3 / 30
海
3
しおりを挟む
その日、帰宅した時に先輩の靴を見つけた時に感じたのは明らかな嫌悪感だった。
僕の話を聞いて、僕のことを心配してくれたはずの先輩は今日も空を組み敷いて、空の事を啼かせ、空を慈しみ、空を貫き、空を愛するのだろう。
何で僕じゃ無いのだろう?
そんな風に思ってしまった自分に気付き居た堪れなくなってしまう。
今夜は父も母も帰ってこないと言われた事を思い出し、そうなると先輩は泊まっていくのかもしれないと思うと胃が痛い。
一晩中、隣の音を気にして過ごす事を考えると吐き気がした。
何処か行く場所がないかと考えながら音を立てないように部屋に向かい、音を立てないように着替える。
隣の部屋からは今日も2人が仲良くしている音が聞こえてくるせいで、僕の心はかえって落ち着いてしまう。どうせ僕の帰宅に気付かず盛っているのだろう。
音を立てて2人に認識されるのが嫌で、聞きたくない音を聞きながら2人の様子を伺い、外出の準備をする。
幸いな事に明日は休日だ。
両親が帰ってきた頃を見計らえば先輩も帰宅しているだろう。運が良ければ空も外出しているかもしれない。
細身のパンツにオーバーサイズのパーカー。男子高校生らしい格好をすれば年よりも幼いことがバレてしまうけれど、性別の分かりづらい格好をすれば女子大生くらいに見えるかもしれない。
高校生男子にしては低い背と華奢な身体は、女子大生だと思って見れば化粧っ気の無い女の子に見えないこともないかもしれない。
ジェンダーレスなショートカットのせいもあり制服でなければ性別不詳なのかもしれない。
色付きのリップでも買って塗っておけば間違える人も増えるかもしれない。
そんな事を考えながら財布とスマホ、あとは時間を潰すための本を数冊バックに入れて、音を立てないように外に出る。
本当は勉強をしたいけれど、高校生向けのテキストを開いていれば大学生だと言い訳する事はできない。
隣の部屋からは空の嬌声と先輩の声が聞こえ続けている。
空、空
洵さん、好き
空、可愛い
洵さん、もっと
2人が蠢く気配と肌と肌がぶつかり合う音、聞こえないはずの会話や水音まで聞こえてくる気がする。
唇を合わせ、舌を絡ませ。
先輩の舌は空の身体を這い、その身体を色付かせ、開いていく。
その舌で、その指で空を弄び、空を翻弄し、空を貫き、空を愛する。
何で僕じゃ無いんだろう?
何で僕は空じゃ無いんだろう?
何で僕は、何で海は存在しているのだろう?
考えても仕方のない事だけど、嫌でも考えてしまう。
今の時間は19時。
22時までは何とか居場所が確保できるけれど、それ以降は高校生とバレてしまうと居座ることが出来ない。
〈家出〉をした時に友人の家に泊めてもらうというのはドラマや漫画でよく見るけれど、僕にそんな友人はいないため途方に暮れる。
大学生のフリをして満喫やファミレスで時間を潰す事を考えたけれど、身分証明書の提示を求められたら即退去させられるだろう。
帰りたくない。
とりあえず時間が潰せる場所と思い、市街地にある公園に向かう。家の近くの公園は郊外であるせいか、遅い時間に1人でいると悪目立ちしそうなので敢えて避けた。
市街地にある公園は、それほど大きくないものの東屋があるため取り敢えずはそこに落ち着く。なるべくここで時間を潰して、どうしようもなくなったらファミレスかファストフードの店にでも移動しようと先の予定を立てる。
街灯の灯りを頼りにして小説を読んでいると僕が家にいない事に気づいたのか、空からメッセージや着信が繰り返される。
〈何処にいるの?〉
〈電話、出て〉
〈何で帰ってこないの?〉
〈制服、あるじゃん〉
〈電話〉
〈何してるの?〉
繰り返される連絡が鬱陶しくてスマホの音を消しておく。電池を消耗するからやめて欲しいと思うだけで、空の言葉に対して鬱陶しい以外に何の感情も思い浮かぶ事はない。
振動の理由が着信なのかメッセージなのかも、メッセージの内容も、全てに興味がない。
だけど、あまりに続く振動に辟易して電源を切る事にする。時間の確認のためにスマホを使っていたけれど仕方ない。
その時に見慣れない番号からの着信を確認したけれど、何度も繰り返される着信はきっと先輩の番号なのだろう。
まだ一緒にいるのだと、まだ帰る事はできないと確認してスマホの電源を落とす。
その時に確認した時間は20時を少し過ぎたところだったので、そろそろ何処かで夕食にしようと移動を始める。
ファミレスやファストフードのある通りまで来ると人も増え、1人で歩く僕も目立つ事なく街の景色の一つになれる気がしてホッとする。ファストフードよりもファミレスの方が長居できるだろうと目星をつけ、比較的空いている店舗を選び中に入る。
金曜の夜だからもっと混んでいるかと心配したけれど、遊ぶ場所が近くにないせいか比較的空いていた。
食欲はあまり無かったためドリンクバーとサラダを頼む。
眠くなるのを防ごうと温かいカフェオレを持ってきてバックの中から本を取り出し読書を始めるものの、スマホが使えれば時間も潰せるのに、と空と先輩のことを少し恨めしく思い、やっぱり本を持ってきて正解だったと自分を慰める。
時間はゆっくり過ぎていく。
サラダは少ししかないのになかなか食べ終える事はできず、カフェオレをチビチビと舐めるように飲む。
繁華街から外れたファミレスは人も少なく、居心地は悪くない。
このまま朝まで過ごすことができるかもしれない、そんな風に思っていたのに18歳以上には見てもらえなかったようだ。
「高校生は22時までとなっておりますので」
22時での退店を促され、仕方なく重い腰を上げる。下手に人の多い場所に行って補導されるのも困るので家に向かうしかないだろう。
先輩が帰宅している事を願いながら家に向かうけれど、足取りは重く、胃も痛くなってくる。
「帰りたくない」
口に出してしまうと明確になる自分の気持ち。普通に歩けば30分くらいの距離なのに、歩いても歩いても辿り着けない気がしてくる。
どこか身を寄せることのできる場所がないかと考えるけれど、どれだけ考えても行く場所が見つからない。友人はいないし、かつて友人だと思っていた人たちに下手にメッセージをしたらすぐに空に連絡が行くだろう。
父も母も末っ子だったせいで従兄弟は歳が離れているし、祖父母宅はこんな時間に行くには遠すぎる。そもそも、祖父母にしても両親の兄弟姉妹にしても、僕と空の扱いを見かねて注意するようになってからは疎遠になっているせいでこんな時に気軽に連絡はできないし、そもそも連絡先すら知らない。
「帰りたくない」
自分でも呆れるくらいに帰る事を拒否する心は同じ言葉を繰り返させる。
言ったところで行くところもない。
何も考えず時間を過ごすには僕は小心者すぎる。補導をされて将来の可能性を狭めたり、自分の行動を制限されるのはごめんだ。
「海」
そんな風にグズグズと歩いていた僕を誰かが呼んだ。
「何でスマホの電源切ってるの?」
声の主は空だった。
僕の姿を認め、何処かに連絡をする。
「切ってない。
電池切れ」
見つかってしまった以上帰るしか選択肢はないため僕の足はスピードを上げる。
「先輩も心配してるんだよ」
「何で?」
無視しようと思ったのについ聞いてしまった。僕を置き去りにして空と付き合った先輩が僕を心配する理由なんて無い。
「だって、出会うきっかけをくれたのは海だから」
その言葉に聞かなければよかったとため息しか出ない。
なるべく空と並ばないように足を速めたつもりでも身長の差があるせいか、全く差がつかない。そして、僕と並びながら言葉を続ける。
「何処にいたの?」
「誰かと会ってたの?」
「食事は?」
色々と聞かれるけれど答える気はない。
「海」
そして聞こえてきた空とは違う声。
「心配した」
駆け寄ってきてかけられた声に嫌悪しか感じない。どの口がその言葉を吐くのかと思うけれど、それを言葉に出す気はない。
2人して何をしていたのか、何処に行っていたのかと煩いけれど、僕の安心できる場所を奪い、見せつけるかのように身体を重ねている2人に言われたくない。
無言のまま帰宅して、無言のまま部屋に向かう。
「食事は?」
「お風呂は?」
しつこく聞いてくる空を無視して部屋に入る。
「おやすみ」
食事もいらないし、お風呂に入る気もないと拒絶するための精一杯の言葉。
僕の拒絶にこれ以上何を言っても無駄だと思ったのだろう。
時折聞こえてくる声で先輩がまだ隣の部屋にいることは分かったけれど、イヤホンで好きな音楽を流してその存在を無いものだと思い込む。
父や母が帰って来る前には先輩は帰るだろうと、念のために翌日は昼過ぎまで部屋から出ないようにした。
これが夏休み前の出来事。
この時のことを気にしてなのか、両親が遅くなる時に先輩が来ることがあっても、両親が帰宅できない時に先輩が来ることは無くなった。
先輩が泊まる事で、僕がまた同じ行動を起こすことが気に入らないのだろう。
見せつける相手がいないと張り合いがないのかもしれない。
空の嬌声を聞いても、先輩が空を慈しむ声を聞いても僕の心は全く動かない。
触れたいと思う気持ちも、触れられたいと思う気持ちも嫌悪の前に枯れ果ててしまい、何を見ても、何を聞いても僕の身体は反応することすら無くなってしまった。
空と先輩の関係はその後も続いているけれど、どうでも良かった。
僕の目には空も、先輩も、映ってはいるのだろうけど見えてはいない。
両親の前で兄を強要されれば空の事が見えるようになるのだけれど、一歩外に出てしまえばその存在は認識できない。
2人の存在が僕に見えないようになってからは無理に帰宅時間を遅らすことはやめた。
存在しない相手に気を使う必要は無いため調べたい事があれば図書室に行くし、そうでなければ帰宅して勉強の時間に使う。
図書室に行くと誰かに呼ばれたような気がして、それなのに顔を上げても誰もいないという事が何度かあったけれど、進級するとそんなことも無くなった。
「先輩と別れた」
久しぶりに聞いた空の言葉は僕にとってどうでもいい内容だったけれど、その日から外でも空の姿を見かけるようになったんだ。
僕の話を聞いて、僕のことを心配してくれたはずの先輩は今日も空を組み敷いて、空の事を啼かせ、空を慈しみ、空を貫き、空を愛するのだろう。
何で僕じゃ無いのだろう?
そんな風に思ってしまった自分に気付き居た堪れなくなってしまう。
今夜は父も母も帰ってこないと言われた事を思い出し、そうなると先輩は泊まっていくのかもしれないと思うと胃が痛い。
一晩中、隣の音を気にして過ごす事を考えると吐き気がした。
何処か行く場所がないかと考えながら音を立てないように部屋に向かい、音を立てないように着替える。
隣の部屋からは今日も2人が仲良くしている音が聞こえてくるせいで、僕の心はかえって落ち着いてしまう。どうせ僕の帰宅に気付かず盛っているのだろう。
音を立てて2人に認識されるのが嫌で、聞きたくない音を聞きながら2人の様子を伺い、外出の準備をする。
幸いな事に明日は休日だ。
両親が帰ってきた頃を見計らえば先輩も帰宅しているだろう。運が良ければ空も外出しているかもしれない。
細身のパンツにオーバーサイズのパーカー。男子高校生らしい格好をすれば年よりも幼いことがバレてしまうけれど、性別の分かりづらい格好をすれば女子大生くらいに見えるかもしれない。
高校生男子にしては低い背と華奢な身体は、女子大生だと思って見れば化粧っ気の無い女の子に見えないこともないかもしれない。
ジェンダーレスなショートカットのせいもあり制服でなければ性別不詳なのかもしれない。
色付きのリップでも買って塗っておけば間違える人も増えるかもしれない。
そんな事を考えながら財布とスマホ、あとは時間を潰すための本を数冊バックに入れて、音を立てないように外に出る。
本当は勉強をしたいけれど、高校生向けのテキストを開いていれば大学生だと言い訳する事はできない。
隣の部屋からは空の嬌声と先輩の声が聞こえ続けている。
空、空
洵さん、好き
空、可愛い
洵さん、もっと
2人が蠢く気配と肌と肌がぶつかり合う音、聞こえないはずの会話や水音まで聞こえてくる気がする。
唇を合わせ、舌を絡ませ。
先輩の舌は空の身体を這い、その身体を色付かせ、開いていく。
その舌で、その指で空を弄び、空を翻弄し、空を貫き、空を愛する。
何で僕じゃ無いんだろう?
何で僕は空じゃ無いんだろう?
何で僕は、何で海は存在しているのだろう?
考えても仕方のない事だけど、嫌でも考えてしまう。
今の時間は19時。
22時までは何とか居場所が確保できるけれど、それ以降は高校生とバレてしまうと居座ることが出来ない。
〈家出〉をした時に友人の家に泊めてもらうというのはドラマや漫画でよく見るけれど、僕にそんな友人はいないため途方に暮れる。
大学生のフリをして満喫やファミレスで時間を潰す事を考えたけれど、身分証明書の提示を求められたら即退去させられるだろう。
帰りたくない。
とりあえず時間が潰せる場所と思い、市街地にある公園に向かう。家の近くの公園は郊外であるせいか、遅い時間に1人でいると悪目立ちしそうなので敢えて避けた。
市街地にある公園は、それほど大きくないものの東屋があるため取り敢えずはそこに落ち着く。なるべくここで時間を潰して、どうしようもなくなったらファミレスかファストフードの店にでも移動しようと先の予定を立てる。
街灯の灯りを頼りにして小説を読んでいると僕が家にいない事に気づいたのか、空からメッセージや着信が繰り返される。
〈何処にいるの?〉
〈電話、出て〉
〈何で帰ってこないの?〉
〈制服、あるじゃん〉
〈電話〉
〈何してるの?〉
繰り返される連絡が鬱陶しくてスマホの音を消しておく。電池を消耗するからやめて欲しいと思うだけで、空の言葉に対して鬱陶しい以外に何の感情も思い浮かぶ事はない。
振動の理由が着信なのかメッセージなのかも、メッセージの内容も、全てに興味がない。
だけど、あまりに続く振動に辟易して電源を切る事にする。時間の確認のためにスマホを使っていたけれど仕方ない。
その時に見慣れない番号からの着信を確認したけれど、何度も繰り返される着信はきっと先輩の番号なのだろう。
まだ一緒にいるのだと、まだ帰る事はできないと確認してスマホの電源を落とす。
その時に確認した時間は20時を少し過ぎたところだったので、そろそろ何処かで夕食にしようと移動を始める。
ファミレスやファストフードのある通りまで来ると人も増え、1人で歩く僕も目立つ事なく街の景色の一つになれる気がしてホッとする。ファストフードよりもファミレスの方が長居できるだろうと目星をつけ、比較的空いている店舗を選び中に入る。
金曜の夜だからもっと混んでいるかと心配したけれど、遊ぶ場所が近くにないせいか比較的空いていた。
食欲はあまり無かったためドリンクバーとサラダを頼む。
眠くなるのを防ごうと温かいカフェオレを持ってきてバックの中から本を取り出し読書を始めるものの、スマホが使えれば時間も潰せるのに、と空と先輩のことを少し恨めしく思い、やっぱり本を持ってきて正解だったと自分を慰める。
時間はゆっくり過ぎていく。
サラダは少ししかないのになかなか食べ終える事はできず、カフェオレをチビチビと舐めるように飲む。
繁華街から外れたファミレスは人も少なく、居心地は悪くない。
このまま朝まで過ごすことができるかもしれない、そんな風に思っていたのに18歳以上には見てもらえなかったようだ。
「高校生は22時までとなっておりますので」
22時での退店を促され、仕方なく重い腰を上げる。下手に人の多い場所に行って補導されるのも困るので家に向かうしかないだろう。
先輩が帰宅している事を願いながら家に向かうけれど、足取りは重く、胃も痛くなってくる。
「帰りたくない」
口に出してしまうと明確になる自分の気持ち。普通に歩けば30分くらいの距離なのに、歩いても歩いても辿り着けない気がしてくる。
どこか身を寄せることのできる場所がないかと考えるけれど、どれだけ考えても行く場所が見つからない。友人はいないし、かつて友人だと思っていた人たちに下手にメッセージをしたらすぐに空に連絡が行くだろう。
父も母も末っ子だったせいで従兄弟は歳が離れているし、祖父母宅はこんな時間に行くには遠すぎる。そもそも、祖父母にしても両親の兄弟姉妹にしても、僕と空の扱いを見かねて注意するようになってからは疎遠になっているせいでこんな時に気軽に連絡はできないし、そもそも連絡先すら知らない。
「帰りたくない」
自分でも呆れるくらいに帰る事を拒否する心は同じ言葉を繰り返させる。
言ったところで行くところもない。
何も考えず時間を過ごすには僕は小心者すぎる。補導をされて将来の可能性を狭めたり、自分の行動を制限されるのはごめんだ。
「海」
そんな風にグズグズと歩いていた僕を誰かが呼んだ。
「何でスマホの電源切ってるの?」
声の主は空だった。
僕の姿を認め、何処かに連絡をする。
「切ってない。
電池切れ」
見つかってしまった以上帰るしか選択肢はないため僕の足はスピードを上げる。
「先輩も心配してるんだよ」
「何で?」
無視しようと思ったのについ聞いてしまった。僕を置き去りにして空と付き合った先輩が僕を心配する理由なんて無い。
「だって、出会うきっかけをくれたのは海だから」
その言葉に聞かなければよかったとため息しか出ない。
なるべく空と並ばないように足を速めたつもりでも身長の差があるせいか、全く差がつかない。そして、僕と並びながら言葉を続ける。
「何処にいたの?」
「誰かと会ってたの?」
「食事は?」
色々と聞かれるけれど答える気はない。
「海」
そして聞こえてきた空とは違う声。
「心配した」
駆け寄ってきてかけられた声に嫌悪しか感じない。どの口がその言葉を吐くのかと思うけれど、それを言葉に出す気はない。
2人して何をしていたのか、何処に行っていたのかと煩いけれど、僕の安心できる場所を奪い、見せつけるかのように身体を重ねている2人に言われたくない。
無言のまま帰宅して、無言のまま部屋に向かう。
「食事は?」
「お風呂は?」
しつこく聞いてくる空を無視して部屋に入る。
「おやすみ」
食事もいらないし、お風呂に入る気もないと拒絶するための精一杯の言葉。
僕の拒絶にこれ以上何を言っても無駄だと思ったのだろう。
時折聞こえてくる声で先輩がまだ隣の部屋にいることは分かったけれど、イヤホンで好きな音楽を流してその存在を無いものだと思い込む。
父や母が帰って来る前には先輩は帰るだろうと、念のために翌日は昼過ぎまで部屋から出ないようにした。
これが夏休み前の出来事。
この時のことを気にしてなのか、両親が遅くなる時に先輩が来ることがあっても、両親が帰宅できない時に先輩が来ることは無くなった。
先輩が泊まる事で、僕がまた同じ行動を起こすことが気に入らないのだろう。
見せつける相手がいないと張り合いがないのかもしれない。
空の嬌声を聞いても、先輩が空を慈しむ声を聞いても僕の心は全く動かない。
触れたいと思う気持ちも、触れられたいと思う気持ちも嫌悪の前に枯れ果ててしまい、何を見ても、何を聞いても僕の身体は反応することすら無くなってしまった。
空と先輩の関係はその後も続いているけれど、どうでも良かった。
僕の目には空も、先輩も、映ってはいるのだろうけど見えてはいない。
両親の前で兄を強要されれば空の事が見えるようになるのだけれど、一歩外に出てしまえばその存在は認識できない。
2人の存在が僕に見えないようになってからは無理に帰宅時間を遅らすことはやめた。
存在しない相手に気を使う必要は無いため調べたい事があれば図書室に行くし、そうでなければ帰宅して勉強の時間に使う。
図書室に行くと誰かに呼ばれたような気がして、それなのに顔を上げても誰もいないという事が何度かあったけれど、進級するとそんなことも無くなった。
「先輩と別れた」
久しぶりに聞いた空の言葉は僕にとってどうでもいい内容だったけれど、その日から外でも空の姿を見かけるようになったんだ。
17
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる