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4. 王宮のお茶会(ルーク視点)

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「おつかれー」

 ご令嬢を見送り、先ほどまで華やいでいた庭園の中でホッと一息つくと、軽い口調でディノが声をかけてきた。

「王子様も大変だな、婚約者候補がたくさんいるといっぺんにお見合いしなくちゃならなくてさ」
「これも伝統だ。いちいち一人ずつ会うのも効率も悪いしこれでいい」

 お茶会という名の令嬢選び。案外多人数で行った方がその人の自然な立ち回りが見えるなと、今日のお茶会を経験してルークはそう考えた。


「で、どうだった? お気に召したご令嬢は?」
「ディノ、ルークも疲れているんだからそんな話は後にしなさい」

 一つ上のユウリが、不躾に聞いてくるディノを諫める。年上とはいえ十三歳にしてこの落ち着きはルークにとって頼りになる存在だ。もちろんディノの遠慮のない物言いも気に入っているから、いまも幼馴染の友人として側にいてもらっている。

 そして彼の質問にふむ、と少し考え込んだ。
 お茶会が始まるまで、一人警戒していた令嬢がいた。母親である王妃と懇意にしているコンスティ夫人の娘だ。

 あの夫人は言葉巧みに母に取り入り、ことあるごとに娘を話題に出し売り込んでくる。見え透いたおべっかは見ていて不快なもので、できれば距離を置きたい人物の一人だった。
 野心が強いのかそれらの行動は他の貴族に比べ熱烈で、陰ではかなり顰蹙を買っているとの話を聞く。そんな彼女を知っている身としては、今日は間違いなく娘を焚きつけてくるだろうと予想していた。


「コンスティ侯爵令嬢は思っていたのと違ったな」

 振り返りながらルークはそう呟いた。他の令嬢のように積極的に話しかけてくるわけでもなく、皆の話を聞きながらさりげなく会話に混じる程度にしか加わらない。
 大方の令嬢とは一通り話をしても、彼女ともう一人の伯爵令嬢はこちらから投げかけないと直接話が出来ない程だった。

 自分の予想が裏切られただけに印象に残ったことを口にすると、にやりとディノが笑うのが見えた。

「ライラ嬢か。くくく、確かに面白い感じの子だったな」
 含み笑いをしながらディノが言う。

「振る舞いは侯爵令嬢然として落ち着いているのに、目の表情だけがくるくる変わってさ。感情を表に出すまいと頑張っていたみたいだったけど、効果はあったのかな?」
「……そこまでは見ていなかった」
「ではライラ嬢の努力は報われたということか。可愛いご令嬢だったし、よかったよかった」
「君の婚約者選びではないのだが?」

 ディノが楽しそうに褒めるので、念のため釘を刺しておく。

「そう口を尖がらすなって。でもルークの婚約者から外れたら、俺だってお相手の候補にあがるだろ?」
「ディノ、いい加減ルークをからかうのはやめなさい。そしてルークもいちいち律儀に答える必要ありません」

 ユウリがぴしりと言葉を放つ。

「すまない、……今日は二人とも来てくれてありがとう。とても助かった」
「俺たちは菓子食べていただけで何もしてないけどな。まあ少しでも役に立てたのなら良かったよ」

 礼を言い、ゆっくり休んでくれと伝えて友人二人を見送った。


 今日はもうやるべきことはない。ルークは自室に戻ると深くソファに腰を下ろし、従者に預けていた読みかけの本を持ってこさせた。続きを読もうと栞で挟んでいた個所を開いて目を落とす。

(…………)

 文字を追おうとしても、上辺の文字列をなぞるばかりで目が滑り、内容がなかなか頭に入ってこない。お茶会で神経を使ったせいだろうか。
 ルークは小さくため息をつくと、そのままぼんやりと物思いに耽った。


 実はコンスティ侯爵令嬢にはもう一つだけ気になることがあった。
 それは母である王妃が皆の前で挨拶をした時、一人だけ不安そうな面持ちでこちらを見ていたことだ。
 我が国の王妃であり聖女で在られる母を、他の令嬢たちは尊敬のまなざしで見上げていた。その中で彼女だけが不安気にこちらを見つめていたのだ。
 王妃を前にして緊張したのだろうか? そうとも捉えられなくはないが……。

 自分と母の確執は外に漏れていないとルークは確信している。内情を知るものは父である国王含め王宮内にもほぼ存在していないはずだった。それほど母は悪意を巧みに隠し、世間には偽りの親子関係を見せていた。
 だから母と懇意にしているコンスティ夫人でもそれは知るはずもなく、さらにその娘が知っていることなどありえない。

「目で表情を語るか……」

 あの時の彼女の瞳には、一体何が見えていたのだろうか。

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