知れぬ圧がある。
笑顔で俺に手を出すなと、牽制してるっぽいな。
出会った当初ババアと呼んで口喧嘩してたことを、すっかり忘れてる。ムースと俺が恋仲になるなんざ、ありえねぇのにな。
「大変恐れ入りますが、状況をご説明願えないでしょうか」
「ムースに注意喚起をしようとして、キサネが借りパクした魔剣を使って、魔力を再現したんだよ。そしたら、ララーシャが悲鳴を上げてさ……」
「恐れながら、申し上げます」
「おう。遠慮しなくていいぜ」
「ララーシャに事前の連絡もなく、そのようなことを行うことは、金輪際おやめください」
ハムチーズは俺の忠実なる右腕ではあるが、親友を傷つけられて黙っていられるほど大人しくはないようだ。
言葉の節々から感じる圧を受け取った俺は、キサネと共に項垂れる。
「悪かった」
「お姉ちゃん、大丈夫なの?トラウマ克服しなきゃ、生きていけないよ」
「ララーシャのトラウマを克服させるのは、難しいでしょう。魔王様。一刻も早く、キフロ・アジェシスを魔界から追放してください」
「そうだな……」
「目が覚めたら、ララーシャが安心して暮らせる世界を生み出すことは……魔王様の義務です」
「ああ……」
俺は反省していると全身でアピールしているように見せかけ、大人しくハムチーズの言葉に頷いた。
キサネはなんだかんだ言って、ララーシャのことを姉として認めているようだからな。
下半身の鱗が剥がれ落ち、痛々しい姿を見せている姉を心配そうに見つめていたかに思われていたが──どうやら彼女は、別の心配をしていたらしい。
「ハレルヤの義務は、私を幸せにすることでしょ?」
「キサネ」
「誰が傷つこうが、最優先されるべきは花嫁の私だよ!」
「キサネは、クソ野郎をララーシャの為に魔界から追放するのが嫌なのかい?」
「うん。ハレルヤは、私の為に行動する義務があるの。私を守るために、あの人を魔界から追放するんだよ!お姉ちゃんが平和に暮らせるようにじゃなくて、私の為に!」
ストーカー野郎を魔界から追放するつもりなら、誰の為にとか関係ないだろ……。
キサネは待兼とそっくりな顔をしたララーシャに、俺を取られちまうじゃないかと不安で仕方ないんだろうな。恋愛感情なんて、持ってねぇのに。
俺はララーシャの呻き声が恐ろしい。
魘されてる彼女をどうにかする術など、俺達は持ち合わせてねぇ。顔を見合わせた俺達は、ハムチーズを呼び寄せることにした。
「ハムチーズ」
「はい。魔王様」
ハムチーズは魔族街の視察に向かったはずだが──俺が名前を呼べば、驚くようなスピードで俺の下へ姿を見せる。
ハムチーズの神出鬼没な所は、どうやって培ってきたんだろうな……。
「ララーシャが突然悲鳴を上げて、水槽内で苦しみ始めたんだ。理由、わかるか?」
「あの男たちを、思い出したからでしょう。時折あるのです。夢見が悪く、魘されて……」
「あんたのせいじゃないか」
「俺かよ」
「どう考えたって、あんたのせいだよね?クソ野郎の魔力を再現したせいで、ララーシャが苦しんだんじゃないか。配慮が足りないよ」
「キサネ以外の女に、配慮を求められてもな……」
ムースはありとあらゆる罵倒の言葉を俺に向けると、キサネにこんな不誠実な男はやめろと囁いた。
残念だったな。俺たちは、前世からの仲だ。悪口吹き込まれたって、キサネは怒るだけだぞ。
「私の旦那様になれる男はハレルヤだけだって、前世から決まってるんだよ!ムースお姉さんに諭されても、私は絶対ハレルヤのお嫁さんになることを、諦めないんだから!」
ほらな。
姉と慕うムースの前だからか、瞳孔かっぴらいて闇落ちはしなかったけど──その言い方は言い知れぬ圧がある。
笑顔で俺に手を出すなと、牽制してるっぽいな。
出会った当初ババアと呼んで口喧嘩してたことを、すっかり忘れてる。ムースと俺が恋仲になるなんざ、ありえねぇのにな。
「大変恐れ入りますが、状況をご説明願えないでしょうか」
「ムースに注意喚起をしようとして、キサネが借りパクした魔剣を使って、魔力を再現したんだよ。そしたら、ララーシャが悲鳴を上げてさ……」
「恐れながら、申し上げます」
「おう。遠慮しなくていいぜ」
「ララーシャに事前の連絡もなく、そのようなことを行うことは、金輪際おやめください」
ハムチーズは俺の忠実なる右腕ではあるが、親友を傷つけられて黙っていられるほど大人しくはないようだ。
言葉の節々から感じる圧を受け取った俺は、キサネと共に項垂れる。
「悪かった」
「お姉ちゃん、大丈夫なの?トラウマ克服しなきゃ、生きていけないよ」
「ララーシャのトラウマを克服させるのは、難しいでしょう。魔王様。一刻も早く、キフロ・アジェシスを魔界から追放してください」
「そうだな……」
「目が覚めたら、ララーシャが安心して暮らせる世界を生み出すことは……魔王様の義務です」
「ああ……」
俺は反省していると全身でアピールしているように見せかけ、大人しくハムチーズの言葉に頷いた。
キサネはなんだかんだ言って、ララーシャのことを姉として認めているようだからな。
下半身の鱗が剥がれ落ち、痛々しい姿を見せている姉を心配そうに見つめていたかに思われていたが──どうやら彼女は、別の心配をしていたらしい。
「ハレルヤの義務は、私を幸せにすることでしょ?」
「キサネ」
「誰が傷つこうが、最優先されるべきは花嫁の私だよ!」
「キサネは、クソ野郎をララーシャの為に魔界から追放するのが嫌なのかい?」
「うん。ハレルヤは、私の為に行動する義務があるの。私を守るために、あの人を魔界から追放するんだよ!お姉ちゃんが平和に暮らせるようにじゃなくて、私の為に!」
ストーカー野郎を魔界から追放するつもりなら、誰の為にとか関係ないだろ……。
キサネは待兼とそっくりな顔をしたララーシャに、俺を取られちまうじゃないかと不安で仕方ないんだろうな。恋愛感情なんて、持ってねぇのに。
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