全ルートで破滅予定の侯爵令嬢ですが、王子を好きになってもいいですか?

紅茶ガイデン

文字の大きさ
62 / 67

61. エンディング

しおりを挟む


 九月も終わりに近付いた晴れた日の放課後。

「ライラ、緊張してうっかり倒れちゃ駄目だからね!」
「式の最後までしっかり意識を保って!」

 なんだか酷い言われような気もするけれど、皆はいたって真面目に私の心配をしてくれていた。
 一週間後に行われる、ルーク様の立太子式と私の聖女戴冠式を前に、クラスメイトが私を取り囲み送り出そうとしてくれていた。
 私はこれから式への準備に入るため、しばらく休学することになっている。

 そしてルーク様もまた、あの事件以来学園には姿を現していなかった。今は王宮の立て直しを優先し、王宮内を奔走しているらしい。

 無理もない。この国の王妃であり聖女でもあった彼女が表舞台から消えたのだ。国王と共に連日王宮内の調整を行っているという。

 そして私もまた、王妃に会いに行ったその日を最後にルーク様とお会いすることが出来ずにいた。



「ライラ、どうしよう。私すごく緊張してきた」

 マリーが少し青ざめた顔をして震えている。

「とうとうライラがルーク様と結ばれる日が来るなんて。一年生の頃から皆で見守ってきたライラの恋が実るところを目にしてしまったら……私、嬉しすぎてどうにかなりそう」
「大丈夫だよ、マリー。そういう時は俺がこうして手を握っていてあげるから」

 どさくさに紛れて、エイデンがマリーの両手を包んで優しく語っている。


「そんな、皆で見守るとか大袈裟な……」

 聖女を目指していたことは公言していたけれど、ルーク様を好きだなんてことは明言していない。マリーやアネット達にはバレていたけれど、まさか全員が知っていたというわけではないよね?

「何その顔。クラス全員がずーっとライラの恋の行方を心配していたでしょうが。まさか知らないなんて言わないわよね?」

 まるで私の思考を読んだかのように、アネットがそう答える。

「えっと、いやあの……好きとかじゃなくて、聖女になることを応援してくれていたのかな……と」

 アネットの怖い顔に思わずたじろぐ。
 すると、ディノも呆れたように口を開いた。

「ライラは分かりやすいからな。きっとルークもそれなりに気付いていたんじゃないか?」

 今更知った衝撃の事実。ルーク様も私の気持ちを知っていたなんて嘘でしょ?

「だからあいつも大変だったと思うぞ。応えたくても立場上それが出来ないわけだから、気持ちを抑えるのも苦しかっただろうしな。同じ男として同情していた」

 そう言って難しい顔をするディノ。


「……ルーク様は、私と行動を共にされていた時ずっと苦しそうな表情をされていたの」

 ジュリアがおずおずと会話に入ってきた。
 私が倒れた事件の後、そのまま田舎へ帰ってしまったジュリア。
 ユウリとカトルが迎えに行ったという話をディノから聞いた後、彼女は子爵令嬢の養子となって王都に戻ってきた。

 一体何がどうなったのかと思っていたら、ユウリとカトルが手を尽くして彼女の遠い親戚を探し出し、ローグリー子爵という貴族に養子縁組をお願いしたらしい。

 そこからどういった経緯で手続きを行ったのか私には知ることは出来ないけれど、彼女はその家の養子となり、ジュリア=ノースという名前からジュリア=ローグリーと変わった。

 これは彼らの、彼女を王都に連れ戻すという強い意思に加えて、きっと彼女との将来を見据えてのことではないかと思っている。
 彼らもまた、自らの恋を実らせようと頑張っているのかもしれない。


 それからもう一つ特別なことがあった。
 聖女がいなくなってしまった今、しばらくの間は先代王妃と私達三人が仕事を引き継ぐことになったのだ。

 本来は聖女からゆっくりと教わりながら新たな聖女へと引き継がれるものが、その役割を担うものがいなくなってしまったために、私のサポートとして聖女候補生であったジュリアとマリーが配属されることになった。

 そして今もまだ、私に対して申し訳なさそうに話すジュリアを見て、優しく話しかけた。

「ジュリア、私達は何が正解かもかわからず色々な選択をしてきたけれど、悩みながらでもしっかり歩いてたからこそ今があるのかもしれないわ。それはきっとルーク様もジュリアも同じだったのではないかしら。……そしてこれからも、また悩みながら進んで行くんだわ」

 私は様々なことを振り返りながら、そんなことを口にした。

「ということでマリー、ジュリア。これからもよろしくね」


 そして改めて皆の顔を見渡した。
 一年生の時からずっと私と一緒に成長し、見守ってくれていたクラスメイト。
 
 そして、転入してくることに怯えていた、ヒロインのジュリア。彼女は想像以上に純粋で、強い女性だった。

 皆がいたから頑張ってこれたし、自分を信じて突き進むことが出来た。
 この結末を迎えられたのは、たくさんの優しい想いがあったおかげだと思っている。


「みんな、ありがとう。頑張って式に挑んできます」








 光の精霊殿の扉が開かれ、多くの参列者が並ぶなか、私は名前を呼ばれて登壇する。

「ライラ=コンスティ。長い選定期間を経て貴女が次期聖女に選ばれた。今回の度重なる困難をはねのけ、見事打ち勝つことが出来た貴女は聖女と呼ぶに相応しいであろう」
 国王の叔父であり、光の副守護司であるカリオス公爵の声が響き渡る。

 私はその言葉を感慨深く聞いていた。


 私は国王の前に一歩踏み出し、膝を折り頭を下げる。

「そなたに『約束のティアラ』を授ける。王妃から聖女を引き継ぐまで大事になされよ」

 頭上にそっと置かれ、ずっしりとした重みを感じる。
 国への責任、国民の期待……それらがすべて詰っているような重さだった。

「ここに新たなる聖女が誕生した。この国の全てのものに祝福があらんことを!」

 そう高らかに国王が宣言された。

 本来ならば、両陛下が揃うはずの大式典。次期聖女の戴冠式は国王ではなく王妃が行うものだった。しかし彼女は今も優雅な牢獄に幽閉され、長い時を過ごしている。


 そして先程立太子式を終えられ、正式に王太子となられたルーク様が登壇された。
 多くの人に見守られるなか、国王によって婚約の儀へと移る。


 国王からの誓約を受け、私達は歩み寄りルーク様が私の左手を優しく持ち上げる。


 私はルーク様の声に導かれてこの世界に辿り着いた。
 十二歳で記憶を呼び覚まし、ルーク様の生きる道を探して、私がその側に居られることを夢見てきた。


「ルーク様、私はもう、全身全霊をかけてあなたを好きになってもいいのですね」

 その願いが叶えられようとする瞬間、思わずそんな言葉がこぼれた。

 ルーク様は目を見開いて私を見つめ、その瞳は私をまっすぐに捉えて離さなかった。

「それは私の言葉だ。……やっと君に触れて、心のままに愛することができる。どうかあなたの側に寄り添う事をお許しください……ライラ」

 目が離せなかった。他の何も目に入らず、ただ彼の深く真剣な眼差しに瞳が吸い寄せられる。


 その彼の目が一度ゆっくりと伏せられると、ルーク様は王太子として厳かに宣誓をし、私の前に跪いた。

「新たなる聖女よ、この国の繁栄のため私に力をお与えください」

 そうして私の左手の甲に、ルーク様の誓いのキスが落とされた。



 二人への祝福の鐘の音が、大きく王宮中に鳴り響いた。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【だって、私はただのモブですから】 10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした―― ※他サイトでも投稿中

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

お掃除侍女ですが、婚約破棄されたので辺境で「浄化」スキルを極めたら、氷の騎士様が「綺麗すぎて目が離せない」と溺愛してきます

咲月ねむと
恋愛
王宮で侍女として働く私、アリシアは、前世の記憶を持つ転生者。清掃員だった前世の知識を活かし、お掃除に情熱を燃やす日々を送っていた。その情熱はいつしか「浄化」というユニークスキルにまで開花!…したことに本人は全く気づいていない。 ​そんなある日、婚約者である第二王子から「お前の周りだけ綺麗すぎて不気味だ!俺の完璧な美貌が霞む!」という理不尽な理由で婚約破棄され、瘴気が漂うという辺境の地へ追放されてしまう。 ​しかし、アリシアはへこたれない。「これで思う存分お掃除ができる!」と目を輝かせ、意気揚々と辺境へ。そこで出会ったのは、「氷の騎士」と恐れられるほど冷徹で、実は極度の綺麗好きである辺境伯カイだった。 ​アリシアがただただ夢中で掃除をすると、瘴気に汚染された土地は浄化され、作物も豊かに実り始める。呪われた森は聖域に変わり、魔物さえも彼女に懐いてしまう。本人はただ掃除をしているだけなのに、周囲からは「伝説の浄化の聖女様」と崇められていく。 ​一方、カイはアリシアの完璧な仕事ぶり(浄化スキル)に心酔。「君の磨き上げた床は宝石よりも美しい。君こそ私の女神だ」と、猛烈なアタックを開始。アリシアは「お掃除道具をたくさんくれるなんて、なんて良いご主人様!」と、これまた盛大に勘違い。 ​これは、お掃除大好き侍女が、無自覚な浄化スキルで辺境をピカピカに改革し、綺麗好きなハイスペックヒーローに溺愛される、勘違いから始まる心温まる異世界ラブコメディ。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...