19 / 67
18. ユウリの放課後(ユウリ視点)
しおりを挟む
月に一度精霊殿で行われる巡拝のため、我がマルティウス邸に聖女であられるミラ王妃陛下がご来邸された。
屋敷の横を通り過ぎ、奥にある水精霊殿に入りそこで二時間ほどの儀式が行われる。
王妃としての仕事をこなしつつ、ひと月の間に五つの精霊殿を回られるミラ様は、その多忙さをおくびにも出さず、私共を労われるお姿にはいつも尊敬の念を抱いていた。
この日もいつものように儀式を終えられて本殿の守護司である父と言葉を交わした後、私の方へ顔を向けられた。
「ユウリ、貴方と少しお話したいわ。侯爵少しよろしいかしら」
ミラ様の言葉を受け、父は頭を垂れ少し離れた場所まで引き下がる。それを見届けるとミラ様は再び向き直り話された。
「優秀な貴方がルークの側にいてくれてとても助かっているわ。私があの子を見てやれないのが心苦しいのだけれど、あなたが側にいることで安心しているの」
お互いに忙しくルークの生活が把握しにくいこと、学園生活や聖女候補生のことなどが気になっていることなどを切々と語られる。
まだ若輩である私を認めてくださっている事は素直に嬉しく感謝すべきことだ。
私はこの国を正しく導かれる両陛下を、立場上だけでなく心から尊敬し忠誠を誓っている。
「ルーク殿下におかれましては良好な学園生活を送っておられるようです。聖女候補生については、私自身が関わる機会が無いものですから、人柄などについてお答えすることはできません。しかし話を聞く限りでは、殿下や級友とも良い関係を築けているようです」
ルークやディノ達と話していると自然に出てくる婚約者候補たちの名前。
私自身も、王子と婚約者候補がいるクラスというのはどうなのだろうかと、初めの頃は心配をしていた。
「そう。……私コンスティ侯爵夫人と仲良くさせてもらっているのだけれど、お嬢さんを次期聖女にさせたいらしくて熱心に訴えてくるのね。私の立場としては、特定の人物に肩入れしたり後ろ盾になったりすることは出来ないと、やんわり伝えているのだけれど」
少し困った顔をされて首を傾げられた。
確かにコンスティ夫人の娘の売り方は、貴族たちの間で顰蹙を買っているという噂は知っていた。
「ただ私としても、ルークの母であり現聖女として候補生たちがどういう状況にあるのか知りたくて。貴方も今後守護司の家の者として、候補生達と交流を持つようになると思うの。貴方から見える範囲でいいから、出来ればこれからそういった話を聞かせてもらいたいわ」
そう話されたミラ様にやや違和感を覚えた。そもそも聖女の素行は学園側も選考基準として見ているはずなので、なぜわざわざ一生徒である私に?と疑問が浮かぶ。
しかし私はすぐにその不敬な考えを払拭した。聖女として他の誰よりも気にされることは理解できることで、ルークの母という立場で心配されてしまうことも当然だろう。
今まで王妃という公人の振る舞いだけを見てきたものだから、私人としての心の揺れに違和感を抱いてしまったのかもしれない。
私が恭しく承知すると、ミラ様は満足そうに笑ってこの日は帰られた。
学園の図書室で彼女を見かけたのは偶然だった。真剣な表情で本に目を落とし何やら考え込んでいる。あの独特な装丁はオーラント国記だろうか。
彼女と初めて会ったのは私が十三の時だ。ルークの婚約者候補選びのお茶会で目にした時、令嬢たちの中で一際目を引いた存在だった。
十二という年齢にしては大人びていて、可愛らしさよりも美しい立ち振る舞いが印象的だったことを覚えている。
一緒に参加していたディノは私とは違う印象を持ったようだが、ルークの反応を見る限り彼女が選ばれるだろうと予想していた。
あれから個人的に交流を持つことはなく、学園の精霊祭で久しぶりに顔を合わせた。相変わらずそつが無く……と思っていたのだが、どうやら友人とは砕けた交流をしているらしい。
エイデンとの会話で思わぬ一面を見てつい吹き出してしまったが、なかなか良い雰囲気のクラスだと感じた。
学園が“学びの場の平等”の理念を掲げてはいるものの、それを実践することはなかなか難しい。この貴族社会において、どうしても家格による上下関係が生まれてしまうのは仕方がないことではある。
しかし彼らの間には、それを感じさせない和やかな雰囲気がそこにはあった。
図書室でわざわざ彼女の目の前に座っても、それに気付く様子もなく眉間に小さなしわを寄せている。本に目を落として何やら考えているようだった。
集中している様子のため声をかけるのが躊躇われたが、彼女と個人的に話せる機会というのが上級生である私にはあまりない。
ミラ様の言葉を思い出していた私は、彼女の名前を呼んだ。
・
・
・
「それにしてもライラ嬢は端から見る印象とは随分違うね」
言葉を飾る気もなく素直な感想を述べた。思いのほか会話が弾み、お互い距離が縮まっていたのだろう。
「失礼ながら、私こそ聡明なお方と聞きますユウリ様をそのように思っておりました。とても朗らかでお優しくて、ついおしゃべりが過ぎてしまいましたわ」
そう彼女は言っていたが、不思議と旧知の知り合いと話しているのような感覚があった。
言葉を選んでいる様子はあるものの、初めから私に対して心を許しているような親し気な眼差しを向けられる。そのおかげなのか、こちらも自然と力が抜けていくのがわかった。
なんとなく理解出来たように思う。
一年生の教室の雰囲気が良いのは、ディノやエイデンらの気さくな性格のおかげだろうと思っていたが、おそらく侯爵令嬢である彼女の持つ空気感も大きいのだろう。
ルークの話になった時に、少し顔を赤らめて動揺していた彼女をみて微笑ましく思った。
屋敷の横を通り過ぎ、奥にある水精霊殿に入りそこで二時間ほどの儀式が行われる。
王妃としての仕事をこなしつつ、ひと月の間に五つの精霊殿を回られるミラ様は、その多忙さをおくびにも出さず、私共を労われるお姿にはいつも尊敬の念を抱いていた。
この日もいつものように儀式を終えられて本殿の守護司である父と言葉を交わした後、私の方へ顔を向けられた。
「ユウリ、貴方と少しお話したいわ。侯爵少しよろしいかしら」
ミラ様の言葉を受け、父は頭を垂れ少し離れた場所まで引き下がる。それを見届けるとミラ様は再び向き直り話された。
「優秀な貴方がルークの側にいてくれてとても助かっているわ。私があの子を見てやれないのが心苦しいのだけれど、あなたが側にいることで安心しているの」
お互いに忙しくルークの生活が把握しにくいこと、学園生活や聖女候補生のことなどが気になっていることなどを切々と語られる。
まだ若輩である私を認めてくださっている事は素直に嬉しく感謝すべきことだ。
私はこの国を正しく導かれる両陛下を、立場上だけでなく心から尊敬し忠誠を誓っている。
「ルーク殿下におかれましては良好な学園生活を送っておられるようです。聖女候補生については、私自身が関わる機会が無いものですから、人柄などについてお答えすることはできません。しかし話を聞く限りでは、殿下や級友とも良い関係を築けているようです」
ルークやディノ達と話していると自然に出てくる婚約者候補たちの名前。
私自身も、王子と婚約者候補がいるクラスというのはどうなのだろうかと、初めの頃は心配をしていた。
「そう。……私コンスティ侯爵夫人と仲良くさせてもらっているのだけれど、お嬢さんを次期聖女にさせたいらしくて熱心に訴えてくるのね。私の立場としては、特定の人物に肩入れしたり後ろ盾になったりすることは出来ないと、やんわり伝えているのだけれど」
少し困った顔をされて首を傾げられた。
確かにコンスティ夫人の娘の売り方は、貴族たちの間で顰蹙を買っているという噂は知っていた。
「ただ私としても、ルークの母であり現聖女として候補生たちがどういう状況にあるのか知りたくて。貴方も今後守護司の家の者として、候補生達と交流を持つようになると思うの。貴方から見える範囲でいいから、出来ればこれからそういった話を聞かせてもらいたいわ」
そう話されたミラ様にやや違和感を覚えた。そもそも聖女の素行は学園側も選考基準として見ているはずなので、なぜわざわざ一生徒である私に?と疑問が浮かぶ。
しかし私はすぐにその不敬な考えを払拭した。聖女として他の誰よりも気にされることは理解できることで、ルークの母という立場で心配されてしまうことも当然だろう。
今まで王妃という公人の振る舞いだけを見てきたものだから、私人としての心の揺れに違和感を抱いてしまったのかもしれない。
私が恭しく承知すると、ミラ様は満足そうに笑ってこの日は帰られた。
学園の図書室で彼女を見かけたのは偶然だった。真剣な表情で本に目を落とし何やら考え込んでいる。あの独特な装丁はオーラント国記だろうか。
彼女と初めて会ったのは私が十三の時だ。ルークの婚約者候補選びのお茶会で目にした時、令嬢たちの中で一際目を引いた存在だった。
十二という年齢にしては大人びていて、可愛らしさよりも美しい立ち振る舞いが印象的だったことを覚えている。
一緒に参加していたディノは私とは違う印象を持ったようだが、ルークの反応を見る限り彼女が選ばれるだろうと予想していた。
あれから個人的に交流を持つことはなく、学園の精霊祭で久しぶりに顔を合わせた。相変わらずそつが無く……と思っていたのだが、どうやら友人とは砕けた交流をしているらしい。
エイデンとの会話で思わぬ一面を見てつい吹き出してしまったが、なかなか良い雰囲気のクラスだと感じた。
学園が“学びの場の平等”の理念を掲げてはいるものの、それを実践することはなかなか難しい。この貴族社会において、どうしても家格による上下関係が生まれてしまうのは仕方がないことではある。
しかし彼らの間には、それを感じさせない和やかな雰囲気がそこにはあった。
図書室でわざわざ彼女の目の前に座っても、それに気付く様子もなく眉間に小さなしわを寄せている。本に目を落として何やら考えているようだった。
集中している様子のため声をかけるのが躊躇われたが、彼女と個人的に話せる機会というのが上級生である私にはあまりない。
ミラ様の言葉を思い出していた私は、彼女の名前を呼んだ。
・
・
・
「それにしてもライラ嬢は端から見る印象とは随分違うね」
言葉を飾る気もなく素直な感想を述べた。思いのほか会話が弾み、お互い距離が縮まっていたのだろう。
「失礼ながら、私こそ聡明なお方と聞きますユウリ様をそのように思っておりました。とても朗らかでお優しくて、ついおしゃべりが過ぎてしまいましたわ」
そう彼女は言っていたが、不思議と旧知の知り合いと話しているのような感覚があった。
言葉を選んでいる様子はあるものの、初めから私に対して心を許しているような親し気な眼差しを向けられる。そのおかげなのか、こちらも自然と力が抜けていくのがわかった。
なんとなく理解出来たように思う。
一年生の教室の雰囲気が良いのは、ディノやエイデンらの気さくな性格のおかげだろうと思っていたが、おそらく侯爵令嬢である彼女の持つ空気感も大きいのだろう。
ルークの話になった時に、少し顔を赤らめて動揺していた彼女をみて微笑ましく思った。
2
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【だって、私はただのモブですから】
10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした――
※他サイトでも投稿中
編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?
灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。
しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?
お掃除侍女ですが、婚約破棄されたので辺境で「浄化」スキルを極めたら、氷の騎士様が「綺麗すぎて目が離せない」と溺愛してきます
咲月ねむと
恋愛
王宮で侍女として働く私、アリシアは、前世の記憶を持つ転生者。清掃員だった前世の知識を活かし、お掃除に情熱を燃やす日々を送っていた。その情熱はいつしか「浄化」というユニークスキルにまで開花!…したことに本人は全く気づいていない。
そんなある日、婚約者である第二王子から「お前の周りだけ綺麗すぎて不気味だ!俺の完璧な美貌が霞む!」という理不尽な理由で婚約破棄され、瘴気が漂うという辺境の地へ追放されてしまう。
しかし、アリシアはへこたれない。「これで思う存分お掃除ができる!」と目を輝かせ、意気揚々と辺境へ。そこで出会ったのは、「氷の騎士」と恐れられるほど冷徹で、実は極度の綺麗好きである辺境伯カイだった。
アリシアがただただ夢中で掃除をすると、瘴気に汚染された土地は浄化され、作物も豊かに実り始める。呪われた森は聖域に変わり、魔物さえも彼女に懐いてしまう。本人はただ掃除をしているだけなのに、周囲からは「伝説の浄化の聖女様」と崇められていく。
一方、カイはアリシアの完璧な仕事ぶり(浄化スキル)に心酔。「君の磨き上げた床は宝石よりも美しい。君こそ私の女神だ」と、猛烈なアタックを開始。アリシアは「お掃除道具をたくさんくれるなんて、なんて良いご主人様!」と、これまた盛大に勘違い。
これは、お掃除大好き侍女が、無自覚な浄化スキルで辺境をピカピカに改革し、綺麗好きなハイスペックヒーローに溺愛される、勘違いから始まる心温まる異世界ラブコメディ。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる