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最終章 彼女の会話はとめどない
納得すれども割り切れず 2
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あれから5日後。
ようやく両手の「ぐるぐる」から解放されている。
性別での気遣いが必要とされる場合以外、せっせとフィッツに世話を焼かれていた。
その間中、キャスは複雑な心境に苛まれたのだ。
(そりゃあ、フィッツは私を姫様としか思ってないからいいけどさ。私のほうは、そうもいかなかったんだからね……)
基本、フィッツは優しい。
ほかの人に対してはともかく「カサンドラ」に対してだけは優しかった。
出会った時からそうだったし、今もそれは変わらない。
だが、その優しさは、キャスの望んだ「優しさ」とは違う。
「だからさ、私も銃くらい撃てるようになっておきたいわけだよ」
「………………」
「私のことはフィッツが守ってくれるとしても、誰かが危険な目に合うことだってあるじゃん。そういう時に、ね、こう……」
「………………………………」
「あのねえ、私だけ実際的な攻撃手段がないのが嫌だって言ってんの! みんな、魔力攻撃とかできるのにさあ。私には、あの力しかないんだよ?」
「……私は邪魔ですか?」
「違う。フィッツがいなくても、力を使えば、ファニが集まってくる。どこででも使える力じゃないってこと。即戦力にならないのが嫌だって話!」
現在、キャスは、フィッツを説得中。
フィッツの存在意義を守りつつ、納得させられる理由を探していた。
思った通り、フィッツは、いい顔をしなかったのだ。
とはいえ、キャスとしても諦めるわけにはいかない。
「フィッツがいらないとか、そういうことじゃなくてさ。自分に力がないっていうのは、気が引けるもんなんだよ。自分だけ、なんにもできないって気分になる。要は、私の気持ちの問題」
「銃を扱えるようになれば、姫様の精神衛生に良い影響を与えられますか?」
「気は楽になるね」
フィッツの表情が、わずかに変化したような気がした。
ここで、もうひと押し。
「私は、魔力攻撃なんてできない。みんなは、銃なんて扱えない。てことは、私に銃の扱いを教えられるのは、フィッツだけなんだよ?」
「それはそうですね」
「銃なんて使えなくていいって、フィッツが思うのはわかる。でも、さっき言ったように、これは私の気持ちの問題だから。現実に使う状況にはならないとしても、使えるようになったってだけで、気の持ちようが違う」
「わかりました。姫様の精神衛生上の問題であれば、いたしかたありません」
いたしかたないことなのか、とは思った。
が、説得できたのだから、肯とする。
ひとまず約束を取りつけられたことに、ホッとした。
あとは、内心を悟られないよう厳重に注意しなければならない。
(ティニカのフィッツはなぁ。すぐ、邪魔だの無能だのって言い出すから)
常にフィッツ自身に非がある、と思い込んでいる節がある。
けして「カサンドラ」を責めたり、非難したりはしない。
それが、よけいに困るのだ。
彼女自身は、自分に非があると自覚していることもある。
なので、それすらも肯定されると、後ろめたくなってしまう。
(でも、通じないんだよね……私が悪いんだって言っても……)
フィッツは、それを認めてくれない。
姫様は悪くない、と繰り返す。
甘やかされるのは嬉しい反面、怖いことだ。
それを、キャスは知っている。
ザイードの厳しさに、心がヒリヒリするような気分を味わった。
とはいえ、それがなければ、今ここに自分はいなかったかもしれない。
時には、厳しく接してもらうことも必要なのだ。
(きっかけがないと、人間って、なかなか自分を顧みられないもんなんだよなぁ。反省って、口で言うのは簡単だけど、度合いというかさ。どこまで骨身に堪えてるかってのは、あるんだよね)
皇宮にいた頃から、反省したり後悔したりしてきた。
とはいえ、それは「つもり」だったに過ぎないと感じる。
フィッツを喪うまで、キャスは「死」の大きさを実感していなかった。
取り返しがつかない、というのが、どういうことかもわかっていなかった。
けれど、わかってからでは遅過ぎた。
フィッツは生き返ったけれど、繰り返し起きる「奇跡」なんてない。
自分の前で正座しているフィッツを、じっと見つめる。
寝る前に、キャスが、フィッツを呼んだのだ。
日頃は、あまり2人きりにならないように気をつけている。
ノノマやザイード、シュザが、同席していることが多い。
自分の感情を抑制し、距離を取るためだった。
「あ、でもさ、冬場だから外で練習するのは難しいかな」
「問題ありません。準備は、私にお任せください」
「じゃあ、任せる。ただし、適当な感じじゃ駄目だよ? 仮に、仮にね! 敵襲を受けた時に……」
キャスは、ちょっとだけ言い淀む。
自分が、どの程度まで望んでいるのか、できるのかが判然としなかった。
フィッツを守るためなら相手を殺せるのか、ということだ。
考えてはみたが、自信がない。
直前になって躊躇うくらいなら、目標は別にすべきだろう。
「相手を戦闘不能、まぁ、動けなくするとか攻撃できなくさせるとか、その程度はできるようになっておきたい」
「わかりました。高い目標とはなりますが、訓練内容を考えておきます」
「ん? それって目標としては高いの?」
「特定の場所を狙わずに撃てば、当たらないのはもとより、意図せず殺すことにもなりかねません。戦闘不能にすることだけを目的とするのであればピンポイントで狙う必要があるのですよ」
言われて初めて、その難しさに気づいた。
殺さないで動きを封じるためには、銃の腕が良くなければならないのだ。
「腕や大腿であっても、動脈を損傷すれば死に至りますからね」
「そ、そっか……だったら、胴体とかのほうが……」
「誤って心臓を撃ち抜く可能性があります」
「だよね。うん、言ってて、そんな気がした」
元の世界では、実物の銃を目にする機会はなかった。
この世界でも、人が使うのを見たことはあったが、自分で手にしたことはない。
当てられればいい、という意識は捨てたほうがよさそうだ。
テレビドラマや小説のイメージと、実践とは違う。
殺そうと思っていなくても、結果的に殺すことになるかもしれない。
「姫様がジュポナから持ち帰られた物で、なるべく精度を高くし、スコープをつけられれば、短期間での訓練でも目的を達成できます」
「ジュポナから持って帰った物の中に、銃なんてなかったと思うけど」
フィッツは、録画装置を分割して、通信と映像の装置を造っていた。
なので、なにかを壊すことで銃を造れてもおかしくはない。
だが、それにより限られた資源を消費するのは申し訳ないと感じる。
戦える力がほしいというのも、結局、自分の我儘に過ぎないのだ。
「いえ、すべて確認しましたが、銃の部品が揃っていました。持ち出す際、監視に引っ掛からないよう分解しておいたのでしょう」
そう言えば、なにに使うのか、まったく分からない物があったのを思い出す。
かなり小さく細かかったので、銃の部品だとは気づかなかった。
説明を訊く前に逃げださなければならない状況でもあったので、具体的になにが詰め込まれていたのかは知らなかったのだ。
「では、明日にでもアヴィオさんに頼んでおきます」
「アヴィオに? なにを頼むの?」
「銃弾の精製です」
「え……?」
「コルコの東の端は大きな岩山になっているのですが、そこは鉄が採れるのです。そもそもコルコは炎を扱う魔物ですしね」
フィッツは、当然のように言っている。
が、キャスは話が大きくなってきたことに焦りを感じた。
なにやら、とても自分が浅はかだったと思い始める。
(でも、私には、ほかに手段もないし……時間もないし……)
現状維持期間は2ヶ月。
その後の見通しはフィッツが推測しているが、確定されたものではない。
周りに迷惑をかけるのは心苦しいものの、できるだけのことはしたかった。
なにもできず動けなくなるよりは、マシだ。
1人で、なにもかもを背負うことはできないのだから、必要な時には誰かの手を借りたっていい。
アヴィオが、いい顔をしなさそうではあるが、それはともかく。
「えっと、それなら、そこは手分けしようよ。フィッツは、銃の組み立てしてて。私がアヴィオに銃弾を頼むからさ。ぇえーと、ほら、私から筋を通しておかないといけないじゃん?」
「……では、鋳型の図面を、お渡ししておきますね」
返事までに間があった。
気にはなるが、訊かないことにする。
フィッツとの距離感は大事なのだ。
どんなに知りたくても、フィッツの思いを、自分は知らないほうがいい。
知れば知っただけ、欲が出る。
すでに経験済みなので、自分の心にストップをかけた。
正直、苦しい。
だが、フィッツを危険に晒すことはできない。
いつ終わるかは不明だが、平和が訪れるまで、フィッツとの関係は「現状維持」が望ましいのだ。
『諦めるか、状況が変わるのを待つかは己で決められまする。私は、シュザとの根競べと思うておるのでござりまする』
ノノマの言葉が思い浮かんでいた。
長生きができれば、いずれ「その日」が来ると期待もかけられる。
3年後、5年後。
もしかすると、十年後になったとしても。
2人で笑い合える未来があると信じたかった。
だから、今は、根競べの時期だと我慢する。
「ファニは、寒さとか関係ないらしいから、その図面はファニに届けてもらって、私は、通信でアヴィオにお願いしてみるよ」
「姫様。姫様は……」
「なに?」
じいっと見つめられ、心臓が音を立てた。
薄金色の瞳に感情は見えない。
時々、キャスは錯覚しそうになるのだが、瞳の色で「違う」とわかる。
自分と恋をしていたフィッツではない、と。
「日々、成長されているのですね」
「こんな状況だからだよ。成長しなきゃやってけない」
「さすがヴェスキルの後継者であられます」
ずきりと胸が痛んだ。
本音では、フィッツに「ヴェスキル」扱いされることを望んではいない。
それでも、キャスは、小さく笑い「まぁね」と答える。
根競べなのだ、これは。
ようやく両手の「ぐるぐる」から解放されている。
性別での気遣いが必要とされる場合以外、せっせとフィッツに世話を焼かれていた。
その間中、キャスは複雑な心境に苛まれたのだ。
(そりゃあ、フィッツは私を姫様としか思ってないからいいけどさ。私のほうは、そうもいかなかったんだからね……)
基本、フィッツは優しい。
ほかの人に対してはともかく「カサンドラ」に対してだけは優しかった。
出会った時からそうだったし、今もそれは変わらない。
だが、その優しさは、キャスの望んだ「優しさ」とは違う。
「だからさ、私も銃くらい撃てるようになっておきたいわけだよ」
「………………」
「私のことはフィッツが守ってくれるとしても、誰かが危険な目に合うことだってあるじゃん。そういう時に、ね、こう……」
「………………………………」
「あのねえ、私だけ実際的な攻撃手段がないのが嫌だって言ってんの! みんな、魔力攻撃とかできるのにさあ。私には、あの力しかないんだよ?」
「……私は邪魔ですか?」
「違う。フィッツがいなくても、力を使えば、ファニが集まってくる。どこででも使える力じゃないってこと。即戦力にならないのが嫌だって話!」
現在、キャスは、フィッツを説得中。
フィッツの存在意義を守りつつ、納得させられる理由を探していた。
思った通り、フィッツは、いい顔をしなかったのだ。
とはいえ、キャスとしても諦めるわけにはいかない。
「フィッツがいらないとか、そういうことじゃなくてさ。自分に力がないっていうのは、気が引けるもんなんだよ。自分だけ、なんにもできないって気分になる。要は、私の気持ちの問題」
「銃を扱えるようになれば、姫様の精神衛生に良い影響を与えられますか?」
「気は楽になるね」
フィッツの表情が、わずかに変化したような気がした。
ここで、もうひと押し。
「私は、魔力攻撃なんてできない。みんなは、銃なんて扱えない。てことは、私に銃の扱いを教えられるのは、フィッツだけなんだよ?」
「それはそうですね」
「銃なんて使えなくていいって、フィッツが思うのはわかる。でも、さっき言ったように、これは私の気持ちの問題だから。現実に使う状況にはならないとしても、使えるようになったってだけで、気の持ちようが違う」
「わかりました。姫様の精神衛生上の問題であれば、いたしかたありません」
いたしかたないことなのか、とは思った。
が、説得できたのだから、肯とする。
ひとまず約束を取りつけられたことに、ホッとした。
あとは、内心を悟られないよう厳重に注意しなければならない。
(ティニカのフィッツはなぁ。すぐ、邪魔だの無能だのって言い出すから)
常にフィッツ自身に非がある、と思い込んでいる節がある。
けして「カサンドラ」を責めたり、非難したりはしない。
それが、よけいに困るのだ。
彼女自身は、自分に非があると自覚していることもある。
なので、それすらも肯定されると、後ろめたくなってしまう。
(でも、通じないんだよね……私が悪いんだって言っても……)
フィッツは、それを認めてくれない。
姫様は悪くない、と繰り返す。
甘やかされるのは嬉しい反面、怖いことだ。
それを、キャスは知っている。
ザイードの厳しさに、心がヒリヒリするような気分を味わった。
とはいえ、それがなければ、今ここに自分はいなかったかもしれない。
時には、厳しく接してもらうことも必要なのだ。
(きっかけがないと、人間って、なかなか自分を顧みられないもんなんだよなぁ。反省って、口で言うのは簡単だけど、度合いというかさ。どこまで骨身に堪えてるかってのは、あるんだよね)
皇宮にいた頃から、反省したり後悔したりしてきた。
とはいえ、それは「つもり」だったに過ぎないと感じる。
フィッツを喪うまで、キャスは「死」の大きさを実感していなかった。
取り返しがつかない、というのが、どういうことかもわかっていなかった。
けれど、わかってからでは遅過ぎた。
フィッツは生き返ったけれど、繰り返し起きる「奇跡」なんてない。
自分の前で正座しているフィッツを、じっと見つめる。
寝る前に、キャスが、フィッツを呼んだのだ。
日頃は、あまり2人きりにならないように気をつけている。
ノノマやザイード、シュザが、同席していることが多い。
自分の感情を抑制し、距離を取るためだった。
「あ、でもさ、冬場だから外で練習するのは難しいかな」
「問題ありません。準備は、私にお任せください」
「じゃあ、任せる。ただし、適当な感じじゃ駄目だよ? 仮に、仮にね! 敵襲を受けた時に……」
キャスは、ちょっとだけ言い淀む。
自分が、どの程度まで望んでいるのか、できるのかが判然としなかった。
フィッツを守るためなら相手を殺せるのか、ということだ。
考えてはみたが、自信がない。
直前になって躊躇うくらいなら、目標は別にすべきだろう。
「相手を戦闘不能、まぁ、動けなくするとか攻撃できなくさせるとか、その程度はできるようになっておきたい」
「わかりました。高い目標とはなりますが、訓練内容を考えておきます」
「ん? それって目標としては高いの?」
「特定の場所を狙わずに撃てば、当たらないのはもとより、意図せず殺すことにもなりかねません。戦闘不能にすることだけを目的とするのであればピンポイントで狙う必要があるのですよ」
言われて初めて、その難しさに気づいた。
殺さないで動きを封じるためには、銃の腕が良くなければならないのだ。
「腕や大腿であっても、動脈を損傷すれば死に至りますからね」
「そ、そっか……だったら、胴体とかのほうが……」
「誤って心臓を撃ち抜く可能性があります」
「だよね。うん、言ってて、そんな気がした」
元の世界では、実物の銃を目にする機会はなかった。
この世界でも、人が使うのを見たことはあったが、自分で手にしたことはない。
当てられればいい、という意識は捨てたほうがよさそうだ。
テレビドラマや小説のイメージと、実践とは違う。
殺そうと思っていなくても、結果的に殺すことになるかもしれない。
「姫様がジュポナから持ち帰られた物で、なるべく精度を高くし、スコープをつけられれば、短期間での訓練でも目的を達成できます」
「ジュポナから持って帰った物の中に、銃なんてなかったと思うけど」
フィッツは、録画装置を分割して、通信と映像の装置を造っていた。
なので、なにかを壊すことで銃を造れてもおかしくはない。
だが、それにより限られた資源を消費するのは申し訳ないと感じる。
戦える力がほしいというのも、結局、自分の我儘に過ぎないのだ。
「いえ、すべて確認しましたが、銃の部品が揃っていました。持ち出す際、監視に引っ掛からないよう分解しておいたのでしょう」
そう言えば、なにに使うのか、まったく分からない物があったのを思い出す。
かなり小さく細かかったので、銃の部品だとは気づかなかった。
説明を訊く前に逃げださなければならない状況でもあったので、具体的になにが詰め込まれていたのかは知らなかったのだ。
「では、明日にでもアヴィオさんに頼んでおきます」
「アヴィオに? なにを頼むの?」
「銃弾の精製です」
「え……?」
「コルコの東の端は大きな岩山になっているのですが、そこは鉄が採れるのです。そもそもコルコは炎を扱う魔物ですしね」
フィッツは、当然のように言っている。
が、キャスは話が大きくなってきたことに焦りを感じた。
なにやら、とても自分が浅はかだったと思い始める。
(でも、私には、ほかに手段もないし……時間もないし……)
現状維持期間は2ヶ月。
その後の見通しはフィッツが推測しているが、確定されたものではない。
周りに迷惑をかけるのは心苦しいものの、できるだけのことはしたかった。
なにもできず動けなくなるよりは、マシだ。
1人で、なにもかもを背負うことはできないのだから、必要な時には誰かの手を借りたっていい。
アヴィオが、いい顔をしなさそうではあるが、それはともかく。
「えっと、それなら、そこは手分けしようよ。フィッツは、銃の組み立てしてて。私がアヴィオに銃弾を頼むからさ。ぇえーと、ほら、私から筋を通しておかないといけないじゃん?」
「……では、鋳型の図面を、お渡ししておきますね」
返事までに間があった。
気にはなるが、訊かないことにする。
フィッツとの距離感は大事なのだ。
どんなに知りたくても、フィッツの思いを、自分は知らないほうがいい。
知れば知っただけ、欲が出る。
すでに経験済みなので、自分の心にストップをかけた。
正直、苦しい。
だが、フィッツを危険に晒すことはできない。
いつ終わるかは不明だが、平和が訪れるまで、フィッツとの関係は「現状維持」が望ましいのだ。
『諦めるか、状況が変わるのを待つかは己で決められまする。私は、シュザとの根競べと思うておるのでござりまする』
ノノマの言葉が思い浮かんでいた。
長生きができれば、いずれ「その日」が来ると期待もかけられる。
3年後、5年後。
もしかすると、十年後になったとしても。
2人で笑い合える未来があると信じたかった。
だから、今は、根競べの時期だと我慢する。
「ファニは、寒さとか関係ないらしいから、その図面はファニに届けてもらって、私は、通信でアヴィオにお願いしてみるよ」
「姫様。姫様は……」
「なに?」
じいっと見つめられ、心臓が音を立てた。
薄金色の瞳に感情は見えない。
時々、キャスは錯覚しそうになるのだが、瞳の色で「違う」とわかる。
自分と恋をしていたフィッツではない、と。
「日々、成長されているのですね」
「こんな状況だからだよ。成長しなきゃやってけない」
「さすがヴェスキルの後継者であられます」
ずきりと胸が痛んだ。
本音では、フィッツに「ヴェスキル」扱いされることを望んではいない。
それでも、キャスは、小さく笑い「まぁね」と答える。
根競べなのだ、これは。
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