夫婦で異世界放浪記

片桐 零

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第1章

第18話 村に着いた

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「…ん?お前ら見かけねぇ顔だな?子供だけでこんな時間にどうした?親はどこだい?」

素通り出来るかとも思って、何食わぬ顔で近づいてみたが、案の定と言うべきか、村の入り口で鈍く光る槍を持ち、上半身を覆う革鎧を身につけた男に呼び止められてしまった。
ま、これは想定通りなのだが…

やはり日本人は幼く見えるのか?
それとも、この世界でも15歳はまだ子供なんだろうか?

(ナビさん、この世界でも15歳は子供なのか?)

『回答提示。国によって差はありますが、アルバート王国では15歳で成人として認められます。』

良かった、成人前だとこの後生活するのが大変になるかも知れないからね。

それに少し不安だった言語についても、特に違和感なく理解できているので安心した。
言葉が通じないと、本当に不便だからな。

ま、幼く見えたのは仕方ないと思おう。
そう、決して俺の身長が低いからじゃない。
相手がデカイだけなんだ…

少しナビさんと喋り、物思いにふけってしまっていると、門番の男を無視している形になってしまった。
門番の男には、それが不審に見えたのだろう。

「…い…おい!聞いてるのか?お前ら…まさか!いや…俺の問いに答えろ!親はどこだ!」

門番の男は、持っていた槍の穂先をこちらに向けて突き出すように構えると、少しだけ声を荒げて聞いてきた。

とりあえず、このまま黙っていても良いことはないので、事前に考えていたシナリオAで対応することにしよう。

「…失礼な人ですね。私達は子供ではありません。どちらも15歳、成人しています。」

こちらの年齢を告げると、門番の男は少しだけ狼狽えたが、まだ構えを解くことはない。

「…え?その見た目で…まじか…な、なら、どうしてすぐに答えなかった!」

「それは、あなたが子供と言ったので、自分達ではなく別の方かと思ってしまっただけですよ。他意はありません。」

「それは…そうか…そうだよな、おっとすまねぇ、こんな辺境の村に、商会の定期便以外で人が訪ねてくることなんて滅多にねぇからよ。つい緊張しちまってな、この通り、許してほしい。」

門番の男は、槍を下ろすと、こちらに頭を下げ、丁寧に謝ってくれた。

この人は多分いい人なんだろう。

「いえ、まぁ実際15になったばかりですし、子供扱いされたくらいで怒りませんよ。あまり気にしないで下さい。」

「そ、そうかい?いや、成人したばっかりにしては、随分しっかりしゃべりやが…いや、これは…」

門番の男は、バツが悪そうにしているが、こちらの思惑通りに動いてくれそうなので、俺としては好都合だった。

「大丈夫ですよ、さっきも言いましたが気にしないでください。」

「…すまん、あんたと喋ってると、見た目はうちの子供ガキと同じくらいなのに、死んだ先代様みたいに思えてくるから妙な気分になっちまう…本当に15かい?」

あんたの家の子供はいくつだよ…
ま、本当は60を過ぎているから、違和感はあるだろうね。

「先日15になったばかりですよ。それより、何か聞くのでは?」

「おっとそうだった、えー…ここはハボック村だ。お前さん達はどこから来たんだい?」

よし、門番さんの口調が柔らかくなった。警戒心も少し薄れた気がするし、これでしゃべりやすくなるかな。

「つい先日まで、ミハレット子爵の治めるチサという小さな漁村に住んでいました。小さな村だったので、こちらの方は知らないかもしれませんが…」

ここ、領主の名前も村の名前も、本当にあるものなのがポイントだ。
架空の村だと、どこでバレて問題になるか分からないからね。

事前にナビさんから聞いた情報を基にして、いくつかの要素をクリアする所を選んだつもりだ。

選出基準は3つ。場所と名前、そして大きさだ。

まず、この村からあまり近い場所だと、村の中に知ってる人がいるかも知れないし、その場合は情報に齟齬が出てしまうと不要な疑いを持たれてしまう。
「随分遠いところから…」とか、「どこだよそこ…」とか、誰も知らないか、名前だけは分かる程度の距離にある村であれば、その村出身の人に会うこともないだろうし、誤魔化す回数を極力減らすことができる。

次に名前、これは領主の名前と村の名前に、他にも聞き間違えるくらいに似たような名前があるところを選んだ。
今回なら、領主は「メフアレト伯爵」ってのがいるみたいだし、「チャシャ村」ってのもある。
これなら、何かあっても相手の聞き間違いでシラを切れる。
これはあくまで保険だね。

最後に大きさ、これは出来るだけ規模の小さい村が望ましい。
小さな村なら、その分田舎だろうから、ものを知らなくても仕方ないと思ってもらえるだろ?
まぁ、これはフレーバー程度だけどね。

以上の条件に合う村を、ナビさんに協力してもらって探して、今回のミハリット子爵領、チサ村出身にすることにした。

完全な嘘の情報にすると、何かの拍子にバレるかもしれないから頑張って探しましたとも…
実際に探してくれたのも、情報をくれたのもナビさんだから、今回もお世話になりっぱなしだか…

「…チサ?…聞いたことねぇな…それで、そのチサの村のあんたが、どうしてうちみたいな辺境の村に?」

知らないみたいだけど、警戒はされてないっぽい…?
第一条件クリアでいいかな。

「それが…乗っていた乗合馬車が魔物モンスターの襲撃を受けまして…」

「本当かい!そりゃどこでだい!」

「い、いえ、もう魔物モンスターは討伐されています。お恥ずかしい話ですが、私達はすぐに逃げ出したため、戦闘自体は見ていないのですが、ほとぼりが冷めた頃に馬車のいた所に戻ると、襲って来た魔物モンスターの首だけが転がっていました。
その頃には、乗ってきた馬車も他の乗客達もどこにも見えなくなっていて、道沿いを馬車を追って歩いたのですが、今日まで追いつくことも出来ず…」

「そうだったのかい…そりゃあ大変だったな…」

あぶね…なんとか誤魔化せた。
近くで人を襲う魔物モンスターが出たなら、そりゃ警戒するわな…反省しよう。
だが、門番の男は、こちらに同情的になってくれているようだから第ニ条件クリア…

「幸いなことに、それからは一度も魔物モンスターに襲われることはなかったのですが、この辺りの地理に疎いもので…」

「道に迷って偶然この村にたどり着いた、って訳かい?」

最後まで言わなくても、こちらの想定通りの答えに考えが及んでくれている…
第三条件クリア…
ここまでくれば、後はこの村のリソース次第だな。

「そうです。なので、少しの間で構いません、滞在させてはもらえないでしょうか?」

門番の男は、少し悩むような仕草を見せたものの、大きく頷いてくれた。

「分かった。妙な格好をしているからどんなやつかと思ったが、あんた、悪い人間じゃなさそうだからな。」

そう言って、村の門を押し開いてくれる。

「改めて、ようこそハボック村へ。」

門番の男は、こちらに手を差し出してくる。
この世界でも握手の習慣はあるらしい。
その手を軽く握り返すと、思い出したように門番の男が口を開く。

「そういや、まだ名前を聞いてなかったな、俺はレクレット。お前さん達は?」

「名前ですか?私は…「ぼんです。」ちょ!優子マメ何を!」

「ボンとマメか、変わった名前だが覚えやすくていい。わっはっは。」

「いやちが…「オレはしろまです。」「私はでっかちゃんです。」おいお前ら!」

「ん?今何か…」

「何でもないです!気にしないでください!」

「そうか?…っと、俺が案内してやれりゃいいんだが、ここを離れるわけにいかないんでな。
ここをまっすぐ進むと、ノノーキルって奴が雑貨屋をやってる店がある。困ったらそこで色々聞くといい。
ま、何もない村だがゆっくりしていってくれ。」

「ありがとうこざいます。それじゃ。」

門番のレクレットに見送られながら、優子マメの背中を押して村へと入ることになった。

最後の最後でグダグダだよ!


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作者です。
レクレットさんは5人家族です。

感想その他、お時間あれば是非。
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