日常系小説

王太白

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 狭い室内に機械音が響き渡る。機械音に混じって、「そこだ、行け!」などの男の声も聞こえる。男の名は、坂草征一。高校一年生だが、クラス内では浮いており、そのためか、勉強にも身が入らず、鬱々とした日々を過ごしていた。そんな征一がのめりこんだのが、オンラインのRPGだ。ゲームであると同時に、チャットで多くの人と匿名で会話できるので、ゲームも友達もできて、征一には一石二鳥だった。
 そもそも、征一は相手の気持ちを推し量るのが極度に苦手で、それゆえにオンラインゲームにのめりこんでいた。どんなダメ人間でも、ゲームの中では、無敵の主人公になれるからだ。そんな折、eスポーツの大会があることを、征一はインターネットで目にした。
「えっ? マジか? 俺みたいなゲーム廃人でも、eスポーツの大会に出られるのか。でも、種目がRPGじゃないのが残念だな。麻雀とか将棋とかクイズとかか。でも、クイズ系は苦手だしな。将棋も強いとは言えないし、麻雀の大会にでも応募してみるか」
 征一は麻雀の大会にエントリーしようとしたが、募集要項をよく読んでみると、五人一組のチーム戦だ。征一は、張り詰めていた肩の力が抜けてしまった。
「何てこった。俺一人じゃ、エントリーもできないのか……」
 そのまま、ホームページを閉じようとすると、画面の片隅にチーム構成員募集の欄が見えた。そこには、「麻雀チーム構成員募集。男女年齢問わず。詳しくは以下のアドレスまで」と書かれてあるではないか。征一は信じていいものかと勘ぐったが、他にチーム構成員を集めるあてもないので、とりあえずアップされているメールアドレスまでメールを送信してみる。
 その日はそれで終わったが、三日後に返信がきた。
『応募してくれて、マジ感謝! チーム構成員の五人目が、どうしても集まらなくて困ってたの。あ、自己紹介がまだだったね。あたしは高校二年生の女の子なんだ。ハンドルネームは、ミーシャ。まだ本名と学校名を教えるのは抵抗あるから、それで勘弁してね。それじゃ、これ以降の連絡は、グループLINEで話そう。LINEアドレスは……』
 ミーシャからの連絡は、そこで終わっていた。征一はグループLINEに登録し、以後、「斉王都」というハンドルネームで活動していくことになる。
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