とある最強盗賊の苦悩

水色の山葵

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第二章 プレイヤー

19話 魔神の苦悩2

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 シグマは即座に魔法を発動させる。
 それは無詠唱と呼ばれる高等技術のはずだが、今の彼女のスペックを以てして習得不可能な技術は皆無だ。
 使用された魔法は『視覚強化』と『聴覚強化』。
 情報と言うものは別に指揮官だけの特権でもメリットでもない。戦場の兵士だって情報の大小によって戦況を大きく変化させる事が出来る。彼女がそれを知らない筈もない。

 先ほどまで小さな点のような何かしか見えなかった視界も、今はハッキリと細線部も見通せる。
 そこには三人のプレイヤーと三体のユニットが見える。
 形としては4対2、だがプランターはかなり引いた場所に位置取っている。
 その位置からでは接近戦で介入する事は難しいだろう。と言っても、プランターは完全に後衛向きのユニットなのでそれも解らなくはない。
 魔法でメイフォンの補助をするつもりなのだろう。

 自分はプランターだけに集中していればいい。そうシグマは考える。
 彼女の魔法全てをシグマが相殺した場合、戦況は単純な4対1となる。
 さすがにこの戦力差で負ける程、ダルムとミコンは弱くない。

 『聴覚強化』で声は聞こえないものの、爆発音や魔法をすぐに察知できるように魔法の指向性を調整する。
 そうすると3人のプレイヤーのしゃべり声が微かに聞こえた。

(私ならもっと焦ると思うけど、案外メイフォンという男には余裕があるんだな)

 楽観的思考という物が、好きではない彼女からすれば、その姿は仲間と二人と同等以上に異質に映った。

 そして、戦いが始まる。
 速度、パワー、共にメイフォンはそこに居る全プレイヤーよりも高水準だ。
 1対1なら、ユニットを含めなければ、彼はこの世界で最強かも知れない。
 だが、こちらにはまだ高コストのユニットが何体も残っているし、そもそも1対1で戦うことなど決してするつもりはない。

 これだけの勝算があるのだ、負けるはずがない。


 メイフォンは二本の短剣を召喚する。
 メイフォンのデッキ構築は8割程度は把握している。
 あの短剣は『窃盗刀』だろう。
 それを二本装備いている。
 あれは攻撃対象のステータスを微量ながら奪う効果がある。
 だが、それはダルムもミコンも把握している、あの短剣と打ち合う事は避けるはずだ。
 と思ったが、ダルムは剣を打ち合った。
 シグマは疑問を覚えるが、接近戦闘に関してはダルムは三人の内で最強だろう。
 その考えには確実な経験が刻まれている。

 打ち合った二本の短剣とダルムの持つ長剣。
 通常であれば、いくら耐久力の低い武器であっても一撃で破壊するにはかなりの実力差と質量差と技量の差が無ければならないだろう。
 当然、ダルムとメイフォンの間にそこまでの差があるとは思えない。
 経験と言う面だけで見れば、千年間という時間の差が出るだろう。
 けれど、ステータスの差はそれをひっくり返す。
 だが、その絶大なステータスを打ち破ったのは武器の差だった。

 ダルムが持つ武器はコスト100の装備型魔法『星王剣・ノヴァ』。そのレベルは当然100であり、スキルは『不滅』が付属している。
 メイフォンもクローバーが所持していたデュランダルと打ち合っていたことから似通ったスキルを所持していると思われるが、それでもコスト30の武器と100の武器の性能差は歴然と言っていい。
 ダルムのこの世界での道場破りの趣味も無駄ではないのだろう。

 短剣は簡単に砕け散った。
 盗賊連合クラスのカードはリキャストが短い傾向にあるが、それでも即座に使用できるわけではないし、一撃で壊されるのならば、召喚しても意味はないだろう。
 ここまでのリソース合戦は自分たちが圧勝している。シグマはそう考える。

 その後は、決め手に欠けるのか、相手の出方をうかがっているのか、自分の身体能力だけでメイフォンは攻撃をしのぐ。
 その動きはしなやかであり軽やかだ。
 速度の性能がかなり高いのだろう。
 『呪法師・カルマ』と『錬剣士・ソリュート』は、早くも戦力外だ。
 やはり武装カードを何枚もレベル100で装備しているプレイヤーとは天地の差が存在する。
 魔法で援護しようも、魔法の前進速度にメイフォンが追い付いている節がある。
 回避は容易だろう。

 それでもパワーと体力は共に低いはずなので、一撃でも入ればそれが決め手となるだろう。

 ミコンもテンションがどんどん上がっている。精神異常者の病気が完全発症すると、数百人規模で人を殺さなければもとに戻らないのだが、メイフォンを倒せるのならその程度はお釣りがもらえる。
 魔法『デーモンソウル』。デッキ内の味方ユニット一体のステータスを自分のステータスに上乗せする。
 コストは対象ユニットのコストの5倍。それに加えてレベル分も倍化する。
 だが、そのコストに見合う性能はあるのだ。彼女が対象に選んだのは、コスト100ユニット『王鬼・コクロウ』。
 現在、彼女はレベル200相当の能力を手に入れている事になる。
 それもコストは80相当のだ。
 その合計ステータスは80万相当。

 彼女が殴りつけるだけで暴風が発生する。
 その拳に込められたエネルギーは、殴りつけた地面に蜘蛛の巣状の亀裂を生みだした。
 その破壊力はシグマの位置にまで震度6以上にはなるだろう振動を運んだ。

 戦況は単純明快。
 メイフォンはダルムとミコンを傷つける術を持たず、こちらの攻撃は一撃でメイフォンの体力を0にできるような性能を誇っている。

「勝ち確、キタコレ」

 思わず、そんな言葉が漏れる。
 だがその瞬間、忘れていた事を思い出したように、1つの疑問が浮上した。

(プランターは何故何もしない?……)

 プランターからすれば、戦況がよくないことなど見ていれば解る事だろう。
 なのに補助も攻撃も救出もしない。
 何故?
 だが、シグマはそれに回答できる答えを見つけてしまう。

 それを確かな物にするべく、彼女は魔法を放つ。

究極魔術ハイパーマジック流星シューティングスター!!」

 前方上空の空が赤く光る。
 雲が拡散するように、周囲に散る。
 その中心からは巨大な岩が幾つも顔を見せる。

多重究極魔術マルチプル・ハイパーマジック超光線オーバーレイ

 シグマの魔法に呼応するように、隕石に向けてプランターの魔法が炸裂する。
 複数の光線は全ての隕石を打ち抜き、空中で破壊した。

(つまりプランターも私を抑える目的の為に動けないでいる。もしもあの3人の戦いに混ざろうものなら私をフリーにする事につながるから。それならこちらにとっては好都合か)

 シグマはそう結論づけた。
 戦いは激化していく。
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