15 / 40
嬉しい知らせ
しおりを挟む恒興にからかわれてから、心が落ち着かない。
光秀に助けてもらった恩はあるが、美琴が好きなのはあくまで信長なのだ。それなのに光秀に想いを寄せていると勘違いされ、恒興に揶揄された。
(光秀様を……そんなわけないよ)
相手は本能寺で信長を討った張本人だ。好きになるはずがない、と美琴は頭を振った。
だからといって信長を好きである事を簡単に口に出せるはずもない。
それを光秀に知られて翻意を掴み損ねてしまうような失態は、絶対に避けたい。
(いや……もしかしたら)
光秀に好意があると見せかけて、彼を油断させるのはどうだろう。
(でも……無理かな、私には)
人の懐に入り込んで秘密を探り出すスパイのような事が、美琴にできるわけもない。
どんな状況でも顔色ひとつ変えず驚きもしない、光秀のような人間ならともかく。
信長の寝首を掻いた光秀の裏を書くなんて高度な技は、いくら考えても美琴には出来そうになかった。
庭の芙蓉を眺めながら、美琴はため息を吐く。
「どうした? ため息など。恋煩いか?」
突然現れた恒興に、美琴はハッと顔をあげる。
「ち、違いますから! そんな訳ないです!」
いちいちムキになる美琴が面白いのか、恒興はカラカラと笑い声をあげている。
目尻を下げて笑む彼に、美琴の考えなど知る由もない。
光秀の謀反を食い止めるべく頭を悩ませていたなどと言えるはずもなく、美琴は力なく笑った。
ひとしきり笑うと恒興は、ふーと息を吐き出し、改まって美琴の前に座る。
「喜べ。信長様が、改めてお前と話したいと仰せだ」
「信長様が……?」
突然のことに、美琴はきょとんとしている。信長ファンとはいえ、急に会えると聞かされて正直戸惑った。
怪しいと牢に入れられた事はともかく、今まで放置されていたのは事実だ。
しかも相手は織田信長。泣かないホトトギスを平気で殺す人だ。いつ自分がホトトギスにならんとも限らない。
けれど本物の信長にお目通りが叶うなど、この時代の人々であっても難しいだろう。それが叶うとは、幸運なのかもしれない。
嬉しいような怖いような、複雑な気持ちが芽生えた。
「お目通りは明日だ。今からそのように身を硬くしてどうする?」
(それはそうだけど)
「えっと、嬉しいけど緊張するっていうか……」
信長に会って失礼のないように振る舞える自信が、美琴にはない。それに、一度は牢に入れた自分に今更会いたいとは、どういう風の吹きまわしか。
美琴の前に膝をついた恒興は、もっともだ、と言わんばかりに唇を引き結び首肯する。
「だが、案ずるには及ばない。明日は光秀様もご一緒だ。もちろん俺もな」
「光秀様も?」
俯けていた顔をパッとあげると、人好きのする恒興の笑顔に見つめられていた。
「そうだ。光秀様がご一緒ならば、どのような事も杞憂であろう。嬉しくて落ち着かぬこと以外はな」
「っ、もう! だから違いますって!」
頬を膨らませ、美琴は恒興を睨み返した。
0
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる