かのやばら園の魔法使い ~弊社の魔女見習いは契約社員採用となります~

ぼんた

文字の大きさ
14 / 44

第14話 ハナ婆の昔話 ―後編―

しおりを挟む
 マリーが働き始めてから数か月経ったある日。マリーはばら園で手入れ作業をしていた。そこへケンジが現れる。

「マリー、どうだい? だいぶ仕事を覚えてきたようだね」

 ケンジはマリーに話しかける。

「うん! ケンジのおかげよ、ありがとう! 今まで何をするのも魔法を使ってばかりだったから、物を手で運んだり、土や砂を触ったりとか全然してこなくて、毎日いろんなことが初体験で面白いわ!」

 マリーは感謝の気持ちをケンジに伝えた。

「そうかい。それは充実していて、素晴らしい日々を過ごしているね」

 ケンジは優しい表情でそう言った。

「うん! 毎日楽しい! いろんなことを教えてくれるケンジがいて、私は幸せよ!」

 マリーは笑顔でそう言った。

「僕も君の笑顔を傍で見られて、とっても幸せだよ」

 ケンジはマリーの頭をなでながらそう言った。

 それから、マリーもだんだんと仕事を覚えていき、リーダーの立場を任されるようになった。ばら園の管理業務の難しさに、何度も失敗し何度もくじけながらも、その度にケンジと協力して苦難を乗り越えていった。マリーにとって、ばら園での生活がいつの間にか当たり前のものになっていた。





 マリーが働き始めて三年ほど経ったある日。マリーはいつも通り薔薇の手入れをしていた。すると、従業員の一人が大きな声でマリーを呼ぶ。

「マリーさん! 早く来てください!」

 マリーは急いでその従業員に駆け寄った。

「ど、どうしたの?」

 マリーは慌てながら言った。

「ケンジさんが外出先で急に倒れて、救急車で運ばれたそうです!」

 従業員が慌ててそう言うと、マリーは一瞬でマントを身につけ、ほうきに乗って猛スピードでケンジが運ばれた病院に向かった。



 病院に到着したマリーは、ケンジのいる病室を見つけてすぐに中へ入った。

 しかし、ケンジはすでに亡くなっている状態だった。

「う、嘘よね……。な、なんで……。なんで、こんなことにー!」

 マリーは泣きながらケンジに抱きついた。

「この方は、生まれつき体が弱く病気がちでして、主治医の私からも無理に働かない方が良いと言っていましたが、彼はそれでも働くことをやめませんでした。……きっと、彼にとっては働くことが人生そのものだったんでしょう」

 病院の医師がマリーにそう語った。

「……っぐ。……うわぁああああーん!」

 マリーはケンジを抱きしめながら大声で泣き続けた。





 それから数日経ったある日、ケンジの机の引き出しから遺書が見つかった。

 『最愛なるマリーへ。マリー、元気かい? 薔薇達も元気にしてるかい? 実は、僕は体が弱くてね。いつどうなるかもわからないから、こうやって手紙に残そうと思う。

 君と初めて会った日、君を見て薔薇の中から妖精が現れたのかと思って、すごく驚いたよ。

 あれから、たくさん遊んだし、いろんなところにも行ったね。真冬に君のほうきの後ろに乗って、空を飛んだ時のことをよく思い出すよ。まさか、あんな高さから滑り落ちてしまって、よく生きていたなーっていつも思う。いやー、なかなか死なないもんだなと思ったよ。でもこの手紙に書くような内容ではないね。あはは。

 ばら園で一生懸命働く君はとても美しく、皆からも愛されて、たまにドジもするけど、僕にとっては本当に自慢の妻だよ。恥ずかしい話だけど、そんな大切な妻に残せる財産をそんなに持っていないのが、本当に申し訳ない。

 だけど、それでもあるとしたら、このばら園を君の好きなようにしていい。売ってお金にしてもいいし、本当に自由にしていい。相談所も君の好きにしていい、魔法で困ってる人を助ける仕事もいいなって君は言っていたから、それを実現してみてもいいと思う。何より君らしく生きていってほしい。

 最後に、僕の人生の中でマリーと過ごした日々が一番幸せでした。ありがとう。ケンジより』

 マリーは遺書を読みながら再び涙が溢れ出した。



 それから、マリーは決心する。

「私、この会社を継ぐわ! ケンジが一生懸命作ってきた会社を私が一生かけて守るわ! だって、この会社が、私のやりたいことそのものだから!」

 このばら園に来るまでは、自分のやりたいことがわからなかった。でも、今では心の底からやりたいと思えるものがある。人生つまらないと嘆いていた自分を救ってくれたのは、他の誰でもなくケンジだったんだと気づいた。だから、とにかくやりたいことをやる、ケンジの分までやる。それが今の自分なのだと――





 ヒカリはハナを見つめていた。ハナはずっと同じ遠くの薔薇を見ているようだ。

「そして、ROSE株式会社、二代目社長・マリーが誕生したという話さ」

 ハナはそう言った。

「そんなことがあったんですか……」

 ヒカリはしんみりと言う。

「それで、お嬢ちゃんの付けている髪留めは、ケンジさんがマリーちゃんにあげたものだったんだよ」

 ハナはヒカリを見て、髪留めを指差しながら言った。

「えっ! そんな大切なものだったんですか!」

 ヒカリはものすごく驚いた。

「マリーちゃんは、ずっと大事そうに身につけていたから、急に付けなくなったのを見て、すごく驚いたがよ」

 ハナは髪留めを見ながらそう言った。

「そうなんだ。そんな大切なものを私が持ってていいのかな……」

 ヒカリはそうつぶやく。

「きっと、マリーちゃんがお嬢ちゃんをそれだけ大事に思っているからなのかと、婆ちゃんは思うよ」

 ハナは少し笑みを浮かべながら言ったが、ヒカリはまだ納得できていなかった。

「さてと、あんまり休んでいたらカスミちゃんに怒られちゃうから、続きをとっととやっていこうかね」

 ハナは立ち上がり歩き出す。

「は、はい!」

 ヒカリは慌てて帽子をかぶり、髪留めを付けながらハナに駆け寄った。その後、引き続きばら園の手伝いをしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました

久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。 魔法が使えるようになった人類。 侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。 カクヨム公開中。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

処理中です...