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1 私が悪いんです‥
3 仕事に活かせない理由
しおりを挟む岸苗子は、ぽっちゃりした顔立ちをしていた。
骨がしっかりしている体つきをしているので、顔だけぽっちゃりで体は筋肉質なのかもしれない。
上品でおとなしそうな雰囲気を持っている。
気が強いタイプが好きな真守の好みとは少し外れるものの、静かにモテそうな女性だった。
岸の契約書類作成が終わったため、真守はカウンターキッチンの裏に下がって相談内容をモニターする。
御神は、レンタルオフィスとして開放されている普通のマンションの一室をカウンセリングルームとして使っていた。
いろいろな部屋がある中、今日の部屋は1LDKタイプとなる。
リビングでセッションをする二人を邪魔しないよう気配を消す。
メモを取っても音が出ないように、タブレットに手書きメモアプリを起動した。
何かあったらすぐに出ることができるように待機する。
「資格を取るのに、いざ仕事にしようとしたらできないんです」
岸は、悩みを語りはじめた。
二人は、備え付けのソファに直角になるような配置で座っている。
この部屋のソファは御神のお気に入りだ。
高級で座り心地がいい。
岸はできない理由をたくさん上げていく。
勇気が出ない、動けない、なんか違う気がする、私には無理。
真守の位置だと、御神は背中しか見えず、岸の横顔が見える。
岸は、一心不乱に語り続けている。
相談と言うより、言葉のマシンガンを打っているようだった。
「資格取るときはどんな風に選ぶの?」
岸は資格を勉強するときのパターンを語りだした。
「SNSの広告とかで流れるものとか、資格専門学校のパンフレットで選びます。
学ぶ前が一番ワクワクして、これを知ればたくさん稼げて今を変えられるって思うんです」
「ワクワクできるものを選ぶことは大事よね」
「でも、学んでいくうちに、私には無理だってことが見えてくるんです」
「理解が追い付かないの?」
「理解はできるけど、知識を使って仕事をしている姿を思い浮かべると私ごときがそんなことしていいのかっていう気分になるんです」
「ふさわしくないって思ってしまうのね」
「そうなんです。それでもなんとかテストは合格できるんです。
ただ、その資格を使える仕事を選ぼうとすると頭痛がしてきて、自分が入れる会社なんてないから別の資格を取ろうって思うんです」
出しつくしたのか沈黙が落ちる。
「私が言う言葉を繰り返してみて」
御神が言葉を紡いで、岸がそれに続く。
私、人に合わせてばかりなんです。
私、人に合わせてばかりなんです。
私が選ぶことは全て間違っているんです。
私が選ぶことは全て間違っているんです。
だから、正解を教えて欲しいんです。
だから、正解を教えて欲しいんです。
それなのに私に合う資格を誰も教えてくれないんです。
それなのに私に合う資格を誰も教えてくれないんです。
自分に合う資格が分からないから不安なんです。
自分に合う資格が分からないから不安なんです。
「どんな気持ち?」
「その通りだなって思います。
ずっと間違ってるっていう思いを捨てることができないんです」
「じゃあ、どんな資格なら正解なのかな」
「適性を見ることができる人が教えてくれた職種の資格が正解だと思います」
「やりたい仕事はある?職種でもいいし、働き方でもいいから譲れないこと」
「とくにありません」
「じゃあ、これがあなたに合ってるよって言われたら、嫌な仕事でもやるのかな」
「適性があるってことは、やってるうちに楽しくなると思うからやると思います」
「水商売でも?」
「私にはそんなキラキラした世界は向いてないから言われることはありません」
ふーん、と御神が意味深に相槌を打つ。
真守は、「アリでしょ」と思わず声にならない声を上げていた。
ぼそぼそとした声は二人には届かなかったようで安心する。
キャバクラなどへ行ったことはないが、バーへ行ったことはある。
岸がもしバーテンダーとして働いていたら通いそうな友人の顔がいつくか思い浮かんだ。
「アリだって言ったらやるのかな…もっとエロい世界でも」
とつぶやいた途端に、妄想がいろいろ広がりそうだったので慌てて追い払った。
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