私の存在

戒月冷音

文字の大きさ
48 / 168

第52話

しおりを挟む
「あの、申し訳ございません。
 これは、マルクス殿下とミシェルの婚約の打診…
 という、ことなのでしょうか?」
「はい。私共は、そう聞いております。
 その準備のために、国王陛下が一度、ミシェル様にお会いしたいと…」
「ですが数日前、王妃陛下が娘を侍女にというお話で
 使者を送ってこられましたが、それはどうなりましたか?
 私共は、その話だと思っておりました」
「はぁ!?そんな話は、王宮では全くでておりませんが…」
「出てない!?」

あの王妃は、自分でかってに侍女にするための使者を、送ってきた…ということになる。
お父様を見ると眉間に血管が浮かび、わなわなと怒りをあらわにしている。
「お父様、落ち着いてください」
「しかしなぁ、ミシェル。勝手なことをされては困る」
「それは理解しております。
 あの方の思いつきに、いちいち私達が対応する必要はない…
 ということだと、私は思います」
「そうか…」
「ですが、王妃様の事は、こちらの方にきちんと伝えて頂き、
 処理した後でないと、国王様からのご指示を、承諾しかねます」
私とお父様の会話を聞いていた使者の方は、私の言葉を聞き
「国王陛下のご指示を、後回しにされるのか?」
と少し怒り気味に聞かれた。
「いいえ。後回しではありません。王妃様に確認を取ってください。
 あの方が、ミシェルを自分の侍女にと言ってこられたのです。
 娘の体は、一つしかありません。
 なのに、第2王子殿下の婚約者と、王妃様の侍女など出来るわけがないでしょう」
お父様が説明すると
「王妃様の侍女…そんな話が…」
と悩んでしまわれた。

「ここは一旦持ち帰られて、国王陛下とお話ください。
 王妃様より、陛下を優先するのが私達の取る行動だとは存じておりますが、
 婚約者になって、教育を受け始めてから、侍女の話を持ち出され、
 娘を好き勝手に使われるという事も考えてしまうのです。
 …あの王妃なので」
「そこは…否定できませんね」
「ですので、出来れば、侍女への勧誘と、勝手な依頼をしないことを
 約束した文章を交わして、その後国王陛下にお会いする…
 という形にして頂けると、私達は助かります」
「あっ…あの、
 国王陛下にお会いする時、お母様もいっしょにいってもいいでしょうか?」
「それは、良いと思いますが。何故?」
「ぁぁ、あなたは知らないか。
 私の妻は前王妃の侍女だった人で、現王妃のことをよく知っているのだ。
 だから保険として、一緒に来てほしいのだろう」
「そう言うことでしたら、分かりました。
 では一旦持ち帰り、話を整理してまいります。
 先程言われた文章は、念書として作成しお持ち致します。
 奥様も参加という形にして、陛下にお伝えして、日付は…」
「陛下の、御都合の良い日で」
「よろしいですか?」
「私よりお忙しいのは、陛下ですから」
「ありがとうございます。ではまた後日、ご連絡致します」

使者の方をお見送りして、私とお父様はぐったりと疲れた。
何でこんな事が重なるのか?…と考えたところで答えは一つしかない。
勝手に判断し、勝手に行動し…したいことをしたいように動く人が、一人いるだけで、こんなにもややこしいことになるのかと、改めて思い知った日となった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愚かな恋

はるきりょう
恋愛
そして、呪文のように繰り返すのだ。「里美。好きなんだ」と。 私の顔を見て、私のではない名前を呼ぶ。

この別れは、きっと。

はるきりょう
恋愛
瑛士の背中を見ていられることが、どれほど幸せだったのか、きっと瑛士は知らないままだ。 ※小説家になろうサイト様にも掲載しています。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。内容も少し変更しておりますので、あわせてお楽しみください。

勘違い

ざっく
恋愛
貴族の学校で働くノエル。時々授業も受けつつ楽しく過ごしていた。 ある日、男性が話しかけてきて……。

愛する人のためにできること。

恋愛
彼があの娘を愛するというのなら、私は彼の幸せのために手を尽くしましょう。 それが、私の、生きる意味。

【完結】あいしていると伝えたくて

ここ
恋愛
シファラは、生まれてからずっと、真っ暗な壁の中にいた。ジメジメした空間には明かり取りの窓すらない。こんなことは起きなかった。公爵の娘であるシファラが、身分の低い娼婦から生まれたのではなければ。 シファラの人生はその部屋で終わるはずだった。だが、想定外のことが起きて。 *恋愛要素は薄めです。これからって感じで終わります。

王子様の花嫁選抜

ひづき
恋愛
王妃の意向で花嫁の選抜会を開くことになった。 花嫁候補の一人に選ばれた他国の王女フェリシアは、王太子を見て一年前の邂逅を思い出す。 花嫁に選ばれたくないな、と、フェリシアは思った。

婚約破棄イベントが壊れた!

秋月一花
恋愛
 学園の卒業パーティー。たった一人で姿を現した私、カリスタ。会場内はざわつき、私へと一斉に視線が集まる。  ――卒業パーティーで、私は婚約破棄を宣言される。長かった。とっても長かった。ヒロイン、頑張って王子様と一緒に国を持ち上げてね!  ……って思ったら、これ私の知っている婚約破棄イベントじゃない! 「カリスタ、どうして先に行ってしまったんだい?」  おかしい、おかしい。絶対におかしい!  国外追放されて平民として生きるつもりだったのに! このままだと私が王妃になってしまう! どうしてそうなった、ヒロイン王太子狙いだったじゃん! 2021/07/04 カクヨム様にも投稿しました。

処理中です...