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────スピカを、知っている。
今、エンディミオンが求めて止まない存在。
その一端を掴もうと必死になっている最中で、まだ何もわかったことがないと焦りばかりが肥大している矢先に、それを知っていると幼い聖国の代表が言った。
「スピカを、お探しなのでしょう」
「待て……、待ってくれっ」
グラーノが重ねた言葉に、エンディミオンは思わず声を荒げた。
確かに、探している。
ルクレツィアを助けるためならば、何を置いても見つけ出さなくてはならない。
スピカは、ステラフィッサ王国でもお伽噺のような存在だ。
王家や十二貴族の主だった者の間では、ヴィジネー家に確かに存在する特別な能力者だと認識されているが、誰がそうかを知る者はほとんどない。
リオーネ家のラガロの星のように分かりやすい印を持たず、その類稀な能力だけでそうと知ることができる、スピカの星。
先の星護りの巫女、エリサの日記の一冊目の最後に記されていたのは、ヴィジネー家の始祖、エレットラ・ヴィジネーが人々を癒す力を星から授かったことだ。
元々、治療師としてバルダッサーレ一世の行軍に随伴していた女性だ。戦乱の時代、多くの死を看取った女性が選んだ力としては、これ以上ないほどに妥当だろう。
しかしそのせいか、ヴィジネー家の系譜に連なる者は怪我や外傷を癒す力を今でも多少なりと持っているものの、病に関しては特別な「星」が必要だった。
その事実と伝説が入り混じり、ヴィジネー家には昔、病を治せるものがたくさん居たかのように語られることがあるが、病を治せるのはスピカを持った者だけだ。
スピカを持つ者は、一千年の歴史の中に点在している。
その力を大いに振るい、死の病の者を助けたという逸話を作りながら、彼らは短い人生を駆け抜けるように夭折してしまう。
そんな記録を国中で見つけることができるが、共通しているのは、すべてが終わってからこの話が世に出ていることだ。
誰も自らの力を公には明かさずに、死後、その業績を称えられている。
ルクレツィアの病が分かってから、エンディミオンはもちろんまずはじめにヴィジネー侯爵を尋ねた。
スピカの所在を当主なら知っているものと思ったし、これまでのスピカの在り方から他言できない制約があるのだとしても、なんとしても教えてもらわなければならないという気概で。
ガラッシア公爵家からも、ヴィジネー家の娘としてのエレオノーラからも、王家からも、それぞれ侯爵家にスピカについて情報を求めた。
けれど、芳しい話はひとつもなかった。
隠しているのではなく、本当に「知らない」、あるいは「存在しない」が侯爵家の答えだった。
スピカは近年、直系には現れず、最後にその存在が確認されたのは百年以上前、ヴィジネー領内でもない地方の教会に暮らす孤児の中に顕現した。
不治の病と言われた肺病に罹った、育ての親である教会の司教にその力を使い、まるで自身の命と引き換えに力を使ったかのようにすぐに儚くなっている。
公のその話と、ヴィジネー侯爵家の持つ情報に、何の差異もなかった。
ヴィジネー侯爵とてルクレツィアの伯父だ。
妹の娘にかける情もある。
けれどヴィジネー家の当主にすらスピカの話は入って来ていない。
ルクレツィアの祖父にあたる先代の侯爵でも、それは同じだった。
侯爵家を疑いようもなく、エンディミオンも、そして公爵夫妻も絶望した。
それでもエンディミオンは血眼になってスピカが現れる兆しはなかった、今どこかにそれは現れていないかを探っていた。
それを、当主でさえ知らないものを、聖国の人間が知っているとはどういうことか。
いくらルクレツィアが倒れた場面に居合わせたからと言って、吐いて良い嘘でもなければ、幼い子どもの都合の良い妄想話に迂闊に飛び込むほど、エンディミオンも我を失ってはいない。
「貴公は、自分が何を言っているかわかっているのか」
厳しい態度にならざるを得ないエンディミオンに、グラーノは静かな眼差しで首肯した。
「おそらく、今のステラフィッサの中では、誰よりも知っておりましょう」
「貴公が、何故?」
「生まれた国の、生まれた家の力のこと、知らぬわけもありますまい」
落ち着いた声音のまま、グラーノはエンディミオンに言い聞かせるようにゆっくりと告げた。
「儂は先々代のヴィジネー侯爵、ルクレツィアは、曾孫になりますかな」
幼い口が語る言葉に、エンディミオンは咄嗟に返すことができなかった。
何をバカなことをと笑い飛ばすにも、叱り飛ばすにも、呆れてしまったというよりは、グラーノの纏う空気に飲まれてしまっていたというべきか。
言葉のないエンディミオンに、グラーノは決して幼くない自嘲の笑みを混ぜて、自らの姿を顧た。
「この形では、とても説得力に欠けることは承知で申し上げております。
これも星の呪い……、儂が、星の力を正しく使わなかった代償とでも思ってくだされ」
疲れ切った老人の横顔を覗かせながら、グラーノは語った。
その姿の秘密を。
今、エンディミオンが求めて止まない存在。
その一端を掴もうと必死になっている最中で、まだ何もわかったことがないと焦りばかりが肥大している矢先に、それを知っていると幼い聖国の代表が言った。
「スピカを、お探しなのでしょう」
「待て……、待ってくれっ」
グラーノが重ねた言葉に、エンディミオンは思わず声を荒げた。
確かに、探している。
ルクレツィアを助けるためならば、何を置いても見つけ出さなくてはならない。
スピカは、ステラフィッサ王国でもお伽噺のような存在だ。
王家や十二貴族の主だった者の間では、ヴィジネー家に確かに存在する特別な能力者だと認識されているが、誰がそうかを知る者はほとんどない。
リオーネ家のラガロの星のように分かりやすい印を持たず、その類稀な能力だけでそうと知ることができる、スピカの星。
先の星護りの巫女、エリサの日記の一冊目の最後に記されていたのは、ヴィジネー家の始祖、エレットラ・ヴィジネーが人々を癒す力を星から授かったことだ。
元々、治療師としてバルダッサーレ一世の行軍に随伴していた女性だ。戦乱の時代、多くの死を看取った女性が選んだ力としては、これ以上ないほどに妥当だろう。
しかしそのせいか、ヴィジネー家の系譜に連なる者は怪我や外傷を癒す力を今でも多少なりと持っているものの、病に関しては特別な「星」が必要だった。
その事実と伝説が入り混じり、ヴィジネー家には昔、病を治せるものがたくさん居たかのように語られることがあるが、病を治せるのはスピカを持った者だけだ。
スピカを持つ者は、一千年の歴史の中に点在している。
その力を大いに振るい、死の病の者を助けたという逸話を作りながら、彼らは短い人生を駆け抜けるように夭折してしまう。
そんな記録を国中で見つけることができるが、共通しているのは、すべてが終わってからこの話が世に出ていることだ。
誰も自らの力を公には明かさずに、死後、その業績を称えられている。
ルクレツィアの病が分かってから、エンディミオンはもちろんまずはじめにヴィジネー侯爵を尋ねた。
スピカの所在を当主なら知っているものと思ったし、これまでのスピカの在り方から他言できない制約があるのだとしても、なんとしても教えてもらわなければならないという気概で。
ガラッシア公爵家からも、ヴィジネー家の娘としてのエレオノーラからも、王家からも、それぞれ侯爵家にスピカについて情報を求めた。
けれど、芳しい話はひとつもなかった。
隠しているのではなく、本当に「知らない」、あるいは「存在しない」が侯爵家の答えだった。
スピカは近年、直系には現れず、最後にその存在が確認されたのは百年以上前、ヴィジネー領内でもない地方の教会に暮らす孤児の中に顕現した。
不治の病と言われた肺病に罹った、育ての親である教会の司教にその力を使い、まるで自身の命と引き換えに力を使ったかのようにすぐに儚くなっている。
公のその話と、ヴィジネー侯爵家の持つ情報に、何の差異もなかった。
ヴィジネー侯爵とてルクレツィアの伯父だ。
妹の娘にかける情もある。
けれどヴィジネー家の当主にすらスピカの話は入って来ていない。
ルクレツィアの祖父にあたる先代の侯爵でも、それは同じだった。
侯爵家を疑いようもなく、エンディミオンも、そして公爵夫妻も絶望した。
それでもエンディミオンは血眼になってスピカが現れる兆しはなかった、今どこかにそれは現れていないかを探っていた。
それを、当主でさえ知らないものを、聖国の人間が知っているとはどういうことか。
いくらルクレツィアが倒れた場面に居合わせたからと言って、吐いて良い嘘でもなければ、幼い子どもの都合の良い妄想話に迂闊に飛び込むほど、エンディミオンも我を失ってはいない。
「貴公は、自分が何を言っているかわかっているのか」
厳しい態度にならざるを得ないエンディミオンに、グラーノは静かな眼差しで首肯した。
「おそらく、今のステラフィッサの中では、誰よりも知っておりましょう」
「貴公が、何故?」
「生まれた国の、生まれた家の力のこと、知らぬわけもありますまい」
落ち着いた声音のまま、グラーノはエンディミオンに言い聞かせるようにゆっくりと告げた。
「儂は先々代のヴィジネー侯爵、ルクレツィアは、曾孫になりますかな」
幼い口が語る言葉に、エンディミオンは咄嗟に返すことができなかった。
何をバカなことをと笑い飛ばすにも、叱り飛ばすにも、呆れてしまったというよりは、グラーノの纏う空気に飲まれてしまっていたというべきか。
言葉のないエンディミオンに、グラーノは決して幼くない自嘲の笑みを混ぜて、自らの姿を顧た。
「この形では、とても説得力に欠けることは承知で申し上げております。
これも星の呪い……、儂が、星の力を正しく使わなかった代償とでも思ってくだされ」
疲れ切った老人の横顔を覗かせながら、グラーノは語った。
その姿の秘密を。
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