全ルートで破滅予定の侯爵令嬢ですが、王子を好きになってもいいですか?

紅茶ガイデン

文字の大きさ
36 / 67

35. 離宮イベント本番②

しおりを挟む
 今回この離宮に来たときに、一つ引っかかっていたことがあった。それは王妃への挨拶のことだ。

 昨年、私達がご挨拶にお伺いした時は王妃にお茶を誘われ、ロイ様も交えて砕けた雰囲気でお話をされていた。
 それが今回は謁見の間に通され、私達三人は王妃にお会いすることになった。
 ありふれた労いの言葉を頂いて早々に部屋を後にするという、明らかに一線を引かれたような印象があった。

 ジュリア自身は、初めて聖女である王妃と対面したことでとても感動をしていたけれど、私にはどうしても去年と比較して違和感が拭えずにいた。

 さりげなくマリーにもどう思うか尋ねてみたところ「今回はジュリアもいたから……かしら?」と予想はしても特に思う所はない様子だ。

 私も同じように思っていた。今回はジュリアがいたからではないかと。
 平民出身の者がいたから距離を置いたのか?と考えると、ではなぜその平民を聖女候補生に選んだのかという矛盾を感じてしまう。わざわざ地方から呼び出してまで連れてきたのだから、それこそ私たちよりも関心を向けるのではないかと思うのだけれど。
 私が考えすぎなのだろうか。でもどうしても引っかかってしまうのも事実だ。



「ライラ、順番がきてるよ」

 エイデンの声に、ふと我に返って目の前にいる四人の顔を見た。物思いに耽って順番が回ってきたことに気付かなかった。
「あ、ごめんね。えーとこれにしようかな」

 私はエイデンのカードの中から一枚を抜き出す。するとエイデンが微かにニヤリと笑みを浮かべたのが見えた。
 しまった、ババを引いてしまった。
 私は悩む演技をしながら手札の中に紛れさせ、隣のマリーにカードを差し出した。

 ディナー後のまったりとした時間に私とマリー、エイデンとディノの四人でトランプのババ抜きをやっている。この世界にはなぜかババ抜きがなかったので、去年カード遊びをしている時に私が遊び方を教えたのだ。
 あまり頭を使わず、気楽に遊びたい時にはババ抜きが丁度いい。

 ユウリとカトルは、ジュリアに屋敷の案内を買って出て三人でどこかへ行ってしまった。ユウリが一緒なら、おそらく書庫あたりでも案内しているような気がする。守護貴族の彼らは幼い頃からここへ毎年来ているらしいので、彼らにとっては身内の別荘みたいなものなのだろう。


「なあ。明日の乗馬、ジュリアはユウリとカトルどっちと乗ると思う?」
 一抜けしたエイデンが、暇を持て余したようにこの場にいない三人の話を出してきた。

「また下世話なことを……。そういや明日は俺とカトルでロイ様のお供をしてくる。後で伝えようと思って言い忘れていた」
 自分の手持ちのカードを見つめながらディノがそう答えた。

「え、そうなの?」「本当?」
 エイデンとマリーが驚いた様子で彼を見る。私も同様に予想外のことで驚いた。
 
「ふーん、なるほどねぇ」
 何かを察したような顔をして、エイデンが頷いている。

「まあそういうわけで、明日は皆で楽しんできてくれ」

 そう言いながらディノはマリーから一枚カードを引き抜くと二枚捨てた。残り一枚となったそのカードを私が引いてディノが上がると、私とマリーの一騎打ちとなった。
 カードが何度か往来して、自分の手札は残り一枚。当たりを引けば上がりになるところでババを引いてしまった。

 私の動揺を見てにこにこしているマリーが、しつこくシャッフルした私の手札からあっさり一枚を引くと、そのままパッとカードを捨てた。
「あがりましたー」
「負けたぁ」

 特に賭けをしていたわけでもないのに、ババ抜きでも負けると悔しい。

 ふと、手元に残ったジョーカーが目に入った。
 まるで私をあざ笑うかのような、不気味な笑顔がそこに描かれている。
 何か怖く感じて、嫌な気分がしたのですぐにカードの中に混ぜ合わせた。


 次の日、離宮に向かうとすでに表には馬が用意されていた。

 サロンに通され、ルーク様の到着を待つ。
 その間にエイデンはマリーと一緒に乗るつもりで盛り上がっているし、ユウリはジュリアに一緒に乗る提案をしていた。

 そうなると、残りは私とルーク様になるわけだけれど……。
 ここにきて、ルーク様が頑なに一人で乗馬されようとしたらどうしよう。結構ショックを受けるかもしれない。


 ほどなくしてルーク様が到着されたので、そのまま全員で外に向かった。

 そして先程話していた通り、マリーはエイデンの後ろに乗り、ジュリアはユウリの後ろに座って準備をしている。

「では私達も乗ろうか」
 そう言ってルーク様がこちらを見たので私の心臓が高鳴った。
 もしかして本当に私と乗馬してくれるのだろうか。期待していなかったわけではないけれど、いざそう決まると緊張してドキドキしてくる。



 そして今、私はルーク様の後ろに横座りになって彼の服を掴んでいる。
 体がぎこちなく、ガチガチに固くなっているのが自分でもわかる。

「ライラ、もっとしっかり掴まってくれてかまわない。ゆっくり歩くから落ちることはないだろうが、安全のためにも腰にしっかり手を回してくれ」
 そう言われて私は恐る恐る腕を伸ばし、ルーク様の言われる通りに従った。

 全員が乗馬して安全確認を終えると、前方後方に護衛を従え、私たちはゆっくりと庭園を抜け離宮を後にした。

 馬車からの景色も良かったけれど、こうして馬に乗って高い位置から周囲を見渡せるのがとても気持ちいい。
 私はルーク様に体が密着しないように気を付けながら、その解放感を味わっていた。
 いつもの川へ向かう道を外れ、初めて通る道へ入っていく。前方には小さな森林が見えて、どうやらそちらに向かっているらしい。

 道は森の中まで続いているようで、私達は木陰へと入っていった。道は狭くなり、そこを一列になってゆっくりと進んでいく。

「この辺りは狩猟にくるところなんだ。野生動物もたくさんいる」
 ルーク様がそう説明をしてくれる。
 私は背後でそれを聞きながら、しみじみとこの幸せを噛みしめていた。
 樹々から差し込む木漏れ日が、樹木や草花に僅かな光を与えて幻想的な雰囲気を醸し出している。これは夢なのではないかと錯覚してしまいそうなほどに、私はどこか夢心地だった。


 野鳥のさえずりが所々で響いている。それらの自然の音に耳を傾けていると、すぐ近くでがさりと大きな音が鳴った。

「ひゃっ!」
「大丈夫。ウサギだよ、ほら」

 ルーク様が指さす方に目を向けると、茶色いウサギが全速力で遠のいているのが見えた。

「びっくりした……」
 彼が王妃に命を狙われていることを知っている身としては、こういう不意打ちは心臓に悪い。
 ルーク様は安心させるように、後ろから回していた私の手に、自身の右手を重ねた。

「ライラ、少し話しておきたいことがある」

 今までの穏やかな話しぶりと少し違って、少し声に緊張が混じったように聞こえた。

「はい、お伺い致します」
 つられて私も畏まった返しをしてしまう。

「来年には聖女が決まり、私は王太子となる。それは誰が聖女となってもそれを受け入れ、国の為に尽くさねばならないということだ」
「はい」
 余計な言葉を挟まずただ頷く。

「だから、私が自由でいられる時間ももうあまりない。今後はそれに伴い、皆との付き合い方も変わってくることもあるだろう。君にもそれを理解していてほしい」

そう言うとルーク様は口を閉ざし、重ねた私の左手の甲に指で文字らしきものを書き始めた。

(……信じろ?)

 何を? よくわからないけれど、一応肯定して、はいと頷いた。
「わかってくれればそれでいい。ほら、もうすぐ出口だ」

 ルーク様の言う通り、前方に目を向ければ樹木のトンネルの先から光が飛び込んできた。

 今の文字は……? と考える間もなく、目の前には開けた草原が現れ、爽やかな青空と瑞々しい緑が視界いっぱいに広がった。後から来たエイデンやユウリ達も森を抜けると同様に立ち止まった。

 どうやらここは高台になっているようで、下を見渡すとそこそこ大きな街が広がっているのが見えた。

「ここからは城下町が見えるんだ。夕方あたりからぽつぽつと街の灯が付き始めて、地上の星のようにとても美しい景色になる。残念ながら、遅い時間に誘えないから見せることが出来ないが。それでも眺めはいいだろう?」
「そうそう。あの景色は皆に見せたいよな」
 エイデンも顔を綻ばせて話す。

 高いところから眺める夕暮れや夜景は格別だろうなと思いを馳せる。思えばこの世界には高いビルもなければ空を飛ぶ乗り物もない。夜景を眺められる場所というものは、この世界では貴重なのかもしれない。

 ユウリは馬で前に乗り出すと、ジュリアと共に遠くの景色を眺めた。

「私は狩りが苦手だからこの場所まで来たことはなかったんだが、たしかにこれは良い眺めだ」

 ユウリがそう話すと、「たしかにユウリ様が狩りをしている姿は全く想像がつきませんね」とジュリアが面白そうに笑った。

 ここ数日この二人と一緒にいたけれど、ジュリアの言葉には遠慮がなくて見ていて面白い。
 ユウリもカトルも、そういったしがらみのない自由な彼女を気に入っているのかもしれない。


 私たちはここで馬を休ませたのち、来た道をぐるりと回るようにして散歩を終えた。

 離宮イベントの目玉である乗馬イベントはこうして穏やかに終え、離宮イベントは幕を閉じた。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【だって、私はただのモブですから】 10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした―― ※他サイトでも投稿中

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

お掃除侍女ですが、婚約破棄されたので辺境で「浄化」スキルを極めたら、氷の騎士様が「綺麗すぎて目が離せない」と溺愛してきます

咲月ねむと
恋愛
王宮で侍女として働く私、アリシアは、前世の記憶を持つ転生者。清掃員だった前世の知識を活かし、お掃除に情熱を燃やす日々を送っていた。その情熱はいつしか「浄化」というユニークスキルにまで開花!…したことに本人は全く気づいていない。 ​そんなある日、婚約者である第二王子から「お前の周りだけ綺麗すぎて不気味だ!俺の完璧な美貌が霞む!」という理不尽な理由で婚約破棄され、瘴気が漂うという辺境の地へ追放されてしまう。 ​しかし、アリシアはへこたれない。「これで思う存分お掃除ができる!」と目を輝かせ、意気揚々と辺境へ。そこで出会ったのは、「氷の騎士」と恐れられるほど冷徹で、実は極度の綺麗好きである辺境伯カイだった。 ​アリシアがただただ夢中で掃除をすると、瘴気に汚染された土地は浄化され、作物も豊かに実り始める。呪われた森は聖域に変わり、魔物さえも彼女に懐いてしまう。本人はただ掃除をしているだけなのに、周囲からは「伝説の浄化の聖女様」と崇められていく。 ​一方、カイはアリシアの完璧な仕事ぶり(浄化スキル)に心酔。「君の磨き上げた床は宝石よりも美しい。君こそ私の女神だ」と、猛烈なアタックを開始。アリシアは「お掃除道具をたくさんくれるなんて、なんて良いご主人様!」と、これまた盛大に勘違い。 ​これは、お掃除大好き侍女が、無自覚な浄化スキルで辺境をピカピカに改革し、綺麗好きなハイスペックヒーローに溺愛される、勘違いから始まる心温まる異世界ラブコメディ。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)

犬野きらり
恋愛
私、ミルフィーナ・ダルンは侯爵令嬢で二年前にこの世界が乙女ゲームと気づき本当にヒロインがいるか確認して、私は覚悟を決めた。 『ヒロインをゲーム本編に出さない。プロローグでケリをつける』 ヒロインは、お父様の再婚相手の連れ子な義妹、特に何もされていないが、今後が大変そうだからひとまず、ごめんなさい。プロローグは肩慣らし程度の攻略対象者の義兄。わかっていれば対応はできます。 まず乙女ゲームって一人の女の子が何人も男性を攻略出来ること自体、あり得ないのよ。ヒロインは天然だから気づかない、嘘、嘘。わかってて敢えてやってるからね、男落とし、それで成り上がってますから。 みんなに現実見せて、納得してもらう。揚げ足、ご都合に変換発言なんて上等!ヒロインと一緒の生活は、少しの発言でも悪役令嬢発言多々ありらしく、私も危ない。ごめんね、ヒロインさん、そんな理由で強制退去です。 でもこのゲーム退屈で途中でやめたから、その続き知りません。

処理中です...