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after that
大輝 1
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不安そうな紗凪を嗤うかのように着信を知らせたスマホにふたりの視線が集まる。
【母】
そう表示された画面から目を逸らし、縋るようにオレを見た紗凪は「出たほうがいい?」と問いかける。
これでいい。
これが紗凪以外の誰かなら、そんなことは自分で考えろと突き放すだろう。
もしこの状況の相手が彼女だったら、そんなことを考えてみるけれど、面倒ごとはゴメンだとしか思えなかった。
「とりあえず、留守電聞いてからの方がいいと思う」
本音を言えば、電話に出て傷付けられてしまえばいいと思っていた。
予備知識のないまま傷付けられ、踏みつけられ、追い詰められれば楽な方に逃げるしかないだろう。だけど、話の展開がオレが望むようにならなかった時に紗凪に考える余地を与えたく無かった。
だからこそ、残されたメッセージで傷を抉るためにそう告げた。
電話が切れたことを確認してから留守電を呼び出し、残されたメッセージに耳を澄ませるのを黙って見詰める。
見守っているわけじゃない。
そんな優しい気持ちなんてない。
傷付いて、傷付いて、その傷口を広げる様子を具に観察する。
母からのメッセージは紗凪に傷を与えるものではなかったようで、そのまま紗羅が残したメッセージを聞き始ると少しずつその表情が曇っていく。
残されたメッセージは強い口調で紗凪を責めるようなものばかりだけでなく、あの時にふたりに起こったこと、そして、その後のあの人の行動を示唆するものだった。そして、紗凪に姉の元に向かうように強要した母がそれを容認していたような言葉。
「引っ越したって、貴哉が?」
ポツリと呟いた言葉であの人が引っ越したことを知らなかったのだと確信する。オレの知らないところで連絡をとっているとは思わないけれど、連絡を取らなくても入ってくる情報だってあるだろう。
引っ越しの話が出たとなれば次は子供の話になることをオレは知っている。だから、紗凪の表情の変化を注意深く見詰める。
紗羅の強い言葉に眉を顰め、不可解な言葉に怪訝な表情を見せる。
そして、怪訝な表情を浮かべてスマホを耳から離す。
「子供?
子供って、子供だよね?」
予想通りの反応に笑いそうになるのを抑え、次の言葉を待つ。
「子供って、誰の?」
この流れで義兄の子供だということはあり得ないだろう。それに、貴哉にあそこまで執着している紗羅が彼以外の子供を孕むとは思えないし、彼以外の子供を孕んだとしてもそれをわざわざ伝えるとは思えない。だって、貴哉の子供だからこそ、紗凪にマウントを取ることができるのだから。
「誰って、あの人の?」
そう思いながらも態とらしく返事を返してみる。当然あの人の子供なんじゃないかと答えることは簡単だけど、あっさり納得させるよりも考えて考えて、癒えたはずの傷を再び開き、彼から与えられた傷を再認識させるのも悪くない。
「なのかな、」
オレの思惑通り曇っていく表情。
「子供、できたんだ、」
納得するしかないけれど、それでもまだ半信半疑なのだろう。
男性不妊が原因で別れたはずなのに貴哉の子供を身籠ったとなると、全ての事象が意味のないものに思えてきてしまう。
別れる必要はなかったのに。
そうすれば紗凪と貴哉があんな関係になることもなかったし、あの家から紗凪を追い出すようなことをする必要もなかった。
あの家から紗凪が出なければ、貴哉に心も身体も傷付けられることもなかったし、紗羅との関係ももう少し違う形になっていたかもしれない。
考えたところで全てのことが今更なのだけれど、考えないまま終わらせることはできなかった。
「貴哉の子なのかな?」
「お義兄さんの子ではないだろうね、きっと」
「だよね。
でも貴哉の身体のせいで別れたはずなのに、」
「それ、どうなんだろうね。
絶対出来ないのか、出来にくいのかでも違わない?」
紗凪の言葉を否定せず、会話を誘導する。【出来ない】と否定せず、その可能性を提示して、あの日にあったことを想像させる。
「治療すればって聞いたけど」
「治療しないと可能性はゼロってわけでもないんじゃない?
ゼロに近いってだけならゼロじゃない」
本当のことらは分からないけれど、お互いに身体的に問題がなくても子供のできないカップルだっているだろう。
それとは反対に問題があったとしても相手が違えば子供ができることだってあるかもしれない。
別れる前のふたりの関係がどうだったかなんて知る由もないし、興味も無い。
だけど、ゼロでは無い可能性に賭けたとすれば、今、紗羅に宿った命は彼女の執念と妄執が産み出したものなのかもしれない。
「でも、なんで今なの?」
「半年くらい?
あれから」
確かに妊娠が確定した時に連絡を取っても不思議ではない。むしろ、確定した時点で連絡をしてくる方が自然だろう。
半年、とまではいかないけれど半年近く経った時間の間に季節も移ろいでいる。
もしももっと早く貴哉に会いに行けば、あの部屋に住んでいたかもしれない。
「妊娠って、そんなに経たないと分からないなんてことないよね?」
紗凪もオレもパートナーの妊娠に直面するような機会も無く、身内の妊娠だって詳細に知ることはない。だけど、半年も妊娠に気付かないなんてことは考えにくいだろう。
ドラマや漫画で【妊娠3ヶ月】というワードが使われることだって多くあるから、きっとそのくらいで判明するのが一般的なのではないかと知識がないまま考えてみる。
「何がどうなってるの?」
「よく分からないけど、あの人と連絡が取れないんだろうね」
留守電に残されたメッセージから推察すると、妊娠を告げるためにふたりが暮らす部屋を訪れたものの、紗凪どころか貴哉までおらず、その行方を追っていたのだろう。
ふたりで思ったことを言い合い、何が起こっているのかを推測する。
直接貴哉に連絡をしないで紗凪に連絡をしてきたのは何故なのか。そんなことを考えて、わざわざ親のスマホを使った理由を考える。自分のスマホを使ってしまうと出ないかもしれないと警戒してなのかと考え、そもそも紗羅の昨日の行動を知らない紗凪がそんなことを考えることはないだろうと考えを改める。
そうなると何らかの理由で自分のスマホが使えなかったのだと考えるのが妥当だろう。
事故の衝撃で壊れた可能性だってあるし、単純に充電が切れただけなのかもしれない。
「結局、子供ができたことを伝えにきたのにあの人がいなかったってことなんだろうな。あの様子だとあの人の部屋に行った後で事故に遭ったってことか」
「たぶん、そうなんだろうね。
でもボクを探すのは何でなの?
まだ貴哉とボクが一緒にいると思ってるのかな」
「みたいだな」
「連絡取ってなかったのかな?」
当たり前の疑問を口にした紗凪は何かを考え込み眉間に皺を寄せる。
紗羅が妊娠したというのならばお腹に宿った子供の父親は貴哉なのだろう。そうでなければ彼女の行動はただの奇行になってしまう。
そして、貴哉が父親なのだとすれば、間違いなくあの時に宿った子供なのだろう。
紗凪を捨て、紗羅を選んだあの時に何もなかっただなんて紗凪だって思ってはいないだろう。だけど、その行為があったはずだと思っていてもそれは確定ではない。
きっとそうだったはずだと思いながらも、心のどこかでは行為はなかったのではないかと淡い期待があったかもしれない。
知らなければ無かったことにできることもある。
だけど、知ってしまえばそれは確定されてしまうのだ。
「姉さんの勘違い、ってことはないよね」
「お母さんの様子を見ると本当なんだと思うよ」
「でも、貴哉の子供ならもっと早くに分かってたんじゃないの?」
「そう思うけど、」
もしもお腹の子供が貴哉の子供ではないとしたら、そんなことを考えているのだろう。だけど、自分が今まで見聞きしてきた紗羅という女性は、紗凪を傷付けるために貴哉以外の子供を孕み、嘘を吐くような女性には思えない。
だって、貴哉の子供でなければ紗凪を傷付けることはできないのだから。
「こっちから連絡した方がいいのかな?」
考えても考えても結論は出ないのだろう。
冷めたお茶を口にして不味そうな顔をした紗凪は、救いを求めるようにそんな言葉を口にする。自分で結論を出すことから逃げ、楽な方に逃げようとしているのだろうか。
「下手にかけてお姉さん出ても怖いから待ってたら?」
だから、紗凪が満足するような甘い言葉をかける。
時間を見れば通常なら連絡を差し控えるような時間だ。きっと電話をかけた時に出るのは母親だろう。
もしかしたら緊急連絡用として母親のスマホを置いていくかもしれないけれど、入院中に何かあればナースコールをするのが普通だし、ナースコールで対処できないようなことだとしたら母親に連絡をしたところでどうにもならないだろう。
「とりあえず、シャワーでも浴びてくれば?」
このままソファーで寝る気もない。
いつもならとっくに寝支度を終えている時間だ。湯船にお湯を張る気になれず、紗凪を促し、その間に片付けをしておく。
スマホに着信を告げる表示も、メッセージが届いたという表示も無い。
「電話、かかってきた?」
身支度を整え、部屋に入ってきた途端にそう言った紗凪に「かかってきてないよ」と答え、オレもバスルームに向かう。
きっと連絡は無いだろうと思うものの万が一を考えてしまい、短い時間でシャワーを済ませ、紗凪の元に戻る。
「電話、かかってきた?」
髪を拭きながらリビングに戻ったオレに「かかってきてないよ」と答えた紗凪は、濡れた髪を見て呆れながらもホッとした表情を見せ、スマホの画面を指差す。
今夜はもう、連絡は無いと思って良いだろう。
落ち着かない気持ちのままベッドに入り、身体を寄せ合う。
「明日また、連絡来るのかな」
ベッドに入ってもスマホが気になるようで、何度目かに確認した時にスマホを取り上げた。
「あの様子だと容体が急変するとか無さそうだし、何かあったら留守電に残すんじゃない?」
そう言いながら、紗凪の届かない位置にスマホを置く。正直なところ、紗羅の容態が急変したところで関係ないと思い、紗凪に気付かれないように電源を落としておいた。
翌朝、紗凪が目覚める前に電源を入れたけれど、母親からも、紗羅からも連絡は入ってなかった。
【母】
そう表示された画面から目を逸らし、縋るようにオレを見た紗凪は「出たほうがいい?」と問いかける。
これでいい。
これが紗凪以外の誰かなら、そんなことは自分で考えろと突き放すだろう。
もしこの状況の相手が彼女だったら、そんなことを考えてみるけれど、面倒ごとはゴメンだとしか思えなかった。
「とりあえず、留守電聞いてからの方がいいと思う」
本音を言えば、電話に出て傷付けられてしまえばいいと思っていた。
予備知識のないまま傷付けられ、踏みつけられ、追い詰められれば楽な方に逃げるしかないだろう。だけど、話の展開がオレが望むようにならなかった時に紗凪に考える余地を与えたく無かった。
だからこそ、残されたメッセージで傷を抉るためにそう告げた。
電話が切れたことを確認してから留守電を呼び出し、残されたメッセージに耳を澄ませるのを黙って見詰める。
見守っているわけじゃない。
そんな優しい気持ちなんてない。
傷付いて、傷付いて、その傷口を広げる様子を具に観察する。
母からのメッセージは紗凪に傷を与えるものではなかったようで、そのまま紗羅が残したメッセージを聞き始ると少しずつその表情が曇っていく。
残されたメッセージは強い口調で紗凪を責めるようなものばかりだけでなく、あの時にふたりに起こったこと、そして、その後のあの人の行動を示唆するものだった。そして、紗凪に姉の元に向かうように強要した母がそれを容認していたような言葉。
「引っ越したって、貴哉が?」
ポツリと呟いた言葉であの人が引っ越したことを知らなかったのだと確信する。オレの知らないところで連絡をとっているとは思わないけれど、連絡を取らなくても入ってくる情報だってあるだろう。
引っ越しの話が出たとなれば次は子供の話になることをオレは知っている。だから、紗凪の表情の変化を注意深く見詰める。
紗羅の強い言葉に眉を顰め、不可解な言葉に怪訝な表情を見せる。
そして、怪訝な表情を浮かべてスマホを耳から離す。
「子供?
子供って、子供だよね?」
予想通りの反応に笑いそうになるのを抑え、次の言葉を待つ。
「子供って、誰の?」
この流れで義兄の子供だということはあり得ないだろう。それに、貴哉にあそこまで執着している紗羅が彼以外の子供を孕むとは思えないし、彼以外の子供を孕んだとしてもそれをわざわざ伝えるとは思えない。だって、貴哉の子供だからこそ、紗凪にマウントを取ることができるのだから。
「誰って、あの人の?」
そう思いながらも態とらしく返事を返してみる。当然あの人の子供なんじゃないかと答えることは簡単だけど、あっさり納得させるよりも考えて考えて、癒えたはずの傷を再び開き、彼から与えられた傷を再認識させるのも悪くない。
「なのかな、」
オレの思惑通り曇っていく表情。
「子供、できたんだ、」
納得するしかないけれど、それでもまだ半信半疑なのだろう。
男性不妊が原因で別れたはずなのに貴哉の子供を身籠ったとなると、全ての事象が意味のないものに思えてきてしまう。
別れる必要はなかったのに。
そうすれば紗凪と貴哉があんな関係になることもなかったし、あの家から紗凪を追い出すようなことをする必要もなかった。
あの家から紗凪が出なければ、貴哉に心も身体も傷付けられることもなかったし、紗羅との関係ももう少し違う形になっていたかもしれない。
考えたところで全てのことが今更なのだけれど、考えないまま終わらせることはできなかった。
「貴哉の子なのかな?」
「お義兄さんの子ではないだろうね、きっと」
「だよね。
でも貴哉の身体のせいで別れたはずなのに、」
「それ、どうなんだろうね。
絶対出来ないのか、出来にくいのかでも違わない?」
紗凪の言葉を否定せず、会話を誘導する。【出来ない】と否定せず、その可能性を提示して、あの日にあったことを想像させる。
「治療すればって聞いたけど」
「治療しないと可能性はゼロってわけでもないんじゃない?
ゼロに近いってだけならゼロじゃない」
本当のことらは分からないけれど、お互いに身体的に問題がなくても子供のできないカップルだっているだろう。
それとは反対に問題があったとしても相手が違えば子供ができることだってあるかもしれない。
別れる前のふたりの関係がどうだったかなんて知る由もないし、興味も無い。
だけど、ゼロでは無い可能性に賭けたとすれば、今、紗羅に宿った命は彼女の執念と妄執が産み出したものなのかもしれない。
「でも、なんで今なの?」
「半年くらい?
あれから」
確かに妊娠が確定した時に連絡を取っても不思議ではない。むしろ、確定した時点で連絡をしてくる方が自然だろう。
半年、とまではいかないけれど半年近く経った時間の間に季節も移ろいでいる。
もしももっと早く貴哉に会いに行けば、あの部屋に住んでいたかもしれない。
「妊娠って、そんなに経たないと分からないなんてことないよね?」
紗凪もオレもパートナーの妊娠に直面するような機会も無く、身内の妊娠だって詳細に知ることはない。だけど、半年も妊娠に気付かないなんてことは考えにくいだろう。
ドラマや漫画で【妊娠3ヶ月】というワードが使われることだって多くあるから、きっとそのくらいで判明するのが一般的なのではないかと知識がないまま考えてみる。
「何がどうなってるの?」
「よく分からないけど、あの人と連絡が取れないんだろうね」
留守電に残されたメッセージから推察すると、妊娠を告げるためにふたりが暮らす部屋を訪れたものの、紗凪どころか貴哉までおらず、その行方を追っていたのだろう。
ふたりで思ったことを言い合い、何が起こっているのかを推測する。
直接貴哉に連絡をしないで紗凪に連絡をしてきたのは何故なのか。そんなことを考えて、わざわざ親のスマホを使った理由を考える。自分のスマホを使ってしまうと出ないかもしれないと警戒してなのかと考え、そもそも紗羅の昨日の行動を知らない紗凪がそんなことを考えることはないだろうと考えを改める。
そうなると何らかの理由で自分のスマホが使えなかったのだと考えるのが妥当だろう。
事故の衝撃で壊れた可能性だってあるし、単純に充電が切れただけなのかもしれない。
「結局、子供ができたことを伝えにきたのにあの人がいなかったってことなんだろうな。あの様子だとあの人の部屋に行った後で事故に遭ったってことか」
「たぶん、そうなんだろうね。
でもボクを探すのは何でなの?
まだ貴哉とボクが一緒にいると思ってるのかな」
「みたいだな」
「連絡取ってなかったのかな?」
当たり前の疑問を口にした紗凪は何かを考え込み眉間に皺を寄せる。
紗羅が妊娠したというのならばお腹に宿った子供の父親は貴哉なのだろう。そうでなければ彼女の行動はただの奇行になってしまう。
そして、貴哉が父親なのだとすれば、間違いなくあの時に宿った子供なのだろう。
紗凪を捨て、紗羅を選んだあの時に何もなかっただなんて紗凪だって思ってはいないだろう。だけど、その行為があったはずだと思っていてもそれは確定ではない。
きっとそうだったはずだと思いながらも、心のどこかでは行為はなかったのではないかと淡い期待があったかもしれない。
知らなければ無かったことにできることもある。
だけど、知ってしまえばそれは確定されてしまうのだ。
「姉さんの勘違い、ってことはないよね」
「お母さんの様子を見ると本当なんだと思うよ」
「でも、貴哉の子供ならもっと早くに分かってたんじゃないの?」
「そう思うけど、」
もしもお腹の子供が貴哉の子供ではないとしたら、そんなことを考えているのだろう。だけど、自分が今まで見聞きしてきた紗羅という女性は、紗凪を傷付けるために貴哉以外の子供を孕み、嘘を吐くような女性には思えない。
だって、貴哉の子供でなければ紗凪を傷付けることはできないのだから。
「こっちから連絡した方がいいのかな?」
考えても考えても結論は出ないのだろう。
冷めたお茶を口にして不味そうな顔をした紗凪は、救いを求めるようにそんな言葉を口にする。自分で結論を出すことから逃げ、楽な方に逃げようとしているのだろうか。
「下手にかけてお姉さん出ても怖いから待ってたら?」
だから、紗凪が満足するような甘い言葉をかける。
時間を見れば通常なら連絡を差し控えるような時間だ。きっと電話をかけた時に出るのは母親だろう。
もしかしたら緊急連絡用として母親のスマホを置いていくかもしれないけれど、入院中に何かあればナースコールをするのが普通だし、ナースコールで対処できないようなことだとしたら母親に連絡をしたところでどうにもならないだろう。
「とりあえず、シャワーでも浴びてくれば?」
このままソファーで寝る気もない。
いつもならとっくに寝支度を終えている時間だ。湯船にお湯を張る気になれず、紗凪を促し、その間に片付けをしておく。
スマホに着信を告げる表示も、メッセージが届いたという表示も無い。
「電話、かかってきた?」
身支度を整え、部屋に入ってきた途端にそう言った紗凪に「かかってきてないよ」と答え、オレもバスルームに向かう。
きっと連絡は無いだろうと思うものの万が一を考えてしまい、短い時間でシャワーを済ませ、紗凪の元に戻る。
「電話、かかってきた?」
髪を拭きながらリビングに戻ったオレに「かかってきてないよ」と答えた紗凪は、濡れた髪を見て呆れながらもホッとした表情を見せ、スマホの画面を指差す。
今夜はもう、連絡は無いと思って良いだろう。
落ち着かない気持ちのままベッドに入り、身体を寄せ合う。
「明日また、連絡来るのかな」
ベッドに入ってもスマホが気になるようで、何度目かに確認した時にスマホを取り上げた。
「あの様子だと容体が急変するとか無さそうだし、何かあったら留守電に残すんじゃない?」
そう言いながら、紗凪の届かない位置にスマホを置く。正直なところ、紗羅の容態が急変したところで関係ないと思い、紗凪に気付かれないように電源を落としておいた。
翌朝、紗凪が目覚める前に電源を入れたけれど、母親からも、紗羅からも連絡は入ってなかった。
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