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第12話 クランクアップ
しおりを挟むここはオルリー空港のターミナル。
2人の別れのシーン、フランスロケ最後の撮影。
******
あらすじはこうだ。
マリーはDV野郎と別れ、晴れて自由になれた。
旦那と別れる際に倉田は粉骨砕身で彼女を支える。
愛する女を救いたい、ただその一心で。
だが、その思いを抱えたまま予定の仕事を終え
マリーに思いを告げる事無く黙って去る倉田。
彼の帰国を知ったマリーは空港に引き留めに行く。
再会。すがりつくマリーと泣く泣く別れる倉田。
最後に彼女を抱きしめた倉田はゲートへ消える。
場面が変わる。
2人が別れてから1ヶ月後。
同じオルリー空港。
そこにははじけるような笑顔のマリー。
LA行きのチケットを片手にデパーチャに消える
その幸せな後ろ姿で映画は終わる。
最終的に2人は結ばれることを予感させるラストだ。
******
今日はこの最後のシーンを撮る。
まず、マリーが倉田を追いかけてアメリカに向かう所。
エンドロールが流れる本当に最後のシーンの撮影だ。
ここにマリーのセリフは無い。無言で歩くだけ。
そのまなざしだけで倉田に会いに行くと思わせる。
1発OK!
さすがマリー・デュ・コロワと皆が舌を巻いた。
次は2人の別れのシーン。リックが演出の確認。
ガミラとエリックが通訳に駆け寄る。
「いいかい?クラ。彼女を抱きしめ(愛してる)
(でも僕は君を幸せにできない)そう言うと
彼女を離し、2~3歩下がり、手を軽く振る」
身振り手振りのエリックに
神妙な顔つきでうなずく。
「で、そこでマリーは泣き崩れる。
君は戻って彼女を立たせて
無言で抱きしめキス。
君からマリーに最後のセリフ
で、マリーが最後のセリフ。
それに返事せずにクラは走り去る」
うんうんとうなずくマリー。
「ざっとこんな感じだけど、そこはライヴさ。
よほどの事がない限り、止めないからね。
2人の大好きなロングテイクでいくよ。
とにかく最後まで突っ走ってみて、いい?」
リックは2人の肩をたたく。
「クラ、暴走はダメよ、ほどほどにね」
ガミラが子犬に躾をするように言う。
日本語が分からないマリーには英語で伝えた。
それを隣で聞いていたリックがニヤリと笑う。
そう、彼は倉田の暴走を期待していたのだ。
「Action」
******
2人が待合室の椅子で座っている。
スマホで何度も時間を見るマリー。
「そろそろ行くよ」
「ねえ?ユージ(雄二)」
お!台本どおりだ!と思った矢先
マリーは急に倉田の上着を引っ張る。
思わず倉田は嫌な顔をして抵抗する。
「なんだ?離せよ」
スタッフが全員フリーズ。
いきなりのアドリブだ。
スーツの引っ張り合いなんか
台本のどこにも書いてない。
「引っ張るなよっ」
「どうしてっ?最後でしょ?」
その瞬間美しいブラウンの瞳が切り替わる。
恐ろしい眼光、夜叉のまなざしだ。
「なんで逃げるの?」
返事もせず、倉田はさらに後ずさり。
マリーは上着の裾を掴んで離さない。
台本を無視した2人はにらみ合う。
周りのエキストラまでが驚いてフリーズ。
空港のその場所だけが凍りついた。
「どうして避けるの?ねえ?クラっ!」
マリーは倉田の名前を叫んでしまった。
*******
「!!!」
みんなが一斉にリックを見た。
「いい、このまま、止めるな!」
誰も予想できないやりとり。
リックはこれを待っていた。
「止めるな。これは演技じゃない。
今、2人は本当に別れるんだ」
*******
無言で見つめるマリーは
まるでサムライの果たし合いの様だった。
「君を避けた事は一度もなかったよ」
「じゃあ、なぜ?どうして」
花がしおれるように引っ張る手が緩む。
倉田を見つめる瞳が天使に切り替わる。
「オレは君を幸せにできない
なのに君を愛したことが怖いんだよ」
マリーは次のセリフが出ない。
涙がぼろぼろこぼれる。
おまけに鼻水まで出ている。
それを見た倉田はあわててズボンをまさぐり
ポケットからハンカチを差し出す。
もちろんこんなシーンはない。
ハンカチを受け取り顔を覆った瞬間
ガバと顔を上げるマリー。
「ちょっと?あなたの匂いがする」
ウァーン。
さらに号泣するマリー。
その声にスタッフの女性がもらい泣きしだした。
「マリー君はもう自由じゃないか?」
「そうよ、だからクラ…一緒に」
そう言いながら抱きつこうと近づく。
倉田はまた後ずさりし、マリーから離れる。
「 Pourquoi tu ne me tiens pas ?」
声を荒げるマリー。
また夜叉の瞳で胸に殴りかかる。
ドンという拳の音とともに優しく肩を掴まれた。
ハッと見開いた目は夜叉から天使に
セリフも英語になる。
「ねえ?どうして抱いて・・・」
「……」
「抱きしめたら、オレは戻れなくなる」
「戻らないで」
「君を幸せにできるならそうするさ」
「信じてくれないと思うけど」
「マリー、愛してるよ」
そういうと倉田はサっと向きを変えた。
まるで逃げるように足早にマリーから離れる。
マリーは最後のセリフが出ない。
そのまま床に泣き崩れ、肩を震わせる。
倉田はデパーチャゲートを通過
その瞬間、振り向きマリーを追う。
号泣するマリーを見て顔がゆがむ。
搭乗券を取り忘れ、クルーに差し出される。
受け取った瞬間こらえきれずに滂沱の涙。
そのまま彼は機内に消えていった。
********
「Cut !」
リックがガッツポーズで怒鳴る。
「Amazing!」
皆がうなずく。
「Finish !」
「わ~」
リックの声と同時に米側スタッフが
デパーチャーゲートから戻る
倉田へ向かって走り出した。
「なんだ?どうしたんだよ?」
「クラ!Great」
「Amazing クラ!」
台本を放り投げスタッフが抱き着く。
泣きながらしがみつくメイクの女の子。
カメラマンのカートが倉田の手を高々とあげる。
「おい、待ってくれってなんだよ急に?」
揉みくちゃにされ日本語で叫ぶ。
空港にいたエキストラの役者までが
その輪に加わる。
まるでリング上のボクサーに
ファンが群がるようだ。
「なによ~あれ?
まるでロッキーじゃない?」
ガミラが泣きながら
隣に居たエリックに肩パンチをした。
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