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もちろん、叔父であり強力な庇護者であるハイラッラー侯爵の死は、ベオグラード王国との前線にいるアドナン元帥の元にももたらされた。アドナン元帥は最初、叔父が討ち取られたことが信じられないようで、「誤報だろう」と言っていたが、やがて帷幕の中に入り、幕僚たちと今後の身の振り方について考えねばならなくなった。
「叔父上が討ち取られた以上、わがままなウダーイ殿下をかばえる者は、カイゼル帝国にはいない。ここは、クチャーイの勧告する通り、撤退すべきではないのか?」
「元帥が危惧されておられる通り、宮廷内では今までハイラッラー侯爵が最大の勢力を誇っていましたが、討ち取られたことで、それまで勢力の弱かったファルコ伯爵を中心にクチャーイ派が急速に結束してきているようです。ウダーイ殿下を擁立して一強総弱の状態で権力を集中しようとしていたハイラッラー侯爵が亡くなれば、ウダーイ派は強力な味方を失い、勢力が逆転するのも当然でしょう」
アドナン元帥と幕僚たちは、唇をかみしめた。ここ数日、ベオグラード王国軍を撃破し続け、敵将のルイズやボルフガング元国王を討ち取れるかどうかというところまで進撃していたのだ。それを、宮廷内のクーデターのせいで、台無しにして良いのか。しかし、ウダーイの勢力が弱まった今となっては、前線で戦功をあげても徒労に帰す怖れがある。
「……仕方ない。全軍に撤退の命令をくだせ……」
こうして、カイゼル帝国軍はベオグラード王国から撤退していった。
その頃、シャンデリアがつるされ、赤いカーペットのしかれた、カイゼル帝国の宮廷では、クチャーイによる論功行賞が行われていた。皇帝は老齢で病気がちのため、最近の政務はほとんどハイラッラー侯爵とウダーイが仕切っていたのだが、ウダーイは別荘の焼失の責任を問われ、かばう者も少なかったので、どこかに雲隠れしていたからだ。
「……今回の一番の功労者は、ユウコ、エイコ、それにレーム子爵家だ。もっとも、レーム子爵は魔術師と戦って名誉の戦死を遂げたので、ゾフィーを次期レーム子爵に任命しようと思う。世間では、貴族の世継ぎは男子でなければならぬと考えている者も多いが、僕はそうは思わない。これからは女子でも胆力があれば、貴族の爵位を継がせるのに何の不都合も無いからな」
とたんに、周囲に居並ぶ文武百官から、「いや、クチャーイ殿下、それはやりすぎでは?」などと騒ぐ声も聞こえたが、クチャーイはそれを手で制した。もっとも、子爵位を継げと言われた当のゾフィーまでもが当惑して、「お言葉ですが、クチャーイ殿下、わたくしめには父の代わりなど無理です」と言ったが、クチャーイは冷静に言った。
「皆の困惑は充分に理解している。だが僕は、もっと西にある共和国の制度を、参考にして話しているんだ。共和国では完全に男女同権で、女子が官吏になることもあれば、軍人になることもあるし、女子の選挙権まである。僕は、いずれはカイゼル帝国を、共和国のような近代国家に変えたいんだ」
これには、文武百官も納得せざるを得なかった。
「次いで、侍女であるユウコとエイコだが、ユウコはベオグラード駐在大使に任命する。僕は兄上と違って、ベオグラード王国に何の野心も持っていないからな。それを示すためには、ベオグラード王国の大天使であるユウコが適任だ。エイコは、共和国駐在大使に任命する。共和国の先進的な制度について、実地でしっかり学んできてほしい」
これを聞いたとき、有子はクチャーイのことを見直してしまった。
(こいつ、ハイラッラー侯爵やウダーイに粛清されないために、凡俗なやつのふりをしていたのではないだろうか。本当は、それなりに政治にも明るいやつなのかもしれない)
他にも、ファルコ伯爵を宰相に任命したりと、幾人かの人事が行われ、論功行賞は幕を閉じた。
それから半月後、有子は大使として、再びベオグラード王国の地を踏んだ。その頃には、ボルフガング元国王は復位しており、トログリムは王位を離れて謹慎中だった。
「ユウコよ、実によくやってくれた。第三軍に潜入中に行方不明になったときは焦ったが、まさか、敵国の侯爵まで倒すとはな。期待以上の成果だったぞ」
ボルフガング国王もルイズも喜んで有子を迎えた。
「それで、トログリムに従っていた魔術師だが、カイゼル帝国軍が撤退すると同時に、トログリムの元から去ったそうじゃ。理由は定かではないが、おそらく彼らはハイラッラー侯爵の庇護下にあったのだろう。何代にもわたって庇護下にあったから、今回のハイラッラー侯爵の死によって、反対派の報復を恐れ、逃亡したのじゃろうな。ただし、負けた者はどこにも居場所が無くなるから、大変じゃ」
ボルフガング国王は寂しそうに言った。戦争で負けら者が虐げられるのを見てきたからこそ、負けた者の気持ちがわかるのかもしれない。
その夜は、ルイズや村人も参加して、酒宴が開かれた。有子は村人と歓談したが、思いっきり酔って、翌日は寝込んでしまった。
後で聞いた話だが、トログリムは王宮から逃亡し、いまだに捕まっていないそうだ。再起をはかるつもりなのか、それとも単にウダーイの元へ行くつもりなのかもわからない。ともあれ、有子はベオグラード駐在大使として、今後は両国の平和のために貢献していくことになる。
「叔父上が討ち取られた以上、わがままなウダーイ殿下をかばえる者は、カイゼル帝国にはいない。ここは、クチャーイの勧告する通り、撤退すべきではないのか?」
「元帥が危惧されておられる通り、宮廷内では今までハイラッラー侯爵が最大の勢力を誇っていましたが、討ち取られたことで、それまで勢力の弱かったファルコ伯爵を中心にクチャーイ派が急速に結束してきているようです。ウダーイ殿下を擁立して一強総弱の状態で権力を集中しようとしていたハイラッラー侯爵が亡くなれば、ウダーイ派は強力な味方を失い、勢力が逆転するのも当然でしょう」
アドナン元帥と幕僚たちは、唇をかみしめた。ここ数日、ベオグラード王国軍を撃破し続け、敵将のルイズやボルフガング元国王を討ち取れるかどうかというところまで進撃していたのだ。それを、宮廷内のクーデターのせいで、台無しにして良いのか。しかし、ウダーイの勢力が弱まった今となっては、前線で戦功をあげても徒労に帰す怖れがある。
「……仕方ない。全軍に撤退の命令をくだせ……」
こうして、カイゼル帝国軍はベオグラード王国から撤退していった。
その頃、シャンデリアがつるされ、赤いカーペットのしかれた、カイゼル帝国の宮廷では、クチャーイによる論功行賞が行われていた。皇帝は老齢で病気がちのため、最近の政務はほとんどハイラッラー侯爵とウダーイが仕切っていたのだが、ウダーイは別荘の焼失の責任を問われ、かばう者も少なかったので、どこかに雲隠れしていたからだ。
「……今回の一番の功労者は、ユウコ、エイコ、それにレーム子爵家だ。もっとも、レーム子爵は魔術師と戦って名誉の戦死を遂げたので、ゾフィーを次期レーム子爵に任命しようと思う。世間では、貴族の世継ぎは男子でなければならぬと考えている者も多いが、僕はそうは思わない。これからは女子でも胆力があれば、貴族の爵位を継がせるのに何の不都合も無いからな」
とたんに、周囲に居並ぶ文武百官から、「いや、クチャーイ殿下、それはやりすぎでは?」などと騒ぐ声も聞こえたが、クチャーイはそれを手で制した。もっとも、子爵位を継げと言われた当のゾフィーまでもが当惑して、「お言葉ですが、クチャーイ殿下、わたくしめには父の代わりなど無理です」と言ったが、クチャーイは冷静に言った。
「皆の困惑は充分に理解している。だが僕は、もっと西にある共和国の制度を、参考にして話しているんだ。共和国では完全に男女同権で、女子が官吏になることもあれば、軍人になることもあるし、女子の選挙権まである。僕は、いずれはカイゼル帝国を、共和国のような近代国家に変えたいんだ」
これには、文武百官も納得せざるを得なかった。
「次いで、侍女であるユウコとエイコだが、ユウコはベオグラード駐在大使に任命する。僕は兄上と違って、ベオグラード王国に何の野心も持っていないからな。それを示すためには、ベオグラード王国の大天使であるユウコが適任だ。エイコは、共和国駐在大使に任命する。共和国の先進的な制度について、実地でしっかり学んできてほしい」
これを聞いたとき、有子はクチャーイのことを見直してしまった。
(こいつ、ハイラッラー侯爵やウダーイに粛清されないために、凡俗なやつのふりをしていたのではないだろうか。本当は、それなりに政治にも明るいやつなのかもしれない)
他にも、ファルコ伯爵を宰相に任命したりと、幾人かの人事が行われ、論功行賞は幕を閉じた。
それから半月後、有子は大使として、再びベオグラード王国の地を踏んだ。その頃には、ボルフガング元国王は復位しており、トログリムは王位を離れて謹慎中だった。
「ユウコよ、実によくやってくれた。第三軍に潜入中に行方不明になったときは焦ったが、まさか、敵国の侯爵まで倒すとはな。期待以上の成果だったぞ」
ボルフガング国王もルイズも喜んで有子を迎えた。
「それで、トログリムに従っていた魔術師だが、カイゼル帝国軍が撤退すると同時に、トログリムの元から去ったそうじゃ。理由は定かではないが、おそらく彼らはハイラッラー侯爵の庇護下にあったのだろう。何代にもわたって庇護下にあったから、今回のハイラッラー侯爵の死によって、反対派の報復を恐れ、逃亡したのじゃろうな。ただし、負けた者はどこにも居場所が無くなるから、大変じゃ」
ボルフガング国王は寂しそうに言った。戦争で負けら者が虐げられるのを見てきたからこそ、負けた者の気持ちがわかるのかもしれない。
その夜は、ルイズや村人も参加して、酒宴が開かれた。有子は村人と歓談したが、思いっきり酔って、翌日は寝込んでしまった。
後で聞いた話だが、トログリムは王宮から逃亡し、いまだに捕まっていないそうだ。再起をはかるつもりなのか、それとも単にウダーイの元へ行くつもりなのかもわからない。ともあれ、有子はベオグラード駐在大使として、今後は両国の平和のために貢献していくことになる。
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