かのやばら園の魔法使い ~弊社の魔女見習いは契約社員採用となります~

ぼんた

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第36話 石の意思

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 最後の修行を開始してから半年が経過したある日。ヒカリはいつも通り河原で修行をしていた。

「はっ! …………。はっ! …………。ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぅーー! …………。はぁー、ダメだ! 動かない!」

 ヒカリは未だに小石を動かせないでいた。

「もう半年か…………。あー! 悔しい! でも絶対諦めない!」

 ヒカリは少しぼやいた後、半年も経っていることに悔しさが溢れ出してきたが、その悔しさを力に変換しようと力強く発言した。

「よし! もう一回やるぞ! …………。はっ! ……っぐぐぐ!」

 ヒカリは気合いを入れるために、自分の頬を軽く叩いた後、再び修行を始めた。だけど、小石は動かない。

「何してるの?」
「うわっ!」

 ヒカリは驚いた。急に耳元で声が聞こえてきたからだ。

「こんにちは」

 シェリーが何事もなかったかのように笑顔で挨拶してきた。

「シェリーさん! 驚かさないでくださいよ!」

 ヒカリは動揺しながら言う。

「ふふ。ごめんなさい。こんなところで何してるのかなーって気になって」

 シェリーは笑みを浮かべながら言った。

「修行ですよ!」

 ヒカリは元気よく言う。

「修行?」

 シェリーは首を傾げた。

「石を動かす魔法の修行です!」

 ヒカリはシェリーに修行の内容を説明した。

「石を『動かす』ね……」

 シェリーは落ち着いた口調で言う。

「でも、なかなか動かなくて……。なんとなく魔力が伝わる感じは、わかるような気がしてきているんですけど……」

 ヒカリは腕を組んで片手を口に当て、考えている仕草をしながら言った。

「そう……。その石……」

 シェリーは静かにそう言った。

「え?」

 ヒカリはシェリーが何か発言したことに反応して聞き返した。

「その石は、ヒカリちゃんのことをどう思っているのかな?」

 シェリーはヒカリの顔を見ながら言った。

「……え? どうって。……なんとも思ってないんじゃないんですか? 石だし……」

 ヒカリは素直に思っていることを言った。

「ふふふ。……動いてほしい物の気持ちがわからないなら、動いてくれないんじゃない?」

 シェリーは笑顔で言った。

「動いてほしい物の気持ち……」

 ヒカリは小石を見つめながら言う。

「どんな物にも意思はある。その石だって動きたくない気持ちなら、動いてくれないのは当然。動いてほしい物が、ヒカリちゃんに協力したくなるような呼びかけが大事なの。……ただの物で、命が宿っていないと考えているのなら、その物はあなたを信じたりはしない。故に動かない」

 シェリーは真剣な表情でそう言った。ヒカリはシェリーの言っていることが、なんとなく理解できた気がした。

「それじゃ、今日はこの辺で。またね」

 シェリーはそう言うと去っていった。

「動かしたい物の気持ちか……」

 ヒカリはいつも修行で使っている小石を手に取った。

「この石にも気持ちがあって、命が宿っている。…………。あ、よく見たらこの石、結構汚れてるな。…………ずっと、私の修行に付き合ってくれた大事な石だもんね」

 ヒカリは小石が汚れていることに気づいた。そして、ヒカリは立ち上がり川の方へ行き、小石を川の水で綺麗に洗ってあげた。

「よし! 綺麗になったな! ……え?」

 ヒカリは綺麗になった小石を眺めた。

 するとその時、ヒカリは驚いた。

「今、この石、笑った……」

 ヒカリはなんとなくだが小石が笑ったように感じた。

 それからヒカリは、小石をいつも置いている岩の上に戻して修行を再開する。ヒカリは目を閉じ、両手を小石にかざして魔力を放つ。

「……ずっと私の修行に付き合ってくれた。それなのに、私はこの石の気持ちすら考えてこなかった。……そっか。私に足りなかったものが分かったよ」

 ヒカリは目を開けた。

「ほら」

 ヒカリはそう言って、笑みを浮かべながら宙に浮いている小石を眺めた。そして、五秒ほど宙に浮かせた小石を両手で優しくすくう。

「ふふ。ありがとう」

 ヒカリは小石に顔を寄せて話しかけた。

「そうだよね。無理矢理に動かそうとするのは嫌だよね。今までごめんね。………………。うん。許してくれてありがとう」

 ヒカリは小石から『いいよ、気にしないで』と返事して貰えたのがわかったので、和解できてよかったと安心した。

「ヒカリ! 今、石浮いてなかったか?」

 エドが慌てた様子で、ヒカリに駆け寄りながら問いかけた。

「うん。動いてもらえた」

 ヒカリは優しい口調でそう言った。

「動いてもらえた? ……はは! 優しいなヒカリは!」

 エドは少し笑いながら言った。

「そう?」

 ヒカリは首を傾げた。

「とにかく、よく頑張った!」

 エドは嬉しそうに笑っていた。

「うん。エドもありがとう」

 ヒカリはエドを見ながら笑顔でそう言った。

 こうして、魔女修行は無事に小石を動かす段階までクリアできた。どんな物にも意思はあり、命が宿っている。だから、どんな物でも分かり合えるはずだ。この小石と会話できた途端、急にいろいろな声が聞こえるようになってきた。それは、ずっと目を背けて耳を塞いでいたから認識できなかった声だ。すると、目の前の世界が今までよりもっと美しく見え始めたのだった。
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