幼馴染は僕を選ばない。

佳乃

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智充

身勝手な独りよがりと自己完結な自分勝手。

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「俺も郁哉と話すまではただ事実を受け止めて、今までと変わらない付き合いを続けてくれるだけで良かったのにって思ってたんだけど、そうじゃないんだよな?」

 確認するように郁哉に聞いてみる。

「そうだね、それは無理だと思う。
 智充だって、仲のいい女子が『私、恋愛対象が同性なんだよね』って急に言ったら『そうなんだ』ってその場では答えても次から何もなかったように接するのは難しいんじゃない?
 女子同士で話しててもあの中に好きな人がいるのかなって思わない?
 体育の着替えの時にどんな気持ちなのかって想像しちゃわない?」

「着替えとか、想像しないしさっさと着替えて出てくし」

「だから客観的に見てだってば」

「そう言えば智充、着替え早かったな」

 2人の呑気な声が腹立たしい。

「それだって、蒼眞君の立場に当てはめたら智充が誰かと話してたらその中に好きな相手がいるのかもって気になるし、着替えの時にどんな気持ちなのかって気になったとしても不思議じゃないし。
 蒼眞君にしてみれば男子の中に女子が1人紛れ込んでるくらいの感覚だよ、きっと」

「それって郁哉にも当てはまるんじゃないの?」

 苦し紛れの言葉に郁哉が苦笑いを浮かべる。

「僕の場合はまた違うかな。
 恋愛の相手が晴翔だっただけで、同性を恋愛対象として意識してたわけじゃないし。
 そもそも同性の晴翔のことを好きになったのも義務感と後ろめたさからだったし。だから離れてくれた時は少しホッとしたって言うのが本音?
 少しずつ僕から気持ちが離れていってるのは気付いてたけど、義務で好きでいないといけないって思い込んでただけだったみたいだし。
 駄目になった時にはまだ晴翔のこと、好きだったはずだけど悪あがきしようとも思わなかったし、このまま離れようとしか思えなかったし。
 それこそ思い込みで好きだと思ってただけだから洗脳が解けたみたいな?
 だからって今更女の子のことが気になるかって言われたら…バイト先にも女の子いるけど恋愛対象として見ることはないかな。
 
 あ、だけど晴翔は僕がみんなの前で着替えるのは嫌がったし、僕が晴翔以外と仲良くするのは嫌がってたよ」

「対照的だな」

「その辺が駄目になった理由かもね」

 2人の温度差が関係を駄目にしたのか、それとも別の理由があったのか。その辺は郁哉にも分かっていないのだろう。

「理由、知りたいとは思わなかったの?」

「今になって思うかな。
 他に好きな人ができたのは仕方ないけどその前にもう気持ちは離れてたんだよね、きっと。でも僕には引け目があったから気付かないふりして好きにさせてた」

「嫌じゃなかった?」

「嫌だったけど、僕の都合で晴翔の進路を決めさせたって負い目があったし。
 だから好きな人ができたから別れようって言われたら、もしかしたら普通の幼馴染に戻れてたかもとは思うよ」

「それ、無理じゃない?」

 俺ほど郁哉の事情を知らない蒼眞は不思議そうな顔をするけれど、事情を知っている俺には少しだけ納得できる話だった。その場合、郁哉の性格からして遊星君を徹底的に避けるだろうから一方通行の想いしか生まれないのだろうけど、郁哉が地元の友人との縁を断ち切って進路を変えることはなかったかもしれない。

「多分、僕の気持ち次第だよ。
 晴翔、馬鹿だったから」

 時間が経ち郁哉の中でも気持ちの変化が出て来たのか、〈晴翔〉に対してはじめに話してくれた時の刺々しさは薄れているように見える。

「でもそうしたら俺たち知り合えなかったってこと?」

「………そうかも」

「それはそれで淋しいな」

「じゃあ、これで良かったんだよ」

「ちょっと、2人で完結しないでくれない?
 俺と智充の話だったはずだけど」

 俺たちの話を聞きながら何か考えていた様子の蒼眞が拗ねたように言ったせいで、何となく場が和む。

「そうそう、僕じゃなくて2人の話。
 じゃあ僕帰るから2人で話したら?」
 
「えっ?」

「困る」

 俺と蒼眞が同時に言ってしまい郁哉が苦笑いを見せる。

「智充、ごめん。
 俺は智充の言葉を受け入れて、理解してるのにお前が勝手にいなくなった事に腹を立てて。だから俺は理解してるからって言いに来たつもりだったけど、多分郁哉君に言われた【理解して受け入れる俺】のふりをしてただけなんだと思う。
 俺なりに気を遣って接してるのにふざけるなって、正直そんな気持ちもあったし」

 俺の目を見てそう言った蒼眞は今度は郁哉を見て頭を下げる。

「俺は智充とは前みたいな関係っていうか、休みの日には遊んで、馬鹿な話をしてってそんな関係に戻ることができるならそうなりたいと思って会いに来たけど、それは無理なんだよな?」

「そうだね。
 完全に同じようには戻れないと思うよ」

「だからどうしたらいいのかを教えて欲しい。2人で話したらきっとまた拗れるだろうし、智充は言いたいことを飲み込みそうだから一緒に話を聞いて欲しい」

「え、面倒臭い」

 苦笑いの郁哉がどこかで聞いたようなことを言い「学食は一緒に行けないけど晩飯代ぐらいなら俺が」と蒼眞が言って笑わせる。

「いいもの食べさせてくれる?」

「財布と相談させてくれ」

「この辺、ファミレスとコンビニくらいしかないけどね」

 正直、蒼眞と2人でちゃんと話ができるのか不安だったから郁哉がいてくれるのは心強い。
 結局、ファミレスで話すような内容ではないからとコンビニで適当に食べたいものを買い込み部屋に戻る。
 3人で行ったコンビニで「蒼眞君の奢りだもんね~」と言いながら食べたいものをカゴに入れていく郁哉はおにぎりとかパンとか、〈いいもの〉と呼ぶにはふさわしくないようなものばかり入れて蒼眞を苦笑させる。

「智充は自分で払えよ」

「バカ、俺の分は宿泊費だろ?」

 と言えば「泊まっていいのか?」と嬉しそうな顔を見せ、「雑魚寝だからな」と答えれば「僕は泊まらないよ?」と郁哉が口を挟む。
 夜食用に好きなお菓子買っていいから、と言えば「お菓子ならバイト先で買った方が安かった」とブツブツ言いながらもいくつかのお菓子をカゴに入れたから雑魚寝を受け入れたのだろう。

「で、智充はどうしたいの?
 蒼眞君は身勝手で独りよがりだったけど、智充だって自己完結で自分勝手だったんだよ?」

 部屋に戻り、それぞれ選んだものを食べながら郁哉が話を始める。その言葉に『お前もな』と思いながらもその言葉は飲み込む。それはまた別の機会に言えばいいことで、今日は俺と蒼眞の話だ。

「俺は別に。
 何も考えずに思わず言ったことだから、そのまま流してくれれば良かったんだけどね」

「それは無理」

「それは無理だよ」

 蒼眞と郁哉の言葉が重なる。

「そう思ったから離れたのに…」

「本当に離れたいならちゃんと親に口止めしておかないと。
 僕はスマホ解約するけど誰かから連絡あっても新しい連絡先は言わないでって伝えておいたよ」

 得意そうな郁哉が少し憎たらしい。

「そこまで考えてなかったし、覚悟も無かったんだよな、きっと」

 ここまで来た蒼眞と、ここまで逃げた俺の覚悟が違うと郁哉は言ったけど、俺の覚悟はまだまだ甘かったと思えるほどの郁哉の潔さは今日改めて感じた。
 覚悟を決めてこっちに来たつもりだったけど親は地元にいるのだし、親同士だって近所で繋がりがあるのだからどこかでまた繋がるだろうと思いもしていた。
 その繋がった時にいつかみたいに笑い合えればそれでいいと思っていたけれど、それはそれで自己完結だったのだと郁哉の言葉で改めて自覚する。

「別に蒼眞に自分の気持ちを受け入れて欲しいとは思ってなかったし、蒼眞と付き合いたいとかも思ってなかったんだけどね」

「そうなの?」

「そうだね。
 蒼眞のことは好きだけど、何だろう。
 理想っていうか、憧れっていうか。
 蒼眞がストレートなのは知ってるんだからそんなことは考えてなかったよ。
 ただ〈そういうものだ〉って受け入れて、少しだけ気にしてくれたらよかったって言うか…」

「少しだけ気にするって?」

「それこそ、みんなと話してる時に女の子と名前が出ると『好みなの?』って聞いたりするだろ?
 あんな感じでって思ったけど…。
 そうだよな、同性が恋愛対象だと友達と話してるだけで『好みなの?』って聞かれてもそれはそれでムカつくかも」

 自分で言っておいて何て高度な要求をしていたのだろうと少し呆れてしまう。
 信用してカミングアウトしたのにと傷付けられたと思っていたけれど、俺の態度で蒼眞のことを傷付けていたのかもしれないと今日の話でやっと気付かされる。

 蒼眞は身勝手で独りよがりだったけど、俺だって自己完結で自分勝手、そう言った郁哉の言葉は正論だ。

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