かのやばら園の魔法使い ~弊社の魔女見習いは契約社員採用となります~

ぼんた

文字の大きさ
19 / 44

第19話 魔女見習いは上の空 ―前編―

しおりを挟む
 だんだん冬が近づいてきた魔女試験前日の朝。ヒカリはいつも通り会社に出社していた。

「…………」

 ヒカリは受付の席に座り、目の前の書類を折ったり広げたりを、意味もなく繰り返していた。

「こんにちは。お願いしたいことがありまして。ってあれ? お二方とも意識は大丈夫ですかね?」

 ヒカリはそんなお爺さんの声が聞こえたような気もしたが、目の前の書類を折ったり広げたりを、意味もなく繰り返した。

「あー! すいません! 私が受付を担当しますので、ちょっとだけお待ちください!」

 ベルの声が聞こえた。その後、エドに連れられて会議室に移動することになった。すると、シホもリンに連れられて会議室に入ってきたようだ。

「何ボーっとしてんだよ!」

 エドはそう言った。

「おい! シホ!」

 リンもシホに言った。

「…………ふふふ」

 ヒカリとシホは同じタイミングで不気味に笑った。

「あー! もう! なんなんだよ!」

 エドが慌てていた。

「緊張し過ぎて、心配で、全然眠れなかったし……」

 ヒカリはつぶやいた。

「今回で魔女試験最後だからって考えだしたら、緊張がやばくて……」

 シホもつぶやいた。

「……はぁ」

 ヒカリとシホは同時にため息を吐く。

「ヒカリとシホはもう帰りなさい!」

 マリーの声が聞こえた。

「ちょっと待ってください! ただ二人とも緊張してるだけで……」

 リンはマリーにそう言った。

「ここは会社よ。やる気がない人はいらないわ」

 マリーは冷たい口調で言う。

「マリー! そんな言い方ねえだろ!」

 エドは怒っているようだ。

「……有休も余ってるんだし、たまには気分転換しておいで。エドもリンも一緒に」

 マリーは落ち着いた口調で言う。

「お、俺たちも?」

 エドとリンは驚く。その後、エドとリンはヒカリとシホの顔を見て、黙ってしまう。

「……じゃ、今日の俺たち四人は有休な。俺らの仕事の引継ぎをお願いしてくる」

 エドはマリーにそう言って会議室から出ようと扉を開けると、事務所にいた社員一同が流れ込んできた。

「お前ら、何してんだよ?」

 エドが怒った表情を浮かべながら、流れ込んできた社員一同に問いかける。

「別にこれは盗み聞きとかじゃねえ! たまたま、扉の温度を耳で測ってただけだ!」

 ケンタは急な言い訳が下手なのだろう。

「俺は、扉の匂いをかいでただけだ!」

 ライアンに至っては言い訳が少し気持ち悪い。リンはこの状況を見て笑っていた。

「ってことだから、あんたらの仕事の方は大丈夫だ。……はい。欠勤が四人と」

 マリーはそう言いながら会議室を出ていこうとした。

「有休だよ!」

 エドがマリーにツッコミを入れると、社員みんなで大笑いしていた。



 その後、有休扱いになった四人は寮に帰ってきた。

「ごめんなさい。私がボーっとしてたから」

 シホはエドとリンに謝った。

「私もごめんなさい」

 ヒカリもシホに合わせてエドとリンに謝った。

「いいんだ。とにかく気持ちを落ち着かせることも大切だからな!」

 リンはヒカリとシホに優しい口調で言う。

「二人ともやりたいことがあればやってこいよ! せっかくの有休なんだし!」

 エドは笑顔で元気よく言った。

「それなら…………リンさんと一緒にたくさん話がしたいです」

 シホはリンを見つめてそう言った。そのシホの雰囲気を目の当たりにしたヒカリは、シホとリンの関係性が恋人同士に見えてしまい、戸惑ってしまった。エドも同じ気持ちだったのだろう驚いていた。

「わかった。どこで話そうか?」

 リンは落ち着いた口調でシホに問いかける。

「いつもの修行場所でお願いします」

 シホも落ち着いた口調でそう言った。

「そういうことだから、じゃ!」

「ヒカリちゃん、またあとでね」

 リンとシホはそう言うとローブ姿になり、ほうきにまたがって飛んでいった。

「……えっと。…………そう! ヒカリがしたいことをした方がいいと思う! 別に俺と一緒じゃなくてもいいし! 大事なのは、ヒカリが少しでもリラックスできることだと思うからさ!」

 エドは笑顔でそう言った。

「エド。……そしたら、一緒に散歩しよう。なんか、今は特に何かをやりたいわけじゃないからさ。……だから、散歩くらいでいい」

 ヒカリは緊張した状態で一人になりたくなかった。

「そうか。よし! そうしよう!」

 エドは笑顔で言った。



 ヒカリはエドと一緒に海岸沿いを歩き始めた。少し肌寒い潮風を受けながら歩くのも気持ちがいい。こうやって目的もなく過ごす時間というのは、すごく久しぶりな気がする。最近はずっと魔女修行ばかりしていたからなのだろう。すると、心の中にほんの少しだけゆとりが生まれた気がして足取りが軽くなった。後ろを振り返るとエドがいる。心配してわざわざ仕事も休んでくれて、散歩にも付き合ってくれる。本当に優しい人だ。

「そういえばさ、こうやってゆっくり話すことってなかったよね」

 ヒカリは後ろ向きに歩きながら話しかける。

「そうだな」

 エドは少し大きめの石を前に蹴り飛ばしながら歩いていた。

「ねぇ、エドって兄弟とかいるの?」

 ヒカリはエドに問いかける。

「兄弟はいない。……っていうか、親もいねえからな」

 エドは落ち着いた口調でそう言った。

「そうだったんだ。ごめん、嫌な質問しちゃったね」

 ヒカリは申し訳ない気持ちになり足を止めた。エドはそのまま歩いてヒカリを追い越した。

「いやいや、別に実の家族はいなくても、ROSEの奴らが家族だと思ってるし、全く気にしてねえぞ!」

 エドが元気そうな口調でそう言ったので、ヒカリはエドの方を向いた。

「……そっか!」

 ヒカリはエドの笑顔を見てほっと安心した。ヒカリはエドの近くまで急いで駆け寄る。

「それで! なんでROSEに入ったの?」

 ヒカリはエドの傍に来るなり質問をした。

「なんだよ! すっごい聞いてくるじゃねえか!」

 エドは驚いた様子だった。

「せっかくだもん! エドのこと知りたいなーって思うからさ!」

 ヒカリはエドの隣を歩き背伸びをしながら、エドの顔を見てそう言う。

「まぁ、別にいいけど。……なんだっけ? ROSEに入った理由か? ……えっと、元々はずっと一人で生きてきて、まぁ、生きるためなら悪いことも多少やってきた。別に人殺しとかじゃねえぞ! 毎日喰うものすらままならないほど、地獄みたいな場所で生きてきたから、盗みなんて当たり前だった。そりゃ、こんな孤児を養ってくれるほど裕福な人は、あの世界にはいなかったし、俺自身、誰かの助けなんていらないって思ってた。……でもある時、そんな俺を拾ってくれたのがマリーだったんだ。………………まぁ、だから、ROSEに入ったっていうよりも、拾われたって感じかな」

 エドは空を見ながらそう言った。

「そうだったんだ」

 ヒカリは、エドにもROSEに来るまで複雑な事情があったのだと察した。

「でも俺はさ、ROSEは最高の会社だと思ってる! ROSEの社員は、一人一人がやりたいことをやるために会社に来てて、俺も最初はやりたいことなんてなかったけど、今はやりたいことをやるために会社に来てる! やっぱり、本当にやりたいことって、最高に気持ちがいいことなんだよな!」

 エドは幸せそうな笑顔を浮かべながらそう言った。

「そっか。やりたいことは、気持ちがいいこと……」

 ヒカリはエドの話に相づちをうった後、聞き覚えのある言葉が気になっていた。

「そうだ! やりたいことは気持ちがいいこと! まぁ、マリーが教えてくれたんだけどな!」

 エドが笑顔でそう言った後、ヒカリはハナの昔話の中でマリーの亡き夫であるケンジが『やりたいことは気持ちがいいこと』と、マリーに伝えた話を思い出した。マリーもエドも、きっとその言葉に救われたのだろう。ヒカリはいつか自分にもその言葉が必要になる時が来るかもしれないと思い、優しく胸の中にしまった。

「でも、もうこれは俺の言葉でもある!」

 エドは自信満々な表情でそう言った。

「ふふふ! エドはいつだって皆に力をくれるね!」

 ヒカリは笑いながらそう言った。

「だろっ?」

 エドは笑っていた。

「話してくれてありがとう」

 ヒカリは落ち着いた口調でそう言う。

「あぁ、当然だ!」

 エドは元気にそう返した。

「じゃ、次は…………」

 ヒカリはそう言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました

久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。 魔法が使えるようになった人類。 侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。 カクヨム公開中。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

処理中です...