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セオドア
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ヒロは、このぬるく煙った部屋は、セオドアの調子を回復させるのに良くないのではと考えた。もちろんあたたかいことはいいのだが、何週間も閉じ込めたような空気と煙が衛生的にどうかと思ったのだ。
「このお香は、なんで焚いてるんですか?」
「それは病を遠ざけるお香です。なので毎日焚いています」
「なるほど……これを一度外してもらってもいいですか? 新鮮な空気を入れたいんです」
「それは……そう、ね。ヒロの言う通りにと陛下が仰られたのなら、そうするべきよね……」
エナはお香を取り払うことに躊躇があるようだが、国王の言うことを信じる方に決めたらしい。
「そうしたら、顔に巻く頭巾かマスクがあれば欲しいです。箒と雑巾と、それから布団を。セオドア様が急に寒くなってはいけませんから」
「分かりました」
エナに付いて、ヒロは掃除道具と布団を手に入れた。二人で運んでセオドアの部屋に戻る。
セオドアの掛け布団の上から、もう一枚布団をかけたあと、お香を部屋の片隅に寄せてすべて火を消した。そしてセオドアの顔に軽く布をかけて、ヒロはエナを振り返る。
「じゃあ、窓を開けますね」
一声かけて窓を開け放つ。きりりと冷たく感じる風が鋭く入り込み、部屋中の蒸した空気を押し出していくようだった。風でふわりとカーテンがはためいた。
窓の外には広場が見える。グラウンドのように土でできた広場は、今は誰もいないようだった。
ふと、セオドアが身じろぎをした。布が擦れ合う音に気付いたヒロが振り返る。
まつ毛が震え、目蓋が上がる。爽快な晴れ渡った空のような、浅い珊瑚の海のような、美しい水色の瞳と目が合った。
「セオドア様、寒くないですか?」
「……この布は……?」
「部屋の掃除をいたしますので、ほこりが飛んで苦しくなってしまわないように、かけさせていただきました」
「エナか。そちらは……?」
よく知る人物の声かけに少し安心したらしく、セオドアは小さく尋ねた。
「陛下より本日付けで世話役となりました、ヒロでございます」
「ヒロです。よろしくお願いいたします。粗相がありましたら申し訳ありません」
ヒロがお辞儀をすると、セオドアは頷いた。
「ヒロは体は丈夫か?」
「はい」
「それは良かった。病を移してしまっては大変だから」
言い終わると同時にセオドアは激しく咳き込んだ。
「失礼します」
ヒロは一言断りを入れて、セオドアの体を横向けにした。その背中を軽くトントンと叩く。しばらく咳き込んでいたのが落ち着くと、セオドアはヒロを見上げた。
「背中を叩かれると、少し楽になるのだな」
「嫌でしたか?」
セオドアは首を横に振る。ベッドを挟んだ向かい側で、エナがほっと安心している様子が分かった。不敬にあたるかと心配したようだ。
咳で飛んだ布をかけ直しながら、ヒロはセオドアに説明する。
「陛下より、私の好きにセオドア様を看護して良いと承りましたので、そのようにこれからはお世話させていただくようになりますが、大丈夫でしょうか?」
「父様が……?」
セオドアは思案し、目を閉じた。再び開いた瞳には、どこか諦観が浮かんでいるように見えた。
「分かった……」
「セオドア様、陛下は新しい療法を試したいそうですよ」
「新しい療法?」
「そうです。だから新しくヒロを付けたのです」
「ヒロは病に詳しいのか?」
「まあ、基本的なことでしたら……」
「そうか。よろしく頼む、ヒロ」
王家らしい話し方だが、声変わりをしていないせいか、その喋りはつたなく聞こえた。
エナがセオドアを力付けるように言ったので、ヒロは頷くしかなかった。病は気から。セオドアががっかりするようなことは言わない方がいい。それに部屋の空気の入れ替えは知られていないようだったので、あながち嘘でもなかった。
「このお香は、なんで焚いてるんですか?」
「それは病を遠ざけるお香です。なので毎日焚いています」
「なるほど……これを一度外してもらってもいいですか? 新鮮な空気を入れたいんです」
「それは……そう、ね。ヒロの言う通りにと陛下が仰られたのなら、そうするべきよね……」
エナはお香を取り払うことに躊躇があるようだが、国王の言うことを信じる方に決めたらしい。
「そうしたら、顔に巻く頭巾かマスクがあれば欲しいです。箒と雑巾と、それから布団を。セオドア様が急に寒くなってはいけませんから」
「分かりました」
エナに付いて、ヒロは掃除道具と布団を手に入れた。二人で運んでセオドアの部屋に戻る。
セオドアの掛け布団の上から、もう一枚布団をかけたあと、お香を部屋の片隅に寄せてすべて火を消した。そしてセオドアの顔に軽く布をかけて、ヒロはエナを振り返る。
「じゃあ、窓を開けますね」
一声かけて窓を開け放つ。きりりと冷たく感じる風が鋭く入り込み、部屋中の蒸した空気を押し出していくようだった。風でふわりとカーテンがはためいた。
窓の外には広場が見える。グラウンドのように土でできた広場は、今は誰もいないようだった。
ふと、セオドアが身じろぎをした。布が擦れ合う音に気付いたヒロが振り返る。
まつ毛が震え、目蓋が上がる。爽快な晴れ渡った空のような、浅い珊瑚の海のような、美しい水色の瞳と目が合った。
「セオドア様、寒くないですか?」
「……この布は……?」
「部屋の掃除をいたしますので、ほこりが飛んで苦しくなってしまわないように、かけさせていただきました」
「エナか。そちらは……?」
よく知る人物の声かけに少し安心したらしく、セオドアは小さく尋ねた。
「陛下より本日付けで世話役となりました、ヒロでございます」
「ヒロです。よろしくお願いいたします。粗相がありましたら申し訳ありません」
ヒロがお辞儀をすると、セオドアは頷いた。
「ヒロは体は丈夫か?」
「はい」
「それは良かった。病を移してしまっては大変だから」
言い終わると同時にセオドアは激しく咳き込んだ。
「失礼します」
ヒロは一言断りを入れて、セオドアの体を横向けにした。その背中を軽くトントンと叩く。しばらく咳き込んでいたのが落ち着くと、セオドアはヒロを見上げた。
「背中を叩かれると、少し楽になるのだな」
「嫌でしたか?」
セオドアは首を横に振る。ベッドを挟んだ向かい側で、エナがほっと安心している様子が分かった。不敬にあたるかと心配したようだ。
咳で飛んだ布をかけ直しながら、ヒロはセオドアに説明する。
「陛下より、私の好きにセオドア様を看護して良いと承りましたので、そのようにこれからはお世話させていただくようになりますが、大丈夫でしょうか?」
「父様が……?」
セオドアは思案し、目を閉じた。再び開いた瞳には、どこか諦観が浮かんでいるように見えた。
「分かった……」
「セオドア様、陛下は新しい療法を試したいそうですよ」
「新しい療法?」
「そうです。だから新しくヒロを付けたのです」
「ヒロは病に詳しいのか?」
「まあ、基本的なことでしたら……」
「そうか。よろしく頼む、ヒロ」
王家らしい話し方だが、声変わりをしていないせいか、その喋りはつたなく聞こえた。
エナがセオドアを力付けるように言ったので、ヒロは頷くしかなかった。病は気から。セオドアががっかりするようなことは言わない方がいい。それに部屋の空気の入れ替えは知られていないようだったので、あながち嘘でもなかった。
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